35話 "っ"
「――す、うぉっと」
いきなり視界が一転し足を踏み外しそうになる。
「すまないな、キタキ。用があったんだ」
キタキをいきなり転移させた事について阿木は謝罪する。
「ううん、いいよ気にしないで」
「キタキさん敬語を使ってください」
ホウは敬語を使わないキタキに向かい言う。
「いや、その必要はない」
「は、はい」
阿木にそう言われホウは一人落ち込む。
「それで、用だが――」
「【鳰】さん、大丈夫なんですか?こんなとこ入って外から建物崩されたら大変ですよ」
【鶯】は従いながらも疑問に思っていた事を言う。
「それな関しては大丈夫だろう。多分奴らは今、オレを殺せない」
「……それってアデゥやこの前のアチ、いやアシと関係してるって事ですか?」
「だろうな、今回奴らが来たのはそれが原因だろう。かと言って奴らの狙いが七体全てだとしたらオレの事をほっとくことは出来ないだろう。次いつオレと会えるかわからない以上奴らは何か仕掛けてくる」
「此処に入ったんだよね?」
「ああ、そうだ。頼めるか?」
「おっけ、任せて」
キタキは軽く返事をして中に入っていく。
「チッ、散らばってて歩きにくいな」
様々なものがそこら中に落ちていて歩きにくい。
「仕方ないですよ」
【鶯】は【鳰】を宥めながら進んでいく。
「【鶯】!下の階に降りるぞ!」
「え?あ、はい!」
いきなりの事に理解が追いつかないが兎に角【鳰】に続き建物中央にある吹き抜けに飛び込んだ。
次の瞬間先程まで居たところ、否、階全体、見えるところ全てが透明な棘に包まれる。
「なっ!?」
思わず声が出てしまう。
【鳰】に習い下の階に手をかけ転がり込む。
「クッソ、左にいたやつの能力か?」
「……いえ、あそこを見てください」
【鶯】が指を指す。
「あの女【鳩】と【鵲】の爺さんとやってたやつか」
たしか一番最初に姿を現したのが奴だった筈だ。
だが、今は観察している暇はない。
「そこまで多いわけじゃないがそれなりに魔素が残っている。行けるか?【鶯】」
「ええ、これなら」
【鶯】はその手を翳す。
「凝風!」
手のひらに魔力が球体状に集まり放出される。
「あ、そっか、魔素あるんだった」
だがゼロではないとはいえ十分に魔素のない空間では威力も速度も落ちる。
そもそも魔素のない空間では魔法は拡散してしまう。
空気中にある魔素によって留めてられるのだ。
キタキは当たる前にひょいっと簡単に避ける。
魔法がゆっくりと壁に当たる。
「でも、これじゃあ意味な――」
瞬間、棟の一部が吹き飛んだ。
「あーやっぱ、遅いか〜」
「おい、【鶯】なんでお前登録してないのに技名叫ぶんだ?」
「カッコいいと思ったからですけど」
「そ、そうか」
そう言えば津田伊織も登録しない――正確には出来ないのに考えていたなと思い出す。
「いてて」
瓦礫の中からキタキが立ち上がる。
壁に当たった瞬間その威力に気づき何枚も壁をガラスで張ったがあっさり割れた。
「強化ガラスの筈だったんだけどなぁ」
ガラスの表面に圧縮応力層、内部に引張応力層が発生するように一瞬のうちに生成できる様に長い間特訓した成果があまり出なくて落ち込む。
そもそも。
「魔素濃度が低下してるのに威力におかしくない?」
少し甘く見ていたのかも入れない【Nest】幹部というものを。
「あれは【鶯】の攻撃ですかね?」
「多分な、30号棟には術者が潜んでいると思ったが、居ないのか?……もしくは敢えてなのか」
アデゥシロイを拘束している術者が潜んでいるなら味方までも危険に晒す攻撃はしないと考えるのが普通だ。
こちらも初手でキタキが失敗した以上術の解除をしなければならない。
阿木は派手に壁が吹き飛び砂が舞っているのを確認し言う。
「操魔結界も上からの干渉しか出来ないせいで建物は薄いとは言え魔素がある。それを逆手に取り建物に入った場合、硝子で串刺しの筈だったが考えが甘かったな」
キタキの実力はかなり高い筈だが甘く見ていたと考え直した。
「【鶯】、隣の建物に飛び移るぞ」
「はい」
【鳰】は【鶯】を引き連れ建物を飛び移る。
超人じみた跳躍力で難なく跳ぶ。
「このまま術の準備をする、手伝え」
いくら緊急事態でも作戦は実行中だ。
「了解です」
「よし、二手に分かれるぞ」
【鳰】は【鶯】に何かを投げる。
「はい」
受け取った【鶯】は返事をして【鳰】と別れた。




