41話 【狐】
タドルは一番早く話しかけてきてくれた。
そんなタドルはベッドの上で瞼を閉じ身動きひとつしない。
「くそ」
とても長いとは言えないがイセホは【鳰】の部下になる前も【Nest】自体には所属していた。
だから、モンスターとも闘ったしその過程で何度も殺した。
だから知ってると思っていた。
闘うと言う事を。
自分は既に覚悟ができているものだと。
そう思っていたのに。
目の前で血を流しているのを見て何もできなかった。
結界を張っているから、動けないとかではなく、そんな事は関係なしにあの場で自分は何もできなかった。
そして自分だけ当たりどころが良くて助かってしまった。
「――っ」
ドアが開く音がするが動く気になれない。
「……イセホ、何があった?」
その声を聞いてやっとシタバである事に気づく。
タドルの事を聞きつけて来たのだろう。
「すまん」
作戦を教えられなかった事。
置いて行ってしまった事。
そして何より目の前にいながら何もできなかった事。
「おい、話聞いてたか?何があったか聞いてるんだけど」
シタバの方へ顔を向けると呆れた様な目でこちらを見る。
「責めないのか?」
「いや、何でだよ?俺その場にいなかったし、それにいても何もできなかった。例えば結界を張ってアデゥシロイの動きを止めるとかな」
力不足で呼ばれなかったことくらい自分で分かってるし、イセホが結界を張って貢献したのも知っている。
本当は既に聞いていた。
それでも、イセホから聞かなければならないと思った。
だから此処に来たのだ。
そして、イセホは話した。
上手く話せたかは分からないけどとにかく全部話した。
「……話に入りにくいんだがちょっといいか?」
イセホにとってもう喋らないはずのタドル。
「あ、起きたんですね」
シタバにとってそろそろ起きるであろうはずのタドル。
「え?どう言うこと」
「俺思ったんだけど、イセホ、お前思い込みとかすごくないか?シタバがお前の話聞きながら真顔を保つの大変そうだったぞ」
特にタドルが死んでしまったと言い出した時はマジかコイツと言う顔で見そうになった。
ちなみに説明はイセホにもされている。単にコイツが聞き逃しただけだ。
「てっきり俺はイセホがミスを気にしてるのかと思ってたのに。と言うかさっきの『明日からも、三人でよろしくな』の部分だけど作戦が終わったらまた元に戻るだろ」
「俺はてっきり作戦が終わってからも結界を張らされるのかと」
「いや、張らせられるけど。というかお前元から結界を張るのは決まってただろ。その上で三人で行動してたんだから」
入った時には任命されていたしその上で三人で行動していたはずなのだが。
マジで大丈夫なのだろうか?
「それでだが奴らのこと分かったか?」
「うーん、多分こいつらじゃないかなぁ?」
【鳩】がモニターに資料を映す。
「【狐】?」
「組織名かのぉ?」
「おじいちゃん、しっかり横に組織名:【狐】って書いてあるよぉ」
「でも奴ら何処であんな力手に入れたんでしょう?」
【鶯】は疑問を抱く。資料を見る限りあまり情報は多くない。
「ダンジョンを持ってるとかそんな所だろうが」
【Nest】に見つからない様にダンジョンを所有して力を手に入れている事も考えられる。
「のう、もっと前からと言うのは考えられないかのぉ?」
【鵲】の言葉に皆が耳を傾ける。
「もっと前からだと?そんなことあり得るのか【鵲】の爺さん?」
「別に無くはないじゃろ、実際、あの日以前から魔法なんかを使える個人、組織は【Nest】意外にも現存していたじゃろ。仮に奴らがそこまでの実力を持つものでなかったのだとしてもあの日初めて魔法に触れた人間が相当な力を手に入れられる様な世界じゃ、奴らがそれ以前から知識を持っていたとなれば難しいこともなかろう」
確かに実際新しく力を獲得した者が急激に力をつけている事は事実だ。
最近の話だと徳備多々良なんかが該当するだろう。
それに加えて知識を持っていれば……
「とにかく、情報を集める必要がありそうだな」
何か終わってもまた何かしら仕事が増えるな、などと思う。
「わふっ」
玄関先で元気の良い鳴き声が聞こえる。
「お前は連れて行けなかったからな」
【Nest】内に入る事は許可してもらっているため可能だが今回は試験だったので留守番してもらっていた。
よしよしと、紗奈に撫でられる。
おい、わっふる、何故お前は俺を見向きもせず紗奈の方へ駆け寄った?
まあ、気持ちはわかるが。
「あれ、お兄ちゃん帰って来てたの?」
後ろから声をかけられて声が出そうになる。
「何で後ろから来るんだ?おまえ」
「たって、外出てたんだもん」
「あの〜、みんな中入ろうよ」
言いにくそうに蒼介が言った。




