189話 カラス
「黒魔術、と言うものがあるだろう」
【鴉】は構えもせずに立ったまま言う。
タケルはそれに構わず、時間停止による瞬間移動を成し、更に空間を湾曲、更に同じ時軸に四方向から空間をつなげ攻撃をする。
「元来、害をなす術や自身の欲望を満たすためののものをそう言うが、私の魔法も元はそれになぞらえて命名されている」
四方向からの攻撃をいとも簡単に対処し、話を続ける。
「ここで疑問に思っただろう。人間が魔術を使う前に誕生した私がどうしてそんなことが出来ると」
タケルは、創造神の力を使用し『【鴉】には破壊不可能』と言う概念を付与した物質を生成する。
【鴉】にだけ特化した物質、【鴉】以外の生物の故意的な攻撃には全くと言った耐性のないそれをこの世に顕現させる。
例え、魔素に振れたことのない一般人は愚か、『破壊する』と言った故意の攻撃であれば力のない赤子が触れただけでも壊すことが可能な代物。
酷く概念的で、神話の世界にしか存在成し得ないそれは可視出来るまでに【鴉】を囲むように集まり何かの形を成す。
鉄の処女
そう表現するに等しい形に変化し、それは縦に腹を開ける。
その内側に取り付けられたのは『破毀』の概念が付与された無数の棘。
【鴉】はそれに閉じ込められるようにして扉は締まる。
創造神の権能の一端の使用時間は最大0.962秒。
その間に上記の現象はなされ少女は身を隠した。
そして、配置された棘は『破毀』の概念付与をされた物質であり、創造神の権能による再現ではない。
その理由は創造神の権能では『【鴉】を殺す』という概念は付与できない。
そのため、タケルが使用可能な権能の中で【鴉】を殺すのに特化した『破壊』を乗せた。
『破毀』は『神』をも殺しうる力だ。これなら逃げ場もなく避けることは不可能。
そう思えたが──
「実のところ、魔法名に関してはこちらの世界に来たときにつけたものなのだ」
鉄の処女は破壊され、中から無傷の【鴉】が現れる。
「『神』として振るうのは魔法ではないからな。こちらに来て喰魔、いや、魔石に身を宿した時に行ったことなのだ。その時につけたのが魔法『黒』。正式には黒魔法だが──」
「クソッ!!」
タケルは唇を噛み、宙に穴をあけ、そこから無数の鎖を出現させる。
空間の使用だ。
そもそも、転移のまねごとは負担がかかりすぎるため使用は避けていた。
そうでなくとも、有機物の転移は出来ない為メリットもなかった。
だが、今はそうも言ってられない。
全力でやる必要がある。
つなげるのは、異世界のとある場所。
そこから、とある鎖を使用し、【鴉】の捕縛を試みる。
鎖の名はソリクサーバ。
鬼神の名を冠すアヤザミカミ、クロウホノマと同格の神器である。
金の意匠を身に着けた鎖はいとも簡単に拘束を可能にする。
「散々長々と話してきたんだ。もう少し聞いてくれてもいいだろう」
「黙れ!」
更に、タケルは『破毀』、『神殺し』と付与し自身の刀、神器であるソウリュウを更に別のものへ昇華する。
その際、『破毀』と『神殺し』を同一にするため、いくつかの神の権能を犠牲にする。
そもそも、他の概念の重ねることが出来ない『破毀』を重ねるために権能を消費し、かなりの消費であるため余裕がない。
そして、完成したソレを犠牲にし、因果によってこの地にそれを呼び出す。
──天が割れた。
「──〖白鴉〗」
割れた空から一片の白い羽が舞う。
そして、それが地面に着くとソレは現れた。
手。
そう表現するのが正しいだろう。
白い羽を大量に地面に落としながらその巨大な白い手は現れた。
司るのは『死』
ソレを使えばどんなものでも『死』に至らせることが出来る。
無機物有機物に関わらず、概念でさえも。
「神の欠片やその一端でもなく、神そのもの。神以上に神であるこれならばお前を殺せる」
タケルは勝ちを確信する。
「堕ちろ!──■■■」
人の身でありながら発音してはならない名前。
そう呼ばれたナニカは少女の形をしたそれに『死』を運ばんとする。
すべての神の権能を犠牲とし、更に自身のスキルの類に至るまでを捧げる。
それでも足りない。
鼻、口、目、その全てから出血する。
ドバドバと血を流しできた血だまりタケルは膝をつく。
タケルは全身からあふれる血に身をうずめながらも【鴉】を睨んだ。
これで終わりだ。
『死』は【鴉】の喉元に手を添えている。
そして、それはいとも容易く首を絞めた。
だが。
「だから、話を聞けと言ったんだ。〖白鴉〗と言うのは元の、喰魔になる以前の私だ。すべての時間、次元に存在するソレだが、存在としては私と同一のものだ。分かるか?昼神タケル。ソレをこちらに呼び出した時点でお前の負けだ。時間、次元は問わないが唯一空間がだけがそれを阻むことが出来た。それを呼び出してしまえば、私の力は相対的にアレと同じになる。そもそも、それをこの世界で、ほんの少しでも実現しようとしたのが現【Nest】本部である『巣』だ」
赤く染まった視界が、今度は暗くなる。
「故に、最期は貴様で墓穴を掘ったわけだ」
視覚、触覚などの五感が消えていく中で、最後に残った聴覚だけでそれを聞いた。




