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173話 名前の由来


 会議室には新しい幹部である津田伊織を加え、現状の可能な限りのメンバーが集まった。


 そして、そんな中【黒帯】は思った以上に成長を遂げた伊織に衝撃を受けていた。

 そもそもの話、今回の作戦の概要は知らないまでも、津田伊織を幹部に押し上げるということは知っており一枚かんでいた。

 そして、それはここにいる【傀糸】はもちろん【鴉】も同様であった。

 だから、すべて一連のことは記憶を譲渡する前の【占いの間】の主である紗奈と【鸛】である蒼介の計画通りのことであった。

【黒帯】はもちろん承諾するにあたって【鴉】からの誘いである為信じてはいたのだが、本当に言われた通りに動いていただけで、伊織の力が増しているのは予想外であった。

 もちろん、師匠と言う立場上、伊織が紫炎を完全にコントロールできたのなら、幹部相当になるのも予想がついていた。しかし、ここ数日の段階では力の制御などまだまだで出せる火力は精々十%程度だった。だから、どうする気なのかと考えていたのだが正面からその課題をぶち破るとは思っていなかった。


 そして、そのことを証明するように他の物たちからも反対意見が出なかった。

 たとえ、覆せない結果でも大抵憎まれ口をたたく者がいるこの空間でそれがないのは異常であった。


「じゃあ――」


【鴉】が口を開こうとして空気が変わる。

 瞳の色が青から黒に代わり、幼げな雰囲気は消し飛ぶ。


「――始めようか」








 なんかピリピリした空気だったがカラスが話した瞬間に一斉にみんなが静かになった。

 すげーな。

 っていうか、俺が幹部とか良いのかな?

 まあ、決定らしいからオッケイなのかな?

 そう言えば幹部って皆変な名前だけど、本名なのかな?

 もし偽名なら俺だけ本名はちょっとやだな。


「あの~」

「どうかしたか?」


 カラスが聞いてくる。

 あれ?口調違くない?怒ってる?


「俺って、名前どうするんですか?」

「ああ、そうか」


 お?大丈夫っぽい?

 いや~幼女を泣かせたとあっては逮捕されかねんからな。

 不機嫌になったらすぐに機嫌を取らなければ。


「じゃあ、それを決めてしまうか?」


 そう言って、カラスが案を募る。

 てか、どうやって決めんだろ?


「じゃあ、俺から一つ」

「【黒帯】か。なんだ?」

「こいつには【赤帯(せきたい)】と言う名前を与えたい」

「いやですよ。なんですか?おそろいとか?」


 弟子だから言われようともおっさんとおそろとかしねーし。

 しかも赤帯ってすごいんじゃ?怒られそうだし。読み方だけ違うけど。


「お前の刀、赤い帯が巻いてあるだろう。そこから取ったんだ」

「あ、そういう?」

「俺の武器、クロウホノマも黒い帯で、それで俺の名前もついたんだ」


 やっぱ、おそろじゃねーか。

 ん?その、クロウ何とかって鬼神の集落で紗奈が聞いたって言ってたような。


「いやなら、他に案がある奴はいるか?」

「あ!はい!俺、温めてきた案ありますよ」

「【鶯】、なんかテンション高いな」

「そりゃそうですよ。【非翼者】の方々はともかく幹部の場合、受け継ぎや苗字じゃないですか」


 うぐいすっていうと、一番初めに接触したネストの人だったか。

 なんだかんだあったことなかったな。つーか、若いな。大学生くらいか?


「あの、決められないって言うのは?」

「君はそんなことも知らないのか?」

「え、あ、はい」


 何だこの人。

 いきなり突っかかってこないでくれよ。こんなたくさん知らない人がいる中で頑張って喋ってるんだから。

 と言うか、あれ、この人事前に蒼介が教えてくれた人では?えーと、なんだっけ。鉛玉さん?

 何でもかんでも噛みつくのが仕事らしく気にするなと言われたけど。嫌われたら可哀そうだな。


「教えてやる。幹部は基本、名家で育てられる。つまり、幹部を輩出する家はある程度決まっているんだ。これは血統云々ではなく、教育技術が高い家からは自然と幹部が生まれるというわけだ。それにだ。幹部に属する家々は【巣】より前、【烏合之衆】から続く者たちが大多数だ。だから、苗字が鳥であったり、そうでなくとも鳥の名前を苗字とは別に持っている」

「な、なるほど」

「ついでに言えば、この中で鳥の名前ではないものは【巣】に連なるものであってもここ何世代かでこちらの世界が入ったものが多い」

「つまり、なまり……あなたも鳥の名前ではないのでここ最近の家と言うことですか?」

「ああ、そうだ。それと、鳥の名前もありはするが幹部でない限りはそれを名乗ることはない。あと、なまりではない、エンカンだ」


 わざわざ、漢字を書いて読み仮名も降って教えてくれる。

 この人優しいな。

 と、気を直して。

 

