1話 上空11キロメートルからぼた餅
「寒っ」
既に月日は12月。
俺はたまらず手を擦り息を吹きかける。
「っはぁ〜」
白い息が手にかかり僅かに手を温める。
「何でこんな寒いのに外なんかに……」
本当なら今頃俺はこたつの中で丸まっていたはずなのに。
「はぁ」
今度はため息だ。
何故俺、津田伊織がこんな寒い中、外にいるかと言うと。
端的に言うと妹に追い出されたからだ。
俺が気持ちよく寝ていたのに邪魔だと言い放った妹を思い出す。
「偶には運動したら、か」
俺は体育を頑張っていると言ったが抵抗虚しく追い出された。
そもそも、俺の真価はそんなところで発揮されない。
俺の特技は、正確に何も見ずに時間を計ることだ。
体育祭の練習とかでサボって隅の方で、ストップウォッチを見ずにちょうど30秒とかで押すあれだ。
そんな遊びはした事はない?
そんな時間があったら友達と話す?
トモダチ?何それ?
かれこれ、何時間経っただろうか?
いや、数十分?
え、時間を計るのが得意なんだろって?
ここで勘違いする奴が多いので言っておく、俺は人間ストップウォッチで人間時計ではない。
つまり、計ろうとしなければ計れない。
とまぁ、そんな事は置いといて。
もういいだろう。
「そろそろ、帰っ――」
その瞬間空が光る。
「は?マジか」
空が光っただけだったらまだ良いのだが問題は空一面に漂う雲を突き破りながら光の柱を築き真下に落下していく何か。
それが無数に落ちてくる。
「隕石……か」
隕石だとすると1番近いものはかなり近い位置にあるが光の筋しか見えない。
さほど大きなものでは無いのだろう。
そんな事より今は
逃げる。
脚に力を入れ、出来るだけ隕石の少ない方に走る。
いくら小さくても当たったらひとたまりもない。
なら、出来るだけ離れるしか無い。
どれだけ離れたか、隕石との距離を測るために振り返る。
「あまり、大きくないようだが隕石に当たるわけには行かないからな」
振り向きながら、走っていたのがいけなかったのだろう。
いくら舗装されている道路とはいえ凹凸ぐらいある。
要は転んだ。
「痛っ!」
クソ、最悪だ。
俺は隕石の位置を確認しようとして顔を上げる。
「さっきの隕石からはだいぶ離れたな……それよりなんか明るく」
真上に他の隕石があった。
他の隕石とタイミングが一足遅く気付かなかった。
隕石が尾を引くように光の柱ができていたのかと思ったが、実際は光の柱の方が先行してるんだな。
一瞬のうちにそんなくだらない思考をする。
光の柱がレーザーサイトのように俺の頭に照準を定める。
次の瞬間。
俺は隕石に貫かれた。
「くっ!……アレ?」
痛く……ない?
恐る恐る目を開く。
顔を触ってみるが血はつかない。
「……助かったのか?」
起きあがろうとしてカラッと何かが転がるような音がする。
「コレは?……宝石?」
落ちてきたのはコレだろうか?
宝石を手に取って見る。
光に照らされ八面体の宝石がルビーのように紅く光る。
こんな尖った宝石が当たっても無傷とは。
謎である。
と言うか加工品のようだし。
こんな形の石が自然発生するとは思えない。
「というか、コレ、高く売れるのでは?」
いくらたくさん降ってきているとはいえ宝石は宝石だ。
それに謎多き石として高値で売買されるかも知れない。
実際どこまで価値があるのだろうか。
「まあ、後でアイツに聞けば良いか」
一人の友人を頭に思い描きながら、先程見た光の柱を頼りに落ちたであろう場所へ向かう。
幸い、当たっても怪我しないみたいだし、危なくないだろう。
そんな事を思いながら走る事、数十分。
さっき逃げてきた方に走り先程見てたものであろう紫の宝石を見つける。
「あった!」
草むらに隠れていたので探すのに苦労した。
俺は拾い上げポケットに突っ込む。
そしてまた歩き出した。
三つ目を探し始めて一つ分かったことがある。
――一つ探すのにだいぶかかった。
二つ目を見つけたときはそう思っていたが、多分コレでも早い方だったのだろう。
何故なら、三つ目を探し始めてはや1時間、二つ目は光の柱を見たからすぐに見つけられたが、それがないとまず無理だ。
と言うか赤い宝石と紫の宝石はそれ程離れていなかったが多分本来宝石同士の位置は一キロ弱は離れている。
正直見ただけで距離を測れる訳じゃないが光の柱同士は結構な距離があった。
赤い宝石が近かったのは後出しだったのが原因だろうか?
