47話 変えられないものと変わってしまうもの
紗奈が俺にもたれかかる様にして寝ている。ちなみにあれ以上はしてない。
それとあの「んんっ」は俺の声だ。すまんな。
紗奈の顔にかかる髪を指で退かす。
その紗奈の表情に思わず口角が上がる。
「お兄ちゃん、顔キモいよ」
「わふっ」
「な、」
いつの間にかいた詩に声をかけられる。
わっふると散歩して帰ってきたので今日は遅れた様だ。
「でも、お兄ちゃんが紗奈ちゃんと仲良くしてて安心したよ、紗奈ちゃんも大変そうだったし」
「わふ」
「……」
申し訳なさが凄い。実際、自分は男避けだと思っていたからな。
まぁ、でもこれで俺はリア充だ。
「お兄ちゃんまたニヤニヤしてるよ」
「おっと」
夕飯にて。
「そう言えば蒼介とネストのなんか学校?の文化祭の話しをしてたんだけど2人とも一緒に行くか?」
「わふっ?」
何でも一般の許可証とは違ってネストの許可証は所謂ペアチケット的な感じにも使えるらしい。
まぁ別にそう言う意味は含まれてなくただもう1人入れるよってものらしい。
「伊織君が行くなら私も行く」
「詩も行く!」
そう言えば中学生になってから外で自分のことを名前で呼ばなくなってたから久しぶりな気がするな。
「わふっ!」
わっふるも可愛く小さな手をあげる。お前本当に元狼なのか?
「わっふるもいくのか?でも、仮にもモンスターだし入れるのか?」
端末を取り出し詳細を確かめる。
「『登録された三級モンスターの入場は許可』確かわっふるも三級だったな」
「わふっ」
ネストに登録できるモンスターは少ないとされるが登録されたものの中でも危険度などが付けられている。
危険度は三つあり上から一級、二級、三級となっている。
そして今回の文化祭では三級のモンスターの入場は可能らしい。
三級はまず人間に対し危害を与えない契約の類をしているモンスターが指定されている。
が、それは前提条件だ。
二級以降は危険度以前に敷地内に入れたらパニックになる。
単純に見た目の問題もあって、大体三級に指定されるモンスターは従来の動物に似ていたり、何というかデフォルメされていたりする。
契約されてても見た目の問題で二級になる事もある。しょうがないとは言えどこに行っても見た目は大事らしい。
まあ、二級にも一級にもデフォルメされた奴はいる様だが。
ああいうのが油断した隙に攻撃を仕掛けてくるからな。
それはともかく文化祭に行くことが決定したのだった。
「なぁ、詩もゲート使えるのか?」
当日10月29日土曜日、俺たちはゲートを通るためにネスト支部に来ていた。
「確か招待した人なら一緒に通れるって聞いたけど。どっちにしても、もう、一つ目は通れてるんだから大丈夫なんじゃない」
「そうだな」
先ほど受付カウンターに招待されたであろう人たちがチラホラ見えたのでそこで手続きをしなければならないのかと気になっていたが違う様だ。
それにネストの人たちは勝手に同じネストの人たちと一緒に入ると思ってたので一般の人が結構いたのには驚いた。まぁ、これに限らずこう言う特権を持っていて家族を招待するのは珍しくないしな。
「お兄ちゃんたち!早くしてよ!」
「わふっ」
既に先行している詩に急かされる。わっふるはちゃっかり詩の腕の中にいる。
俺たちは少し早足になって詩に追いつく。
「そう言えば蒼介くんが言っていた後もう1人って誰なの?」
ふと、紗奈が口を開く。あの後蒼介からもう1人来ると伝えられていたが誰がとは聞いていない。
「ああ、その事ね、僕の彼女だよ」
癖で爆発させてしまいそうになるが今の俺はリア充そんな事はしない。
「その人とは現地集合なの?」
詩が蒼介に聞く。
「うん、そうだよ。家からゲートで現地に行ってあった方が早いからね」
「でも、一般の人はゲートの使用にはネストに所属している人と入らないといけないんじゃないっけ」
いくら招待場を持っていようとも確かそんなルールがあったような。
「その心配はないよ。彼女は青鷺学園の近くに住んで居るからね。だからゲートは使わないし」
ゲートを使う前提で話していたが確かに近ければ使う必要はないな。
「お兄ちゃんついたよ」
「わふっ」
いくつかのゲートを通り抜けると支部にでる。この支部は学校前に建設されていて外に出ればすぐに学校が見える。
「……でっけぇ」
思わず声が出てしまうが仕方ないだろう。およそ学校とは思えない敷地にたくさんの建物が見える。
「お兄ちゃん!行こ!」
「わふっ!」
詩とわっふるはそう言うが蒼介に止められる。
「ここで合流してする事になっているからちょっと待ってね。みんなは先に入っていてくれても良いけど」
そう言った蒼介の肩に手が置かれる。
「ごめんね、待たせちゃった?」
そう言って声をかけてきたのは俺らと同じ歳くらいの少女だった。肩のあたりで切り揃えられたミルクティー色の髪を揺らす。
「そんな事ないよ、僕たちも今きたところ」
うわすげえ。本当にこう言う事言うんだ。でもアレ?なんかみたことある様な?
「あ!ゆあちゃん!」
「久しぶり、ゆあちゃん」
「2人とも久しぶりだね」
ゆあ?2人は知ってるみたいだけど……こんな派手な髪色の子知らないし……でも2人が知ってるとなると俺も知ってるのか?確か小学生のころゆあって奴はいた。途中で転校しちゃったけど。なんか蒼介と仲良かったし俺も話したことある。
「伊織くんも久しぶりだね。覚えてる?私小学校同じで3年生の時に転校しちゃったんだけど」
本人だわ。髪も多分魔力なんたらの影響だし。
「覚えてるよ、髪色が変わっててびっくりしたけど」
「そうかな、私の周りには結構いるから慣れっこだったけど。そう言う伊織くんだって目の色あかくなってるじゃん」
赤くなってるとか言われると充血してるみたいだな。
「伊織は友達少ないし、周りにいるのが僕たちみたいに目の色くらいしか変わらないから珍しいんだよ。紗奈さんなんて髪と目は色の変化してないからね」
今友達いないって煽られたのか?いるし。最近学校で喋れる人出来たし。
「伊織くんのそう言うところは変わってないんだね」
そう言ってゆあ、もとい桜庭ゆあは笑った。




