168話 青春
色々と忘れていたので読み返してみた。
読みにくかった。
矛盾点がいっぱい見つかった。
僕はサイトを閉じた。
紗奈は頭に流れ込む情報を整理していく。
そして、次のするべき行動を導き出した結果を出す。
「伊織君に会いに行こう」
恐らく記憶の整理などせずとも同じ結論に至るだろうが、今回の場合は合理的なものであった。
それは、伊織が記憶の譲渡に成功しているか確かめることである。
できていなければ手伝わなければならないと考えたからだ。
別の時代から来た自分が大っぴらに行動できなかったのは身体的に問題があったためだが、この時代の自分なら五体満足で魔法もあるし彼方の世界で学んだこと、戦闘技術まで持ち越している。動かない理由がなかった。
同時刻。
蒼介も状況の把握と共にこれからの行動を考えていた。
取りあえずみんなと合流した方が良いだろうか。
記憶を譲渡されて明らかに別の時代から来ていた自分は思考を紗奈に介入されていたが、かといって敵対するわけでもない。
と言うか、伊織が絡むとそういうことをやらかすだけで、今の彼女なら大丈夫だろう。
それに、自分の思考に介入されたのは神からの干渉を受けて介入しやすい状態になっていたからだ。
そんなへまをしなければこうはならなかった。まあ、結果的には良かったのかもしれないが。
そう思った蒼介には理由がいくつかあるが今は伊織のところに向かおうと、準備を始めた。
ゆあのためにもそれが一番だ。【弧】についての対応にしてもそれが終わってからだ。
【Nest】本部。
ここでは今回の防衛目標である【鳰】は連れ去られていた。
その証拠に現在本部には封印が解け、突如現れて高魔力反応の内六つが現れていた。
まさか、厳重に固めた上で【鸛】が裏切り、【鳰】を死に追いやるとは想定の内にはなかった。
と言う、そんな情報すらすべての幹部にいきわたってすらなかった。
わかっているのは【鳰】の死亡くらいで、質のところこれを正確に把握していたのはこの建物の中でただ一人であった。
【Nest】の頂点である【鴉】だ。
いや、そもそもの話ではあるが彼女はこの事態が起こる前から知っていた。
【占いの間】の少女である紗奈が仕組んだこの作戦はそもそもの話、【鴉】すらも絡んでいた。
だって、そうでないとおかしいだろう。
【鴉】がいるのであればいくら幹部である【鸛】であっても無傷で【鳰】の奪還など出来るはずもない。
【Nest】とは文字通り『巣』である。
つまりこの建物を形容するとき【鴉】の庭と言うわけだ。いや、その表現をもってしても生ぬるいか。
とは言え、それに不信を持つ幹部はいないだろう。
これは幹部であっても知らないのだから。
まあ、それはともかく、現在本部には七体の内三体の喰魔のなれの果てが送られていた。
三体。
それはおかしい。そう作戦を知っているものは思うだろう。
しかし、これは機転を利かせたものであった。
本来、六体を一気に送り込み、制圧する作戦であったが本部に三体送り込んだ時点でそのうち一体の反応が消滅したのだ。
そこで、すぐに他の三体を送ることを中断して様子見に徹したのだ。
実際のところ、瞬時に消滅したのは【鴉】が撃退した一体。そのほかの二体は幹部に打撃を与えていた。
ここで物量で押し切ろうとした場合。三体の時点で幹部が負傷していることを見ればすべて投入した方が良いと考えてしまうがそれは悪手であった。
認識が間違っているのだ。三体で幹部を負傷までさせているのではなく、三体であったからこそ【鴉】がすぐに動き出さなかったと考えるべきだ。
それ以上送り込んでいた場合、作戦がすでに成功しているしてないかに関わらず、少なくとも事柄は完了しているため【鴉】は容赦なく全滅させた可能性もある。
今の状況になったのは、三体程度では大した脅威にならないと考えたわけだからである。
しかし、結果【Nest】本部は大打撃を受けた形となった。
「どうするべきか」
あくまで冷静に、焦る様子を見せず【弧】のリーダーであるタケルは顎の手を当てて考える。
そこに、バカみたいに野次を上げる者はいない。
タケルが思案してるのなら、安易に力で攻めるなどと言った作戦は意味がないとわかっているからだ。
自分たちは上に従う。それだけが彼らの中にはなかった。
【鳰】の殺害による封印の解除まではうまく言っていた。
外からの思惑が関与していたのは分かっていたが取るに足らないと考えていた。
