51話 秋の気配は何かの為に
「色葉葉月、貴方に【Nest】から頼みたいことがあります」
10月28日、突然呼び出しを受けた葉月は【Nest】本部に来ていた。葉月は学園の生徒であると共に【Nest】の階級を持っている。その為【Nest】の施設に来ることは珍しくない。広く捉えれば学園だって【Nest】の施設である。
だが今回は少し違った。
この人は開発部の人らしいが少し胡散臭い。葉月が普段交流のある開発部の人たちとは何か違う気がする。
「まずこの映像を見てください」
敬語で話しているのに相手のことを考えていない様な、酷く冷たい印象を受ける。
葉月は言われた通りに映し出された映像を見る。
なんだ?あれは炎?
いや、龍。
画面の向こうで紫炎を纏い龍が人型だった何かを貪る。
「これは……喰魔石ですか?」
「その通りです。そしてこれは第五回階級試験での映像です」
喰魔石は知っている。知っているが、何かが……
「使用者は津田伊織、特例三級の術師です」
津田伊織?……もしかしてあの動画の?
でもさっきの映像の炎とあの動画の炎は明らかに違う。
「此処からが本題ですが。青鷺学園文化祭2日目、津田伊織が青鷺学園内に入るとの情報を受けました」
現在【Nest】から津田伊織へ監視着けている。それは護衛の意味もあって【鳰】に正式につけられた部隊ではない。それ以外にも他の人員が当てられていた。
目的は二種の魔法を使う彼の次の行動からある事を実行する為。
実際、喰魔石の使用者で二種の魔法を習得させようとするも失敗している。秘密を知るために情報が必要だった。
だが今までは津田伊織の情報は皆無と言って良いほど得られなかった。
津田伊織の情報端末からの情報の取得を試みるが失敗。何故か守りが固く突破出来ないでいた。津田伊織にその手の技術は存在しないため少し調べていると日高蒼介の名前が上がった。こちらの情報は【Nest】の内部資料からなので相手側も防ぐことは出来なかったのだろう。
そして彼の交友関係から――例えば彼の通う学校の教師、生徒、そして交流が一番深いであろうクラスメイトからだ。だが、予想と反してうまくいかなかった。津田伊織はこちらの行動を予測してか交友関係を絶っていたのだ。
普通ならあり得ない。学校生活を送る上で嫌でも人との関わりが生まれてくる。だが津田伊織はそれを一切持たず我々に情報を与えなかった。
だがつい先日、津田伊織が青鷺学園の文化祭に行くと言う報告を受けた。
「そこで引き出して貰いたいのです彼の喰魔を。通常、喰魔は宿主の命を守る際に力を貸すことがありますが、それ以外にもっと簡単に引き摺り出す、方法それは貴方の様に喰魔を持つ者との共鳴」
「――っ、ですがあれは!」
「夜夜田莉世、今回の最後のチャンスを逃せば来月にでも退学、そう聞いています」
いきなり飛び出した莉世の名前に葉月は驚く。
「そう言えば貴方は仲が良かったらしいですね。夜夜田莉世は今回の試験で不合格となった。本来ならギリギリ合格していた筈なのに」
「っ」
「そう、かの第5位が試験に飛び入り参加しなければ。どうでしょう?本来彼女は合格していた身、こちらのお願いを聞いていただけたら掛け合ってみますが」
この人が言っているのはあくまで掛け合うだけ確実に此処に残れるとは言ってない。
「あまりこう言うことを言いたくありませんが貴方もわかっているでしょう。彼女が最後のチャンスをもぎ取るのは難しいことを」
今回のランキングシステムの基準を考えると直接の戦闘になる最後の試験では莉世が一位になることはまず無い。そうこの人は言っているのだ。
「……わかりました」
最低だ。誰よりも彼女の勝利を信じているなんて思っていたのに。
「ではよろしくお願いしますね」
『青鷺学園高等学校一年、色葉葉月入場してください』
アナウンスが聞こえてきて席を立つ。何か寒く感じるが季節のせいだろうか。
だがそんな事は今の自分には関係のない事だ。
彼には少し悪いと思うけど。
それでも。
「ごめんね、手加減は出来ないよ」
『両者共に魔法やそれに準ずる術の行使、【Nest】に申請された武器の使用を許可します。模擬戦は両者どちらかが戦闘不能と見なされた時点で終了します。ではカウント』
『5』
『4』
『3』
『2』
『1』
『開始』