多分赤い宝石のような"後出しの宝石"はなくはないんだと思うが――もう一つほぼ同タイミングで落ちていたのを視界で捉えているが初めに落ちてきたものと比べれば遥かに少ないと思う。
少なくとも俺が確認できたのは初めに拾った赤い宝石と視界の端で捕らえたもう一つだけだ。
そのもう一つは家の方角だったので運が良ければ見つけられるかもしれない。
相当運が良ければだが。
相当運が良かったようだ。
見つけた。
キョロキョロあたりを見渡していたがそんな必要はないとばかりに道の真ん中に落ちていた。
「ら、ラッキー」
何ともいえない気持ちになりながらそれを拾う。
で、家に帰ってきた訳だが。
「どこ行ってたの、お兄ちゃん!」
玄関に見るからに怒っている妹を見つける。
「いや、お前が追い出したんだろうが」
「そんな事より、ニュース見て」
話聞けよ。
我が妹、津田詩が携帯をコチラに向けてくる。
『全国で、謎の隕石落ちる』
記事の内容はまあ、
隕石が落ちてきた事。
落ちてきたのは宝石だった事。
宝石が落ちた地面などに傷は無いという事。
簡単に纏めるとこんな感じだ。
「て言うか、このニュース見て、やばーいって言ってるくらいなら俺のことくらい心配してくれてもよくね」
「え?だって無事じゃん」
「いや、でも、なんていうか、頭に隕石直撃しなかった?とか」
「真下に落ちてきたらしいから歩けないならともかく、普通当たらないでしょ、それに、地面は大丈夫だって聞いたけど固くて大丈夫だったかもだし、頭にあたって大丈夫じゃなかったら怪我くらいするじゃん」
「そ、そうだよな普通当たらないよな」
「そうだよー、ていうか、心配して欲しいなら変な冗談言ってないで素直にいえば良いのに〜」
なんかムカつくな。
無言でチョップを放つ。
「グハッ」
手が当たる前に、詩の拳が俺の鳩尾に入る。
「そういえば、ちゃんと運動してきたの?運動神経良くなってないけど」
「はぁ、はぁ、う、運動しただけで、運動神経は良くならねぇよ、というか、どこで覚えた?お兄ちゃん暴力は許さないぞ」
「えー、暴力じゃ無いよ、なんだっけ、柔道?学校で教えてもらったの」
「小学校って、柔道やんなくね、というか、今の技、詳しく無いけど柔道では無いだろ」
ちなみに、詩は小6だ。
俺は中1。
「あれ、柔道じゃ無いの?空手?まあ良いけど、教えてもらったのは授業じゃなくて休み時間に友達が見せてくれたの」
見ただけで出来るとかなんだよ。
「まあいいや、そんな事より、俺を家に上げてくれ、ここじゃ寒い」
真冬に玄関で突っ立ってるのは流石に寒い。
リビングに戻った俺はそうだと、さっき拾った宝石を出す。
「凄いだろ、さっき落ちてきたんだ」
詩が驚きに満ちた表情になる。
凄いだろ。
「お、お兄ちゃん、一緒に謝りに行ってあげるからお店行こう」
「え?」
「大丈夫だよ、素直にいえばきっと許してくれるよ」
「いや、まて、だからさっき拾ったって」
「落ちてきた隕石が加工済みな訳ないでしょ!」
こうして俺は小6の妹に手を引かれ自首する事になった。
なんで?