しかし、予想外だったのは【Nest】に送ったとたんにあれだけの戦力が感嘆に薙ぎ払われたということだ。
いまだ、三体分優位ではあるが些かまずい状況にもなった。
「それにアラキか」
「どうかしましたか?」
ふと呟いたタケルの声に阿木が反応する。
転移の魔法の使い手であり、今回の作戦の要である阿木は、他の有象無象とは違いちゃんとした奴だ。
もちろん、阿木が優れていつのは大いにあるが、それ以外が平均を著しく下回っているためそれが際立つ。
「恐らくアラキは裏切った」
「そうですか……」
そうは言うが本当は気付いていた。
アラキだってバレていたのを知ったうえで行動していたのだろう。
だがそれでも両者が協力し合っていたのは目的が一致していたためだ。
「アラキのばぁかあ~~!」
「悪かったって」
旧昼神邸。
そこでは白髪の男に抱き着く女性がいた。名瀬だ。
いつも勝気な彼女ではあるが、いつもからは考えられない様な行動だ。
対するアラキはひたすらに謝っていた。
そして助けを求めるようにして横で転がる親友を見た。
「まあ、お前が悪いしな」
しかし、【鳰】――いや、かなめはそう返ばすばかりであった。
「もう、確かにそうかもしれないけどお友達にそんなことを言ってはいけませんよ」
そして、それを制すものがいた夏祭りの帰りかと聞き返したくなる浴衣の少女――フヅキである。
「まあまあ、かなめも悪気があったわけじゃないと思うし」
「何で、お前が偉そうに言うんだ?」
アラキがかなめをフォローしようとして、それにかなめが食いかかる。
そして、それを聞いたアラキがけらけら笑う。
「……ぐすん。アラキ、今更だけど幹部なんだから本名で呼んじゃあ……」
そう言おうとした、名瀬に鳰は首を振る。
「いや、いいよ。もう、幹部はやめるんだ」
そういったかなめの口調も幹部になってからの乱暴な口調ではなくなっている。
「いえ、気持ち悪いので喋り方は元のままで」
「くすっ。私も男らしいあなたが好きですよ。それにわざわざ、見た目も気にしてくれたようですし」
「見た目?ああ、かなめがいきなりウィッグ取ったのって意味があったのか?と言うか、伸ばしてるって聞いてたんだが」
そんな会話を聞いてアラキはそういう。
フヅキの顔を見ていきなり痛む体を抑えてそんなことをしてビビったのだ。
「いや、あれから伸ばしてはいたんだが、前に約束したしな」
「約束って?」
「私が結婚するためには男の子として来てくださいねって言ったんです。でも、本当にしてくれるなんて嬉しいです」
「死ぬって聞かされてたからな。死体になったら髪を切ることもできないし、最近切ってその上にかぶってたんだよ」
「意外とそういうところあるんですね」
名瀬はそれを聞いて、アラキにもそれだけのことをしてくれと言う。
「まあ、それよりも空飛んで此処まで来たことの方が驚いたけどな俺は」
「早くかなめに会いたくて」
「お熱いねぇ」
そんな話が延々と続く中、名瀬が爆弾を落とした。いや、正確に言うとアラキがか。
「でもいいなぁ。フヅキさん身体が若いままで」
「確かにな。二十代の男とJKはまずそうだよな」
「おい、変こと言うな」
「たしかにどうしましょう」
と以外にもフヅキはそれに乗った。
「戸籍はあるし、凄い若く見えるってことで大丈夫じゃないか」
「そうですね。実際封印されていた間の意識はありましたし」
「私も、封印されたいとは言わないけど。この男を待ってたせいでもう二十はとうに越えたし」
「それは悪かったけど。別にまだ三十には遠いだろ」
「いや、アラキ。三十なんて一瞬よ、一瞬」
と、盛り上がっている中、入りにくいな、なんて思いながら蒼介は話しかける。
「すみませんちょっといいですか?」
「ん?ああ起きたんですか。【鸛】」
そう、実は蒼介が転移させられた場所はこの近くであった。
そして、彼らは記憶を譲渡して起き上がるのを待っていたのだが、思いのほか話の花が咲いてしまったわけだ。
「いや、今まで通り蒼介で。敬語もいりませんよ。そもそも、【鸛】の時にそれが嫌でさん付けもさせて叶ったんですから」
それに、【鸛】であった自分が体を乗っ取ったわけではない。あくまでベースはこの時代の自分だ。
「他の皆さんもそれでお願いします」
そうして、蒼介は改めて話を始める。
「じゃあ、取りあえず状況の整理から」