「じゃあ、カッコいい漢字シリーズで行きますね。【鶻】【鵺】【鶲】――――」


 と、言いながら語り始めた。

 この人こっち側かもしれない。


「でどう?津田君?」

「確かにカッコいいですね。ぬえとか。ってかぬえって鳥なんですか。どちらかと言えばキメラでは?」

「そう!わかる!ちなみに鵺ってのはトラツグミのことだね」

「ほう」


 よくわからんがそういう事らしい。


「お前は本来幹部になるはずもないものだから【鷽】でいいんじゃないか?」

「ウソ?ああ、確かにいいかもしれませんね。カッコいいし」

「じゃあ、決定だ」


 このエンカンさんも態々大変だ。それに免じて甘んじて受け入れよう。あれ?そんな驚いてどうしなんだ?余程、今までひどい扱いをされてたのかな。

 あと、関係ないけど、紗奈さん怖いよ。俺がカッコいいって言った瞬間収めてたけどエンカンさんが絡んでくるとすぐ殺気を飛ばすし。

 ちなみに、紗奈は俺の背後に立っている。座ろうと言ったがここで良いと断られた。結局席は埋まったから座れないけど。


「なら、【弧】への対応について話そう」

「あ~、そういえば言ってたけど俺の名前なんて悠長に決めてる時間あったんですか?」

「それは、さっき話した通り、現在あっちは動けない状況にあるから大丈夫だよ。まあ、それでも早急に方針を決めなきゃいけないけど」

「おい。先ほどから思っていたが、少し状況の把握が足りないんじゃないか?」


 また、エンカンさんか。


「いい。わかっていたことだ。それに時間を気にするなら突っかからない方が早い」

「……」


 うお~。

 カラスって本当にトップなのか。

 前に会ったときは強いのは分かってたけど此処まで様になっているとは。


「【鸛】、簡単な説明を頼む」

「わかりました」


 では、と言って話したのは俺も先ほど聞いたことだった。

 そして、俺がこれを数十分かけて説明してもらってたのに対して、今の解説はものの二分。

 これが幹部たちの理解力!?すげー。


「【鴉】がうち一体を瞬時に倒したことで、【弧】は投入をやめて、様子見に入っています」

「ありがとう。だがこちらが瞬時に一体倒せたのは『黒』である、私がいたからだ」

「くろ?」

「ああ、津田伊織。お前もあそこに行ったならわかるだろう」


 あそこと言うと集落だろうか。

 と言うことは。


「ああ、鬼神が言ってたことか」

「あったのか?」

「まあ、ちょっと会話したくらいですけど」

「そうか。このことは今までは幹部ですら話していなかったが、今作戦前に話したため皆知ってると思う。喰魔であるあれを瞬時に倒せたのは言わば自分自身であったからだ」


 他の時代云々は話してないということだがあれが同一の喰魔であることは共有済みであるということだろうか。

 この話は俺も蒼介から聞いていた。

 カラスが瞬時に倒せたのは相手が同じカラスであったため。

『共喰い』と言う形で取り込んだんだとか。

 とは言え、それができるのは同じカラスだけで、更に言えば『神』の属性であったカラス以外の喰魔石所有者にはできないらしい。

 だから、他の『炎』を抜いた五体は物理的に倒さなければならないということだ。

 そして、それは難しい。彼らを封印したのはそう簡単には倒せないからだ。


「今の現状では【Nest】本部内に隔離している二体は別として他の三体はここではなくこちらをおびき寄せて外で使わせてくるだろう。そうなれば厄介だ」

「外だとダメなんですか?」

「ここはいわゆる『巣』だ。ここでなら、私は最強と化すこともできる。しかし、外でとなるとそのハンデはない。彼らも知っていただろうが今回のように本部の襲撃をしたのは行けると思ったからだろうが、今度は正確に力量を測っている可能性が高い。だから、ハンデを完全になくし、こちらの圧倒的不利な状況で潰そうとしてくるだろう」

「なるほど」


 ホームでは戦わせねーというわけか。


「とにもかくにもだが、まず最優先目標はいると予測される転移魔法所有者だな。喰魔に限らず厄介極まりない」

「それなら確定情報です。紗奈さんの方が詳しいよね。頼むよ」

「伊織君のためなら。名前は阿木、資料を見た方が早いと思うのでこれを」


 そう言って、ホログラム的なあれで魔素を使い表示されたのは一人の男の情報であった。

 と言うか、俺のためならってなに?なんか会話成り立たなくね?


「あのぉ?紗奈ちゃんを疑うわけじゃないですけどぉ、正確性はどれくらいなのぉ?」


 紗奈は知ったなかだが、紗奈がわかるのならそれこそネストでも把握しているはずだ。

 そう思い一応確認を取ったのだろう。


「本当です。と言うか今まで私の予言を何も考えないで受け入れてたのだからそこまで気にすることでもないと思いますが」

「ちょっと、紗奈さん何で喧嘩腰?」

「今の私は伊織君の部下。伊織君が舐められるのは嫌」

「いや、それこそ感じ悪くなっちゃうでしょ」


 紗奈は頭がとてもいい。勉強に限らず頭の回転も速い。それに人の心を理解して発言するため友達も多い。今は俺に付ききりであれだけど。

 だから、こんな発言はおかしいが。

 でも、俺のことになるといつもこうだから何とも言えなくもない。


「え?いや、この展開また続くの?」

「はぁ、これだから鳥頭は紗奈ちゃんスーパーウルトラ可愛くて何度も【Nest】の危機を救った【占いの間】の主その人だと気付かないわけ?」


 やれやれと胸を震わせる。すげーな。しかし、俺は動じない。紗奈を悲しませるわけがないだろう。

 あ~思春期つれー。

 あ、紗奈さんこんなところで俺の頭に胸を当ててきてはいけません。

 あ、煩悩が消し飛んだ。


「はぁ?あんたこそ――いや、いいや。あんたがそこまで言うなら本物だろうし」


 なんか、幹部のみんなは大変だな。

 喧嘩したり煽ったり、疲れそうだ。


 俺はそっと背もたれに身体を預けようとして。

 あ、紗奈さんまだやってたんだ。

 僕小さいのが大好き。

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