33話 電柱に化ける狐がいるらしい
遅くなって申し訳ないです
「ん〜、あ、見えた!」
水晶のようなものを片手に唸っていた少女――キタキが顔を上げる。
「で、どうなんだ?」
その隣に立つ男――ジュウジは詳細を聞く。
「えーと、ここ」
キタキは日本列島の書かれた地図に指を指す。
「どこだ此処?」
「ジュウジ、そこは端島だ」
突然の声にジュウジは振り返る。
「端島?ま、いいか、そこに行くんだな」
「ああ」
もう一人の男――阿木は短く返事をした。
「おー、あれえぐいな、見てみろよキタキ」
「お〜、すごい!」
そう、凄いのだ。
事前の情報で、かの人狼は魔力がないのは知っていたがそれ以外の方法で探知しようとしても引っかからない。
あのはられた結界が原因だと思うが人狼を確認するには肉眼でないと不可能だ。
例外を除いて。
そして阿木が口を開く。
「あれは必ず確保しなければならない」
「そうだな」
「頑張るしかないね〜最後の一体だから」
「ああ、そうだ。他の六体はこちらが駆けつける前に対処されてしまったようだが、今回は間に合った」
阿木は携帯を取り出した。
携帯が震える。
「……ああ、もしもし、了解です」
阿木からの電話開始の合図だ。
「じゃ、先ずは」
――操魔結界。
――13時26分――軍艦島での作戦にて外部からの魔法的組織の島内侵入を確認。
急激な魔素濃度の低下。
「どうなってる!【鳩】!」
「知らないよ、私だって!」
声を荒らげる【鳰】に対し思わず素の口調で返してしまう。
「二人とも落ち着いて下さい、今は目の前のことに集中しましょう」
そう、今は目の前のことに集中だ。
「そうじゃ、敵さんも来たようだしのぉ」
その瞬間アデゥシロイの真上に人影が現れる。
「チッ、【鳩】!」
その瞬間には既に【鳩】は人影の元に。
「……ッ」
「ハァッ」
バンッと音が鳴り人影が吹っ飛ぶ。
だが。
「身体強化なしじゃこの程度かなぁ」
魔力が濃度の低下のせいで常時魔力を使用する身体強化は使えない。
正確には身体強化では魔力は減らないが呼吸をするかのように身体強化で使われた魔力は酸素が二酸化炭素に変わるが如く変質する。
それに魔法の類も使用は避けるべきだ。
この魔素濃度の低下が相手の結界の類の攻撃の影響であれば厄介だ。
こちらの魔力を使えなくするので有ればその優位を取るために自身の魔力面くらい何とかするだろう。
こんな術素人には出来ない。
で有ればこれくらいは思いつく。
「【鳩】!もう一人くるぞ!」
【鳰】の声で後ろからのもう一人の接近に気づく。
そのまま回し蹴りをかますが手応えはなく相手は一歩下がる。
「流石幹部だな」
一歩下がった男――ジュウジが話しかける。
「褒めてくれるのは嬉しいんだけどぉ、帰ってくれたらもっと嬉しいなぁ」
「そりゃ無理だわ」
ジュウジが足を地面に打ち付ける。
地面がみるみる盛り上がり槍のように【鳩】に向けられる。
「まぁ、そうなるよね」
予想をしていたがやはり魔法を使ってきた。
【鳩】は足で地面を蹴り避ける。
だが、後ろからのもう一人――キタキの攻撃はかわせない。
と言うところでキタキの水晶のようなものと【鵲】の刀がぶつかる。
「ほっほっほ、大丈夫かのぅ?【鳩】ちゃん」
「ありがとおじいちゃん」
お礼を言いつつまさか水晶で殴ってくるとは思わずそこに驚く。
「で、お前は来ないのか?」
【鳰】は物陰に向かって問う。
「バレてしまったか、先の戦いでは魔力の濃度の変化によりモンスター一体の侵入も見落としてしまったと聞いていたのだが」
「チッ、オレが見落としたのは魔力じゃねえ敵意だ」
実際魔素濃度が関係ないとは言わないが。
「まぁ、いいだろう。今のお前たちでは俺に勝ち目はない」
そう言って阿木は銃を取り出す。
「それでオレ等を倒せるとでも?」
モンスターを倒すのに銃火器ではなく魔力のこもった武器を使うことなど今や一般人でも常識と言えるほどに知られているはずだ。
そしてそれは術者にもだ。
モンスターが魔力を使い魔力の含まれていない武器による攻撃を受け付けないのとは少し違うが魔力を持つ人間で有ればそれを再現するのは不可能ではないしそもそも身体の強化されたものなら銃で簡単には死なない。
「俺がそんな事を知らないとでも」
そして目の前にいる阿木が知らないはずはないのだ。
何かあると考えた方がいい。
だがそもそもそ攻撃させなければ関係はない。
「【鶯】!」
「はい!」
【鶯】は緑色に輝く疾風を身に纏い駆ける。
刃渡りの長いナイフを取り出し斬りつける。
が、転移で阿木の両脇に新たに二人現れる。
さっき見た二人とは違う。
だが、関係はない。
魔力が自分が常に体内で循環している分しか使えないこの状況でこの技を発動してしまったからには無駄には出来ない。
「おっと、あ、阿木さん久しぶりです」
転移してきた向かって右にいる少年がナイフを指で掴む。
「ぐッ」
【鶯】はナイフを残してそのまま下がる。
この結界のせいでろくに戦えない。
「何された?」
「おそらく魔力を阻害されたかと」
「チッ変な術使いやがって」
他人の術により影響を受けた魔力を他人が操作するなど相当な難易度だ。
「一体何者だ?」
【鳰】は相手を観察しながら疑問を抱いた。




