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190話 津田伊織


 向かうべきは七人目の喰魔の所持者のもと。

 そう判断するのは容易かった。


『炎』が言うのだ。


 あれはまずいと。


 本来なら二体もいる喰魔のもとへ行くべきだが、恐らくこいつを放っておけばまずいことになる。

 対峙せずとも、そう思わせるほどのものがあった。


 スニーカーの底を地面に擦り付けるようにして足を捻る。

 それにより、方向の転換をする。

 方向転換と言っても、わずかに左をずれる程度だが。


 だが、この方向は初めに確認された『灼』や『風』とは別に時間差で現れたであろう『水』の気配を感じた場所と同じだ。

 恐らく、使用されたのは倒された喰魔の魔石だろう。

 この時代の『水』の魔石は沖田イオが持っているはずだ。


『──』

「ん?」

『──聞こえますか、幹部【鷽】』


 その時、耳元で声が聞こえた。

 それは、高濃度な魔素によって阻害されていた通信であった。

 

「ああ、聞こえてる」


 一応返事をするが足は止めない。

 ただ移動するだけでもモンスターが地上、空中関わらず湧いているのだ切り伏せる必要がある。

 腰に携えた二刀を取り出し襲ってくる奴らを倒していく。


『状況が変わりました』

「通信の事か」

『はい。お気づきかと思いますが、たった今この場にいる1-1オーバーのモンスターは消滅しました』


 そう言われて気付く。

 確かに、喰魔の気配が消えている。

 この世から存在が消滅しているわけではない為分かりにくいが、恐らくともぐいとか言う奴だろう。


 確か、カラスしか出来ないと聞いたが、違ったのだろうか?

 まあ、それはいいか。


「ああ、其れはこっちでも確認している」

『では、こちらから作戦の変更を』

「七人目の喰魔石所持者が現れたと言うことだろ。それなら、もう向かっている」

『!、その通りです。すでに向かっているのなら、そのままお願いします。応援は……』

「わかってる。しばらくはこれないんだろう」


 幹部連中は喰魔の対処に回されていたんだ、すぐに此処まで来れるとは考えていない。


『それでは、暫定情報をお伝えします。喰魔石所持者であろう該当人物の名は如月涼月です』


 どこかで聞いたような名前だ。

 思い出せんが。


『外見は【Nest】における記録では身長は178センチ、体格は中肉中背、年齢は五十八、ですが、容姿は何らかの方法で維持してるのか過去最後に【Nest】が接触した際には二十代後半の見た目だったと記録があります。ですので、情報に左右され過ぎないように注意してください』


 じゃあ、何故伝えたんだと言えば、伝えないとそれはそれでよくないことがあるんだろうが。


「了解した」

『それと最後に、如月涼月は喰魔石の第一人者と言えるほどの人物です』


 それが意味するところは今から相手をするのは喰魔石を持った素人ではないと言う事。


「もうすぐ、着く。インカムは外させてもらう」

『了解しました』


 俺はインカムを耳から外してポケットにしまう。

 目の前に現れたワイバーンを切り伏せ、ビルから降下した。









 なにがあったか、ビル群を穿つようにできたクレーターの中心に男はいた。


「なるほど確かに二十代後半にしか見えない」


 思わず俺は声を漏らす。

 そこにいたのは見るからに研究職と言いたげな白衣を着た男だった。

 そう言えば中学の時これ見よがしに白衣を着ていた教師はいたが高校に行っては見ないな。

 あれってどういう基準で着るんだろ?


