26話 ドアノック拳法の教え 第四訓 手のどこで叩くかが大事
二人が地を蹴り接近してくる。
刀で殺すことはなさそうだし全力で行くか。
刀を構える。
「「グホッ」」
突然二人がスライドして視界から消える。
「ほぇ?」
「伊織君大丈夫?」
イケメン!
紗奈だった。
「あ、ああ」
エグいな、向こうまで飛んでったぞ。
「今のうちに行こう」
「そうだな」
『津田伊織の窮地に駆けつけたのは月宮紗奈だ!!』
「窮地?」「いーな」「月宮紗奈様あああああ!!!!」「憧れます」「俺もそう思う」「イイツちゃんご飯いる?」「身体強化にしても凄いな」
山岳エリアB。
「ゴホッイッテェ」
「僕も結構痛いかな」
一撃でエリア外まで飛ばされたことに驚く。
「威力より吹っ飛ばしに力を使ったようだが」
「うん、それでも十分痛いかな」
沖田イオはスマホでゲームをしていた。
「ログボを受け取るだけだったはずなのに」
先程ふと思い出し開いたソシャゲ『ビル小町ちゃん』
同作は配信者を目指すことになったコマチと友達のビルちゃんと一緒になんやかんやするゲームである。
形式はパズルゲーム。
勿論ガチャもある。
そしてそれを引くためのアイテムを貰うためにログボである。
前日まで徹夜して漫画を読み漁っていたせいでログインするのを忘れていた。
早速引いてみる。
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☆おめでとう☆
《ひじき》
skill:1/6
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「ぬあああ!また"ひじき"かよぉ」
思わずスマホを投げそうになる。
「"たまねぎ"が出ないぃ……何やってんだろ私」
少し前までなら試験中にこんな不真面目なことしなかったのに。
「環境は大事なんだなぁ」
空を見上げてイオはしみじみ言った。
『おっと沖田イオ!スマホゲームを始めた!!』
「え?そこ実況するん?」「ビル小町か……"ひじき"と"だいぶつ"ばっかでるんだよな」「どんなゲームなん?」「でも試験中にゲームはよくありません、危ないですし」「俺もそう思う」「イイツちゃんお茶漬けいる?」「ていうか、何に座ってんだ?」「あれは……モンスターの死体の山か?」「あの量を……」
徳備多々良は考えていた。
この馬鹿でかい扉はなんだろうと。
「だが扉がある叩くしかねぇ」
拳を握る。
「《正式な構え》」
先ほどと違い叩く時は手の甲――正確には第二関節でなく指の第一関節で。
これは、音が大事な場面である。
ソフトに。
《一撃目》
威力より音を重視。
《二撃目》
音色を奏でるように。
《三撃目》
思いを込めて。
《四撃目》
その先へ。
《五撃目》
そして厚い扉の向こうへ。
「《回覧板持ってきました》ッ」
扉が吹っ飛ぶ。
そして中から。
「ガルルォアアアア!!!」
返事。
ならば入室。
『壁をぶち破ったぁああ!!!』
「あれって扉を模したただの壁だよね?」「ただのノックで粉砕」「凄いです!」「マジで」「あれ本当に受験生か?なんか紛れ込んでるのでは?」「あれは本物だよこっちに頻繁に出入りしてた見たいだけど」
『出てきたのはなんと、人間君JIIIだああ!!』
「あれさっきも名前が」「いや別物だろあんなの」「なんのJなんですか?」「確かジャイアント」「アルファベットどころか全部同じなのはいけないでしょ」
「また巨人か?今度は真っ黒だな」
「ふぅー」
息をゆっくり吐く。
「ドアノック拳法ッ!」
手を握り構える。
「原型」
一撃目
敬意を込め。
二撃目
緊張感をも力に変え。
三撃目
音を奏でる。
四撃目
このように運命は扉を叩く。
「《交響曲第5番》ッ!」
黒い怪物は弾けた。
『強すぎる!!人間君を倒したァァァ!!』
「えぐ、俺より強いぞ多分」「化け物かよ」「凄いです!」「……俺もそう思う」「……俺も」「ノックしてるだけなのに」
「うわっとと」
「大丈夫か?」
いきなりの揺れに倒れそうになった紗奈を支えた。
もう少しで頂上と言ったところで下の方からすごい振動が来た。
『青春だああ!!!』
「チッ」「いいなぁ」「てぇてぇええええ!!!」「憧れちゃます」「俺も」「俺も」「なあ、あの子六回の揺れ全部よろけて無いか?」「その度に支えてもらって」「さっきの戦闘を見るに体幹は良さそうだが」「はっ!と言うことは」「わざと……だと」「くっそおぉ」
「やっと頂上に着いた」
「長かったね」
その割には疲れてなさそうだが。
ここまでフィールド中心に敵がいると判断して来て見た。
実際魔力は感じていた。
だが。
「なんだこれ玉?」
手に取ってみる。
ただの水晶のように見えるがとてつも無い魔力が感じられる。
と、そこで。
『あーあー聞こえますでしょうか?スナイです。只今、何ちゃってピラミッドの頂上に設置されたオーブが受験生の手によって回収されました』
アナウンスが響き渡る。
『と言う事で、第三試験です。この試験はバトルロイヤル、最後にオーブを手に入れたものが評価が高くなります。そして、一撃でも攻撃が当たればゲームオーバーになりますので気をつけてください。ゲームオーバーになっても今までの評価が減ったりはしないので安心してもらえればと。』
そこで、一拍空く。
『それでは、開始!』
「先ずは移動だな」
「そうだね」
此処にいては確実に狙われる。
「貰ったああ!」
後ろから気配。
「グホッ」
俺が構える前に紗奈の蹴りが入る。
「隠れてやがったのか」
そして他にもわらわらと出てくる。
「何人いんだよ?」
「お前も災難だな、試験は毎回内容は基本的に同じ、だから皆近くに潜伏して最後にオーブを奪う」
人混みの中の一人のオッサンが丁寧に教えてくれる。
「だったら潰し合うのを待ってから出てこいよ」
「まあな、だが、皆があまりやりたがらない先陣を切る事で評価が上がることは分かっている、可能性の少ない1枠を狙うよりそれを狙った方が確実だろう」
評価基準漏れてるけど良いのか?
それを調べるのも含めて試験の可能性はなくも無いけど。
「そうか、だが悪いな。俺もそう簡単には渡す気は無いんだ」
「チッガキが」
怖、やめてよぼくまだちゅうがくせいなんだよ。
いや、マジで普通に怖い。
「まぁいいや、《闇炎》――」
刀を上に向ける。
そして出力を最大まで上げる。
「――闇雨ッ」
闇色の雨が降り注ぐ。




