37話 経験者でないとわからない事もある
「結界を見る限り一番やりやすそうなのは北西だな」
「北西ですか?」
「そうだ、結界術の練度を見れば何となくはわかる。だがそもそも幹部が二人も揃っている中で相手取るのは無謀だ。ホウ、行くぞ」
「はい!」
ホウは元気よく返事をする。
「あーやだな」
作戦説明の際のスキタの説明を思い出す。
どうやら結界の術者の技術力はその結界を見ればある程度わかるらしい。
だから例えば外部からの人間が何らかの理由でここに攻め入ってきたとき、そいつらの目的が結界の破壊だった場合真っ先にここに来る可能性が高いらしい。
そして先ほどの侵入者の知らせ。
どうせ動けないなら教えてこないでほしい。
いや、でもいきなり来てびっくりして動くのもまずいのか?
「何でこんな役俺が」
指名されたからには全うする気ではあるがつい愚痴を溢してしまう。
「イセホ、大丈夫だ。俺が守ってやる」
今回自分を守ってくれるらしいタドルさんが励ましてくれる。
「あ、ありがとうございますタドルさん。すみません愚痴ばっか言って」
せっかく守ってもらっているのにぶつぶつ言うのは失礼だろう。
守ってる側も嫌になってくる。
気を引き締めよう。
「イセホ、敵がここに近づいてるらしい」
「うぇ?」
マジかよどうしよう。
「北西だとするとこの建物あたりか」
この結界は方角の指定もはあるがそれに加えて多少の距離の条件はある。
そうなってくると大体当たりをつける事が可能だ。
「範囲状の建物はここだけです」
「そうか」
「やばくないですか?」
「ああ、そうだな」
いや、そうだなじゃないでしょ!
いや、そうだけど!
「ホウ、やれ」
「わかりました」
建物に手を添える。
ホウの右手に魔力が集まっていく。
右手は熱を発し光を放つ。
「……」
今際できるだけ喋らない様にしよう。
後でバレたとかだとまずい。
「はぁっ」
右手から収縮された魔力が放たれる。
魔力は光線になり放たれる。
何か少し暑い様な。
「何か音が聞こえ――」
建物に大きな風穴を開ける。
「終わりました。阿木さん」
「あぁ、これで結界は……なに!?」
後ろを振り向くが消えていない。
「うわ、ビビったぁ。揺れエグ」
「気を抜くなよ」
ここで動いたら意味がない。
「阿木さん!これは!?」
阿木が結界を見て、遅ればせながらホウも見る。
結界は消えていない。
隠蔽系の術を掛けていたとしても確実に建物に居ればタダでは済まない筈だ。
「……そうか、地下か」
阿木の呟きに命令される前にホウが地面に手をつく。
「いや、その必要はない」
阿木が地面に張り付いている変形した鉄板を蹴り上げる。
「これで終わりだ」
直ぐに顕になった穴目掛けて拳銃を抜き引き金を引く。
「見つかった!?」
「銃如きでやられると思うか?」
撃たれれば怪我こそするが生身の人間ほど簡単に死なない。
それにこの場所は魔素が残っている。
その為弱体化なんて事もない。
イセホを落ち着かせる意味もあってあえて口に出す。
阿木は興味なさそうに返す。
「死ね」
弾丸が放たれる。
見切れなくても盾で防げる。
タドルは腕を前に出し防――
「――グホッ」
何が起こった?
足元に血?
これは誰の血だ?
まさかイセホ?
いや、違う。
これは……
「……俺の血か?」
「た、タドルさん!?」
イセホがこちらに来ようとする。
「動くな!、動けば結界が解けてしまう」
イセホは我に帰った様にその場に留まる。
「ああ、言い忘れていたな。これはただの銃じゃないんだ」
阿木は疼くまるタドルを見ながら吐き捨てる様に言う。
阿木の使う銃はモンスターにも効く様に作られたものだ。
勿論、術者にも。
「アレなんじゃ?」
【鵲】は建物が消し飛んだのを見てそう言う。
「結界解こうとしてるんでしょぉ」
だが、探してる本人は地下にいるから見つけれないんだけどなどと思っていると。
「ちょ、やばくない!?、今の鉄板、地下のやつだよね?」
「わしが行ってくるかのぅ」
「行かせる訳ないだろ」
【鵲】の発言に卦都は返し攻撃をするが。
「結構まずいから邪魔しないでねぇ?」
「チッ」
【鳩】に阻まれ一歩引く。
「余裕かましてんじゃねぇぞ」
そこにジュウジの攻撃が襲い掛かるが難なくかわす。
「身体強化は使えないけどあまり舐めないでもらいたいんだよねぇ」
「次は術者だ」
阿木の宣告にイセホは内心逃げたいとまで思うがタドルが命を張って守ってくれた以上そんな事はできない。
阿木は再び引き金を引く。
だが。
「残念じゃったのぅ」
弾をいきなり現れた【鵲】に弾かれる。
「チッ幹部か」
弱体化してるとは言え幹部はやり辛い。
「ホウ、やれ」
「はぁっ!」
ホウが光線を放つ。
「魔力の塊か……」
このままでは不味い。
この魔力が不足している状況で余り使いたくはないが仕方ない。
刀に魔力を纏わせる。
そして刀を振り上げ、下ろす。
「なっ!?切った?」
ホウは思わず洩らす。
だが構わず阿木は引き金を引く。
「大丈夫だ、どうせ死ぬ」




