31話 軍艦巻きは小さく形の崩れやすいものに適している
第三試験中【鳩】に呼び出された【鳰】はゲートを使い現地へ向かっていた。
長崎港から船で18.5kmの距離に浮かび、伊王島、高島、中之島の先に位置にある端島。
通称軍艦島。
岩礁の周りを埋め立てて造られた人工の島である。
岸壁が島全体を囲い、高層鉄筋コンクリートが立ち並ぶその外観が軍艦「土佐」に似ていることから「軍艦島」と呼ばれるようになり島内には小中学校や病院などを完備、映画館やパチンコホールなどの娯楽施設もあり生活の全てを島内で賄うことができた。
端島炭坑の石炭は良質で、隣接する高島炭坑とともに日本の近代化に大きく貢献した。
しかし、主要エネルギーが石炭から石油へと移行したことにより衰退の一途をたどり、1974年に閉山。島民は島を去り無人島となった。
2009年に一般の上陸が可能となり、2015年7月世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 ~製鉄・製鋼、造船、石炭産業~」として正式登録された。
そんな軍艦島だが現在は【Nest】によって完全に封鎖されている。
何故ならば上陸できないからだ。
たがそれは、既存の禁止条件である風速、波高なとが原因では無い。
世界各地で起きた転移そしてそれによる被害、それが此処でも起きていると言う事だ。
12月22日、転移被害による気候の局地的な著しい変化。
それにより軍艦島は雪が降り積り建物が凍りついた。
だが、まだそれだけならよかった。
転移が起こったと言う事は何かが飛ばされていたと言う事だ。
そしてその日それはこの地に飛ばされた。
アデゥシロイ。
魔力がなく亜人と推定される個体。
その危険度は【Nest】の指定する最高位ランクと言われている。
「道理で支部を港付近にもう一つ作ったわけだ」
【鳰】は一人納得する。
港付近ならば島までの距離ならゲートを使用しなくても何とか上陸が可能だ。
そして一つ理由を告げずに支部を設置した理由は【鳰】にも想像がついた。
それは魔法及びそれに準ずる術を悪用する個人や組織である。
現在もその数は増しているとも言われている。
そう言った組織にアデゥシロイの存在を漏らさないためだ。
例えば条件次第で【Nest】幹部でも手を焼く災害級の怪物を転移などを使用して街に入れる事など難しい事ではない。
とは言え当日にいきなりこんな所まで電話一本で来いとは。
あの日以来そう言ったことが多くなった気がする。
――軍艦島上陸。
「……流石に寒いな」
厚着して来たとは言えこれは寒い。
「おぉ〜やっときたぁ待ちくたびれたよぉ〜」
こちらに気付いた【鳩】がテントから顔を出して話しかけてくる。
「やっと来た、じゃねぇお前がいきなり過ぎんだよ」
テントの幕の中に入りながら思わず言う。
理由の推測がついてもはいそうですかとはいかない。
自分にだって予定がある。
「落ち着いてください二人とも、【鳰】さんお疲れ様です」
「ああ、【鶯】か、お疲れ」
コイツはこんな奴といて大変だなと【鳰】は思うが【鶯】的にはこの二人の間に入る方が疲れる。
「ほっほっほ【鶯】君も大変だのぅ」
「おい、【鵲】の爺さんどう言う意味だ?」
「そのままの意味じゃよ」
ほっほっほと笑いながら杖をつく。
「チッ、で、どうすんだ?」
【鳰】はテントの隙間からアデゥシロイを抑えている部下たちを見る。
「えぇっとぉ、まず――」
【鳩】が話し始めた。
「なぁ?」
「なぁにぃ?」
「聞こうと思ってたんだが何で全員揃ってから拘束しなかった?」
【鳰】は気になっていた事を聞いた。
現在アデゥシロイを拘束している大規模拘束術式"神縛結界"は長時間発動できるものではない。
前回アデゥシロイを拘束した時よりも状況が良く余裕を持って行使できているがそれを加味しても無駄に力を使うのは避けるべきだろう。
報告によればアデゥシロイは此処を離れようとはしないらしい、なら尚更全員が集まるまで放置、と言うのが妥当だろう。
「それはぁ〜外からアデゥシロイを守るためぇ」
「外からだと?……気付かれないために態々用途の説明なしにゲートを設置したんじゃねぇのか?」
「その筈だったんだけどねぇ」
【鳩】は遠くを見ながらそんな事を言った。
参考文献
株式会社ユニバーサルワーカーズ「軍艦島とは」(2022). 軍艦島コンシェルジュ. https://www.gunkanjima-concierge.com/,(参照2022-10-20)
一般社団法人 長崎県観光連盟「端島(軍艦島)」.(2022).ながさき旅ネット. https://www.nagasaki-tabinet.com/guide/51797,(参照2022-10-20)




