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184話 思い込み 洗脳 勘違い


 田梅卦都、右形鳳等が【Nest】所属のイイツの部隊を引きつけ、それ以外の【弧】の構成員は各自散らばっていた。

 元々、この集団以外にも広く散らばっていた彼らではあるが、それ以外の集団は比較的隠密して、油断を装い作戦を遂行していたため、目に見えた破壊行為の火の手は広がっていた。


 しかし、一方で着々と【Nest】陣営も人が集まり、優勢が強まっていた。

 避難民の誘導は下級の術師に回すことが可能となり、戦力が集まってきてた。


「よし、こっちにいた奴は捕縛した」

「次は逃げ遅れた人はいるか?」

「三名いたが負傷者なし。三級と二級の混成部隊に避難誘導を任せている」


 状況を確認しあい、不備はないか確かめる。

 モンスターもいるため、【弧】が有利になる局面は多いが、このあたりでは、モンスターの少なさのおかげか、スムーズに進んでいる。

 と、言うのも──


「【赤帯】か。ここの地区のは結構やってくれてるみたいでありがたいな」

「おい、それって幹部の【鷽】なんだろ。いいのか?その呼び方で」

「まあ、作戦内で呼ぶことはないだろうしってのと。実際に避難民事情を聴くときに話がしやすいしな」


 非難している市民に、様々な情報を教えてもらいながら行動している今だが、正直定着した名前で会話するので、普段からこうした方が分かりやすい。


 そんな会話をしながら、彼らは捜索を開始する。

 ここからは、推定一級相当の【弧】の構成員が出たとされる場所だ。

 男たちは足を止める。


「来るぞ!」


 次の瞬間、透明な棘が四方から飛び出てくる。

 何とか、男たちは回避をするが一人は、かすったのか血を流す。


「今までの人たちとは違うみたいだね」


 ビルの陰から声が聞こえる。

 少女だ。


「硝子魔法か!?」

「この子端島の情報に会った子か?」

「まあ、正解」


 どうせバレているならと少女──キタキは答える。

 まあ、どちらにしても、もう死ぬ相手だ。

 すでに彼とは合流している。


「オらよォ!!!」


 どこからか、聞こえてくる声。それより早く、男たちの身体をそれは貫く。

 地面が盛り上がり槍のように、人を貫く。すなわち土魔法。


 一人は回避するが、それでも悲劇れなかったのか、足に掠る。


「ッ!?」


 だが、それくらいじゃ止まらない。

 必死に足を動かそうとして──何かに身体を撃ち抜かれた。


「あがッ!?」

「微妙に力殺しやがったか?」


 それは、土魔法を行使した男──ジュウジであった。

 男は、何とか力に逆らわずに、衝撃を殺すがダメージはでかい。

 それにもう、詰んでいる。


「死ねヤァ!!」


 魔法を使うまでもないか、ジュウジは拳を振りかぶった。

 そして、【Nest】所属の男は理解する。恐らく、一級である自分すら殴殺できる威力があると。

 空を切り、その威力を実感させる。

 その攻撃は男に叩きこまれた──かに見えた。


「死ねは良くないんじゃない?」


 そんな言葉が聞こえ男は目を開ける。

 そこに立っていたのは二十代くらいだろうか?

