36話 意外と立場は関係ないこともある
大規模拘束術式"神縛結界"。
技の行使に必要な人数は最低七人。
理論上はそれで発動する。
だが、それでは碌に発動しない。
そのため【Nest】では実用化に移すため、技の行使の際、最低でも30人を必要とする。
そして外から術を壊すには?
「術の心臓部てある七人を探し出して一人でも排除すればいい」
「ですが、その七人はどうやって見つけるんですか?」
30人の中から見つけ出すのも大変だが今回の作戦では魔力供給要員も合わせればとてつもない数になる。
ホウはそんな疑問を持つがすぐに阿木が返す。
「いくら人数が多くとも結界を張るときは規則性にしたがい行使しなけらばならない。特定の道具、特定の動作、たとえば……」
「特定の場所だ」
「場所ですか?」
【鳰】が現場に来る少し前、作戦会議中新入りである伊勢穂は先輩にあたる鋤田に今作戦における注意事項を聞いていた。
イセホは元々シタバと一緒に【Nest】幹部である【鳰】の元へ入ったがイセホには人員が抜けたことや適性があったことから."神縛結界"の中核を担う七人のうちの一人に選ばれていた。
本来であれば仕事内容もまともに知らないイセホは此処までの重要な役には選ばれない筈なのだが【鳩】が直前にいきなり呼び出したことも重なって新人でありながら任命された。
そして作戦まで時間がないという状況でスキタは最低限覚えておくべき事を教えていた。
「先ず一番大事なことだが何があっても動いてはダメだ。その瞬間結界は破れる」
「何があってもですか?」
明確には何処までなのだろうかなどと考え聞き返す。
指は動かしていいとか体勢は崩してもいいとかそこが一番気になる。
「そう、何があってもだ。たとえ敵やモンスターが目の前にいても、攻撃してきてもだ」
この職場思ったよりヤバいのではないだろうか?
多少の危険は覚悟の上だがモンスターに食われる寸前まで――というか食われて死ぬまで動けないと言うのは辛すぎではないだろうか。
「だが、安心……は出来ないだろうが動けない者の元には最低限の人員がつく」
最低限?
最低限ってモンスターに勝つ事ができる最低限?
少ない人員のなかから何とか絞り出した最低限?
そもそも戦闘員が付くのだろうか?
魔力供給員が付くとかだったらどうしよう。
見張りくらいしか出来ないよな。
「モンスターが来ても守ってくれるってことですか?」
「まぁ、命懸けで守ってくれるだろうが、そこに入られた時点でその敵は相当に強いから先ず死ぬだろうな」
いや、ダメじゃん!
死んだらどうしてくれるの?
責任は――なんか同意書みたいの書いた様な……
そういえば遺書も書かされた。
どうしよ、何かそう言うノリだと思って適当なこと書いちゃった。
未だにシャンプーハット使ってるとか。
今思うと面白くないな……
いや、でも、見たとしても家族だけだし大丈夫だよね?
そもそも、使ってないことくらい知ってるもんな。
「よし、そうだ」
「どうした?」
いやでも、母さん何でも周りに話しちゃうからな。
シャンプーハットを使ってるなんて言わなくてもそんなことを書いてたって言いふらされたら……
ヤバい。
成仏できない。
「……しゃんぷーはっと」
「ん?しゃんぷ……どうした?」
スキタが心配そうにこちらを見る。
なんか憐れんでる様な。
もしかして……
「いや、ち、違うんです、シャンプーハットなんてつかってないんです」
「いや、何の話?」
「結界を張るときは東・西・南・北と・北西・南東・南西、あの人狼、つまり結界の中心からその七つの方位にいる筈だ、今回の結界の大きさからしてさほど居場所は遠くはないだろう」
「ではその中の一人をどうにかすればいいんですね?」
阿木に対しホウが言葉を返す。
「くっそ、量が多いな」
現在【鳰】は術の準備をしていた。
正確には術の補助と言った方が適切だろうか。
簡単に言えば【鳰】の術を増幅させる準備という方が正しいかもしれない。
それに先ほどのキタキの硝子による攻撃を考えるとやり辛い。
技を使われて下準備がダメになってしまうのは痛い。
それを避けるためコソコソ隠れながらやっているのだが。
【鶯】の方は大丈夫だろうか?
【鶯】は【鳰】同様作業をしながら進んでいた。
多分キタキは自分について来ているであろうと【鶯】は考えていた。
と言うか【鳰】がこちらに誘導した。
誘導と言っても直接教えた訳じゃないが。
どうせ準備が台無しになったらめんどくさいなどと思っているのだろう。
「俺も作業量変わんないんだけど」
はぁ、と一人ため息をついた。