「おっと、来ましたか。津田伊織君、で良いんですよね?」

「え、まあ、はい」


 思ったより普通に話してきてビビる。


「ああ、敬語はいい。私も普通にしゃべろう。改めて初めまして私は如月涼月」

「あー、よろしく。それでそこに転がっているのは?」


 どうでもいいかと思って優先事項を移す。

 気になるのは、そこらに転がっている人たちと、確か徳備多々良とか言うボロボロな人。

 この人は強いって聞いたけど、気絶してるのか隅で倒れている。


「彼らか、元々結解術に特化した人員だ。私に敵わないのも仕方がない。徳備多々良については一撃で喰魔を倒した代償だ、一級程度の力しか出せなければ敵ではない」

「つまり、あんたは一級程度は軽く屠る自身があると?」

「もちろんだ。それより、そろそろ始めようか、私の目的のためにも」


 目的、とやらは分からないが、とにかく戦おうと言う事だろう。


「いいぜ。なら──」


 そう言いかけたところで、俺の髪がはらりと落ちる。

 反射で首をひねり攻撃をかわした。

 だが、反射だ。

 わかって避けたわけじゃない。

 つまり、それが意味することは──


「どうした、そんな驚いて、散髪は初めてか?」

「なんだ?急に煽ってきやがって、そりゃ、こちとら陰キャ極めてるからそうそう行くこたねーが」


 その時、ふと気づいた。


「もしかして、キレさせて……とか、考えてるんじゃねーだろーな」

「おっと、気付かれちゃ仕方がないね。でも、頑張らないとすぐ死ぬぞ」


 すべてを使い警戒をする。

 先ほどは不意を突かれたが、それでも全く攻撃に気付けないわけがない。

 だから、これで。


「本気で頼むよ。【Nest】幹部」

「ッ!?」


 見えた。

 彼が攻撃をする瞬間が。

 これは早いのではなく。


「視覚的な阻害か」


 恐らく水魔法をを使用した攻撃。

 刃を隠し攻撃する。


 水の刃。

 圧縮され、打ち出されたそれはいともたやすく肉を絶つ。


 俺は右手で握る刀でそれを防ぐ。

 長期戦であれば、傷を作られどんどん不利になっていくだろう。

 一気に攻める。


「ハァッ!!」


 紫炎を纏い加速する。

 身体能力の強化、更に魔法の上乗せにより一瞬で相手に迫る。

 彼方の世界で培った経験をもとに更に俺は強くなる。


 右の刀を振り、更に左と交互に攻撃を入れていく。

 以前までの遠心力を魔法によって無理やり殺した攻撃とは違い、それは技術によって制御されていた。

 そこに更に力を増した紫炎を乗せれば強力な一打になる。


 これなら届く。

 如月涼月の肉を絶とうと刃を振るう。

 そしてそこでわかりやすく彼は動いた。


 手に生成されるのは水魔法で作られたであろう刀。

 それを両手に持つとこちらの攻撃を防いだ。

 だが、攻撃はまだ終わらない。

 右が防がれれば左、それが防がれれば右と攻撃を加えていく。


 だが、それもことごとく防がれる。


 そして、更に遠隔で操作した水が圧縮するようにして俺を四方から攻撃する。

 それを何と後退した。

 靴は地面をこすり、そこで摩擦を殺す。

 今の回避を考えるとここがクレーターであったのは助かった。

 恐らく目の前に奴のせいであろうが、それでも今は感謝した。

 この地形でなければ躱すのは難しかった。


 だが、それよりも──


「どうして、自分の攻撃が防がれた。そう言いたそうな顔だね」


 思っていたことを言い当てられ反応しそうになるのを抑える。


「そう驚くことでもない。これは知っていれば出来ることだ。まあ、これも私の研究成果だ。未だ公表をしていないこれを使えるのは私だけだ」


 彼は少し考え込むようにして口を開いた。


「ただ、そうだな。私の目的もこれで成就する。それならば少し教えても良いだろう」

「今度はお話か?」

「まあ、そう言わないでくれよ。津田伊織、君にも関係することだ」






「私はね。喰魔に人生を捧げたんだ」


 如月涼月は話し出した。

 構えもしない。

 だが、ここで攻撃しても当たる気がしなかった。


「まだ、若いころ。それを知り、長い月日をかけ、そして、娘を使って喰魔の守葬化を見た」


 それを聞けば非道なことをしてきたのだろうと想像はつく。


「そう、そこで人生の大半を使ってしまったんだ。だけどね、奇跡が起きたんだ。君も良く知っているだろう。『神柱』が地上に落ちた」

「ああ、でもそれが?」

「あれは世界を変えた。今までの常識を変えたんだ。非術者である君たちだけでではない。この私にも更なる可能性を与えてくれた」


 彼が空を見れば、もうずいぶんと掃けてしまった雲がある。

 それでも、未だ『神柱』に貫かれた跡がまだ残る。


「それは喰魔石だ。以前まではこの世に二つ、内一つは【鴉】、そして、もう一つは私の手にあった。分かるかね?今とは守葬化に対する重みが違ったんだ。でも、それは一変した。そのおかげで更に上を見ることが出来る。相間君はすべて見た気になったようだけど、惜しいことをした。まだ、最期に見るべきものがあると言うのに」