 太刀のような柄と刃が同じくらいの刀を持ち、ジュウジを見据える一人の男だった。


「誰だよテメー」

「誰って言われても、一応トシユキって名前があるんだけど。知らないよね。えーとなんて言えばいいんだろう」


 男は一人ブツブツと呟く。


「まあ、一言で表すなら囚人ってとこかな」

「どうでもいーけど。茶々入れといてただで見逃すと思ってねーだろーな?おっさん」

「思ってないけど……おっさんか~。あ、それと動かない方が良いよ」


 もうそんな歳かと一人傷つきながらもトシユキは忠告する。

 しかし、ジュウジは気にせず殴ってやろうと動いて──


「あ?」

「いや、俺言ったんだけど。ていうか斬られたことにも気づいてなかったのかよ」


 ボトリと手首から上が滑り落ちて呆然とするジュウジにツッコミを入れる。

 驚きながらも、おっさんか~などと考え、でも童顔って言われるし大丈夫かな~と切り替えた。










 カイとナヤは作戦開始から、各地を回りながらモンスターの排除などをしていた。

 避難誘導を主に執り行っているのは、主に七校の学生であるため、彼らから情報を受け取りつつ移動していた。

 しらみつぶしに、モンスターの排除が行えるわけではないので、あまり速度と言う意味では早くはないが、それでも着実に任務を遂行していた。

 モンスターも敵組織の構成員が動きやすいよう、誘導されているようで、途中構成員の排除も同時進行で行っている。


 とは言っても、モンスター相手は面倒くさい。

 どうも、敵側はモンスターに襲われにくくなるアイテムか魔道具の類を使っているようで、モンスターによるデメリットはこちらしか受けていない。

 なら、何故、自分たちもそのアイテムを使わないかと言われれば、本当に微弱なほどしか効果を発揮しないからだ。

 そもそも、ダンジョンで使ってもほぼ意味がないようなものを持っている術師などいない。

 彼らが大人数で行動し、効果の増幅をしているからこそ、それなりのリターンがあるわけで、【Nest】に現在そこまでの品図ウ的余裕はない。

 加えて、【Nest】で記録されているものと同じ魔道具が使われているのならば、本来魔力を吸われ続けるような欠陥品と言ってもいいようなもののはずだ。

 敵から奪って使ったところで、その恩恵は得られない。


 と、そんなことを考えていた時その場にいたものが一斉に一方向へ視線を移した。

 カイとナヤ、それから実力のある学生はもちろん、かろうじて階級試験に受かったような完全に避難誘導に徹してるようなものまで。


「おい、あれが」

「1-1オーバ―のモンスター……」


 気温が上昇し、暴風が吹き荒れる。

 建物は、おもちゃのようにして、倒壊し、煙を上げる。

 それが通っただけで、その痕跡だけで居場所がわかる。


「おいおいおい、あんなのに──あんなのと幹部たちは戦ってたのかよ!?」


 あんな化け物、どうあがいても勝ち目がない。

 それは、溢れ出る魔力から、その風格から、その存在から、分かってしまう。


『七祭』にいたものでも、アデゥシロイは力を制御していたため、此処までの恐怖は感じていなかった。

 そのため、実質これが、初の喰魔との遭遇であった。


「ナヤ、幹部が抑えてたんだよな?」

「その筈だけど、今、あそこにいる」

「じゃあ、負けちまったのか?幹部たちは」


 作戦の詳細は知らせられてなくとも、階級が高ければそれくらい知っている。

 1-1オーバーのモンスターの相手を幹部と【非翼者】がしていると。

 だから、今この惨状は地獄に他ならなかった。










「そっちから来てくれたんだね」


 一人の少女が呟くようにして言う。

 見た目だけ見れば幼女と言われそうではあるが、年齢から照らし合わせるのなら少女が妥当であろう。

 そんな少女を睨むようにして、一人の男が返答する。


「来させたんだろ」

「それは人聞きが悪い。用があるのはそっち、私は態々巣から出てきて待っていたのだからそんなことを言われる筋合いはない」

「それで態々こんな高い建物の上で待ってたのか?手間を掛けさせるためだけの嫌がらせだろ」


 男──昼神タケルは悪態をつく。


「嫌がらせ?この私が人間ごときにそんなことするわけないだろう」

「どうだかな。異世界の神とやらは随分陰湿で幼稚な奴ばかりに見えたが。お前も元は神なんだろ【鴉】──いや、『黒』」


 そこまで、知っていたかと、【鴉】はため息をつく。

 少女の姿でするそれはなんとも老人臭い。


「あれらと一緒にするな。私はもっと位が高い。それに知識をひけらかせておらずに攻撃でもしてみればどうだ?憎いのだろう?私が。【鶯】を取っていい気になるのもいいが、長話は老人の特権、若いのなら拳でも剣でも振るってみよ」

「チッ!──いい気になるのも今の内だけだ。お前もわかっているだろ。あれはもう持たない」


 感情的になりそうになり自信を落ち着かせる。

 そして、【鴉】の背後、その少し向こう、米粒のように小さいビル群の一角を見る。

 次の瞬間、轟音と煙が上がる。そして、それらをかき消すほどの魔力の爆発。

 

「籠は壊れた。もう終わりだ」


 それが、意味するところは【鳥籠】の崩壊。


「そもそも、作戦に無理があったな。神の御業とも言える人間の再現性が低い【鳥籠】を軸にして作戦を立てた時点で」

「いや、それも心配はない。唯一人間の中で私に匹敵するものがまだいる」


 嘘ではない。そんなことは分かっていたが、タケルは特に反応を見せなかった。

 そんな存在がいるのにも関わらず、問題はないかのようだ。

 それに彼は知っていた。


「徳備多々良か」

「ほう……」

「そんな情報くらいは知っている。だが、彼はそこまでの脅威ではない。今回においては特に」


 彼は断言する。


「そもそも、彼の力は喰魔の影響を少なからず受けている影響か二十四時間三百六十五日ダメージを受ける」

「それくらい大したことではないだろう」


 常人にしてみれば、拷問よりキツイその痛みだが、彼は異常な精神力を持ち合わせている。

 いや、とうに狂っている。通常の世界が見えていない。

 まるで、一人だけテクスチャを変えてゲームをプレイするような。

 幻覚ではない。認識している者は同じ。でも、見える者が違う。

 そんな彼は、恐らく痛みには気付いていないであろう。

 いや、気付いているが、そこまで重要なものではないか。


 だが、彼の欠陥はそこではない。


「彼は、本気、つまり四連撃の攻撃を出したあとは基本使い物にはならない。いや、一級程度の実力はあるだろうが喰魔を止めるには至らない」

「それは、本人と私くらいしか知らないはずだが?」

「ウソをつくな。彼のサポートをしている開発者の中では有名な話だろう。そもそも、隠してもない」


 そう、何の機密でもないのだこの情報は。

 規制どころか、声を上げて広めるような、それくらいの情報。


「ただ、だからこそ、何を隠している?」

「始めから隠すことなどない。それにあれだけ分かりやすことに気付かないのなら、自身に問題があることを自覚せよ」


 あおりでも何でもなく、ただ本心であることは分かった。

 だが、タケルにはまだ分からない。

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