50話 空気の読解力
「初めまして津田伊織君」
声をかけてきたのは白髪に金色の瞳を持つ少女だった。魔力を絶っていたので気配に気づけなかった。
「何故俺の名前を?」
「あの動画を見たんだ。君は結構有名だから。そっちは日高蒼介君でしょ」
あの動画と言うとアデゥシロイのやつだろうか?
「前から会ってみたいと思ってたんだけどこんな所に居るとはね。私は色葉葉月、よろしくね」
少女――色葉が差し出していた手を握る。そして離した手を何故か紗奈が握る。何故?
「仲良いんだね、君は確か紗奈ちゃんだっけ」
そう言えば紗奈の名前も洩れていたんだっけ?
「初めまして、月宮紗奈です」
「うん、よろしくね」
2人は握手すると色葉は他の皆とも握手をする。律儀だな。そして一呼吸おくと話し始める。
「さっきの話の続きだけど今戦っている人たちは1人を除いて来月には此処を出て行く人たち。そしてその1人はこの戦いで勝った者がなる。で、この人たちがどれくらいかと言うと私たち生徒の足元にも届かない存在」
キッパリとそう言う。
「厳しく言うとね。でも、皆んな努力してきたのも知ってるし、あの中に私の友達も居るんだ。だからあまり悪くは言いたくないけど。結果が全てだから。事実としてこの学園の現在のランキング5位は魔法が発現して三日後に【Nest】によって編入、そしてその翌日には今の順位を獲った人がいる」
魔法発現から4日でこの学校の5位になるのは可能なのか?今言っていたランキングのシステムがわからない以上断言は出来ないが異常なのは確かだろう。
「それでなんだけど彼らの闘いを見ていてもあまりこの学園の実力はわからないと思うんだ」
そう言って金の目がこちらを見る。
「だから私と一戦やらない?」
今戦っている彼らが簡単に退学にされてしまう程の学校。その第6位。弱いはずがない。
「……申し出を受けます」
「良いの?伊織君?」
紗奈に聞かれるが首を縦に振る。
「受けてくれてありがとう。でも終わるまで少し待っていて欲しい」
そして色葉はモニターに視線を移す。画面の向こうでは戦いが繰り広げられている。そう言えば友達がいると言ってたな。どの人だろうか?
そんな思考をかき消す様に歓声が鳴り響く。
「どうやら終わった様だね」
モニターから目を離さずにそう言った。そしてもう少し待っていてと残して歩いてった。
「友達がとか言ってた割に俺に闘う約束をしてきたな」
「……それは少し違うと思うよ、伊織君」
彼女が居なくなってから呟いた俺の言葉に紗奈はそう言った。
「葉月ちゃん負けちゃった」
少女――莉世は葉月に向かってぎこちない笑みで無理に笑った。
「ごめんね……葉月ちゃん、また、一緒に授業……し、たり……放課後、遊んだりしようって……約束、したのに……」
「謝らないで、莉世が頑張ってたのは私は知ってるから」
涙を堪えながら話す莉世の頭を撫でながらそう言う。
「まだ、チャンスはある」
莉世聞こえないほどの声で葉月はそう言った。
「ごめんね待たせて」
そう言って色葉は戻ってくる。
「それは良いんですけど、何処でやるんですか?」
模擬戦が出来る場所は限られているだろうし何より今は文化祭中、普段使われていない部屋まで使われる様なイベントだ都合よく戦える場所が空いているとも思えない。
「此処だよ」
「このフィールド使えるんですか?」
先ほどの試合だけでこの後此処が使われないとは思えない。
「うん、事前に許可は取ってあるからね」
用意周到だな。と言うか俺が此処にくるのは知らなかったはずだろ?
「じゃあ始めようか」
『――これから模擬戦を開始します』
俺はアナウンスを聞き流しながら準備を開始する。と言っても防具も着けないしすることと言えば首飾りから刀を取り出すくらいだ。
アデゥシロイの刀。いつも使っているのはThe日本刀みたいな見た目をしている方でもう片方の布でぐるぐる巻きの方は使う機会があまりない。
蒼介に鑑定してもらったがThe日本刀の方はアカイロノ。赤い布グルグルの方はアヤザミカミと言うらしい。
アヤザミカミの戦闘中に布を取るのが面倒臭いと思われるかもしれないが実際布は鞘に撒かれた部分と柄に巻かれた部分とで独立したものの様で布を解く必要はない。
何故使わないのかと訊かれれば今の技量では多分振れない、そう思ったからだ。それ以前にアカイロノも満足に振れる訳ではないが。
そろそろ誰かに習った方が良いとも思うが知り合いに刀を扱う人が居たかどうか……
まぁ、それは後で考えよう。それも大事な事だが今から闘う相手は此処の第6位、考え事して勝てる相手でもないだろう。
『【Nest】所属、特例三級津田伊織入場して下さい』
――さて
「行くか」