「見るべきもの?」

「そう、それが私の目的だ。喰魔の力を最大に引き出す、『喰昇華』と言うのもだ」

「安直な名前だな」

「でも、名前は関係ないさ。現に君の攻撃をことごとく防いでいるのだから」

「それって」


 先ほどの水で出来た剣のことだろうか。

 しかし、あれは武器の力と言うより体の使い方と言うか。


「『喰昇華』と言うのは喰魔ごとに効果が違うのが、私の物は君と相性が良かったようだ」

「と言う事はもう目的は達成したんじゃ」

「いや、違うんだ。私が見たいのは『喰昇華』を使った戦いにおける成果だ。剣は交えなければ輝かない。そうだな、欲を言えば君も発現してくれれば文句はないが……条件を満たしているのは私だけだ。それは諦めるべきか」

「条件?」

「ああ、条件だ。そもそも喰魔の力を最大限引き出すにはこの世界の人間は愚か彼方の世界の人間でも不可能なのだ。それを私は体内に計三つの魔石を使い運用居ているのだ。まあ、物理的に不可能だと言う話だ。奇跡とも言い難い二つの魔石を持つ君でもこればかりは再現は出来ない」


 前に千里の言っていたことを考えれば人工的に複数の魔石の使用は出来るのだろう。

 それでも、成功例は彼一人だと言っていた。

 さらに数が多いとなれば死は確実。

 それを自身に施すなど狂っているとしか言いようがない。


「では、続けようか、私の喰魔石の能力は実演して教えてやろう」

「種を教えても勝つ気満々かよ」


 俺は刀を構えて地面を蹴った。

 魔法を使い更に加速する。


 炎弾を放ち牽制をしながら攻撃を振るう。

 刀が弾かれた瞬間に、アヤザミカミを地面に刺して三本目を抜く。

 太刀であるため少し大振りになる動きも、魔法で矯正し速度は落とさない。


 その間にもアヤザミカミは効果を発揮し、闇を地面に垂らす。


 次の瞬間には、闇の付与によって傀儡とかしたモンスターの死体が如月涼月を襲う。

 彼の身体が見えなくなるほど、体に体当たりするのかの様に嚙みついたところを自爆させ、さらに煙の中に俺は突っ込んだ。

 そして刀を抜いて、連続攻撃をくらわせるも、水刀で弾かれる。


「特に難しい話でもないのだが、『水』における『喰昇華』はいわば動きのトレースだ」


 俺は容赦なく突きをくらわせようとすると、刀の切っ先同士が衝突し火花を散らす。


「君がいくら攻撃しても私は傷つくことはない」

「それならッ!」

「それなら、相手を消耗を狙うか?それは無理だ。私が身体能力を上げていないわけがないだろう。君が生まれる前から身体強化を身に着けているいるのだ。剣術はともかく体力においては

 君に優に匹敵する」


 強く刀を打ち合わせて距離を取る。

 一度体制を立て直そうとして、俺の足を水魔法による何かが掠る。

 そして、それは一撃にはとどまらず、四方八方からビームの様に連射される。

 横に避けるが距離を取られてしまう。


「態々喰魔の他二つも取得しておいて、魔法の使用が出来ないのはもったいなく思えるが、それでもそれだけの価値があるだろう?」


 攻撃はそれで終わらない。

 魔法を打ちだすことに役目を徹していた、円盤のような形をしていた水で出来た何かは、攻撃を出すだけでなく、更に反射をしてまるでピンボールの様に高速攻撃が飛んで斬る。

 腕が、足が、胴が、体の至る所が貫かれる。


 やばい、死ぬ。


「もっと、頑張ってくれると思っていたが……格上相手に守葬化し続けた弊害か。仕方がない。【鴉】は純粋なる喰魔ではないから、あまり好かないが終わりにしようか」


 クソッ!!


「残念だ。津田伊織」


 魔力感知により、体が警鐘を鳴らす。

 どこに逃げても何をしようとも死ぬと。

 守葬化する前に殺される。

 そう分かった。

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