166話 ■17話 fin de rêve
意識が朦朧とする。
状況がわからない。
周りからの魔素濃度は消えた。
何かがいる。
魔法を発動しようとして何故か魔力がないことに気付く。
感覚で分かるはずなのに気付くのが遅れた。失態だ。
しかし、体は優勝なようでこのポンコツな頭が命令を出さなくとも目のまえの人間の腕を切った。
……人間?
撤回しよう。
最悪だ本当に頭が回らない。
とにかく止血か。
考えても特に思いつかず取りあえず腰に刺したアヤザミカミで闇をつけてやった。
後先考える気力もなく俺は剣を振るった。
……!?
やばい、また意識が飛んだ。
うるさい。
何だ?
モンスターか?
囲まれている?
いや、それは問題にはならないがここの半径数キロ圏内多すぎだろう。
仕方ないか。
俺は刀を振るい狼の首を飛ばす。
かすれる意識の中でアヤザミカミを地面に突き立てて闇魔法でしたように死体を操る。
あっちにいたころは闇メインで使ってたため多少集中力が足りなくともこれくらいはできる。
ついでに同時に突き刺したアカイロノは飛んだ首をくっつける。
邪魔な奴は殺そう。
魔素が低いようで操った狼も弱い。
すでに何対か死んでいる。
使えない。
しかも、何かが加速してくる。
でも遅い。
ダンジョンの雑魚でももうちょっといい動きをする。
しかも、こいつ人間か?
バカでかい斧を持ちやがって。
くそ。すり抜けやがった。
このままでは地面にたたきつけられそうになる刀を止める。
折るわけにもいかない。
刀で返すより蹴りを入れる方が早いと判断した俺はそれに蹴りを入れる。
人間なら殺す必要もないし。
朦朧とした意識と思い身体で多少不意を突かれたがこれくらいのことで俺から逃れられるわけがないだろう。
まあ、でも腕の一本でも切って大人しくさせとくか。
あ?
逃げられた?
何だあれ?
氷の鎖?
あれは昔蒼介が使ってたような。
いや待て。
あれは俺か?
いや、そうだった過去に行こうとして。
同意ももやがかかったような思考を何とか働かせる。
そうこうしているうちに身体が動けないことに気付く。
馬鹿か俺はこんなことに気付かないなんて。
あの女か?
大規模術式何て使いやがって。
最悪だ。やっと意識が戻ってきたところなのに。
未だ鮮明とまでいかない意識でも記憶の譲渡くらいはできるのに。
本来の作戦を実行するだけで終わるのに。
チッ!
またか。
俺が先ほどまで感じていた魔素の波長を背後で感じる。
クソッ!
「どうして」
紗奈は一人うずくまる。
最悪だ。
失敗した。
この時代の伊織が無事なのはいいが自分の知る伊織が転移で飛ばされた。
それに姿が変わってしまった。
紗奈としては気にしないが恐らくあの話から推測すれば神が嫌がらせでもしたのだろう。
伊織の作戦は大方自身の記憶をこの時間の自分に譲渡することだろう。
それくらいは予想がつく。
だから、協力しようと思っていたのに。
伊織が決めたことなのだから、それが無しえないのはありえない。
そもそも、本来起こるはずの二十三日ではなく一日早まった時点で少しずれが生じていた。
今のろくに動けないこの身体では戦うこともできない。
使えるのは精々あの集落で学んだ術くらい。
何か方法を考えなければ。
くそ。まだ安定しない。
良くはなってきているが到底本調子とはいかない。
それにこの環境は最悪だ。
一面銀世界。
どこのゴーストタウンか知らないが飛ばされた場所はガラスの割れたビルが建つ吹雪の中だった。
ここに来て数日で人に囲まれた。
正直数秒ごとに跳ぶ意識に、更に魔力も使えず、しかも視界の悪い状況で確信もなかったが。
どうせ力を手に入れて浮足立った奴らが討伐にでも来たのだろう。
そう思ったが意外と強かった。
まあ、それでも意外と。
それでも多分数人はうっかり殺してしまったかもしれないが。意識の安定しない俺にはわからないが。
俺には――と言うか今の俺にとっては特に敵になるような奴らじゃなかった。
俺自身自分の体の変化には気付いていた。
どうせ、醜い化け物にでもなってるのだろう。
どうやって逃げ出そうかと考えたがここは島のようなのでそう簡単にも行きそうもなかった。
そんなことを考えていると無様にも俺はまた身動きが取れなくなった。
それにどういう理屈かこいつらは俺を数日では効かない長い時間縛り付けやがった。
しかし、ある時一瞬、それが緩んだ。
今なら。
そう思った。
これは封印か!?
そして無様にも封印された。
紗奈は協力者を見つけた。
蒼介だ。
いや、この時代の蒼介ではない。
今は【鸛】と名乗って幹部をしていた。
伊織の今年しか見えていなかった紗奈は気付かなかったがどうやら彼もこの時代に来ていたらしい。
そして、その蒼介に少し協力するように頼んだ。
記憶の譲渡によって悲劇を起こさないためと言い。
さらにはゆあを守るためにもなると伝えた。
紗奈の記憶では頭が固いイメージがあった彼だがいろいろあったようで非人道的な作戦だが了承した。もちろん快諾するはずもないので少し手を加えたが。
他には【狐】とか【弧】とか言う集団に伊織を結解から逃すように仕向けたがうまくいかなかった。
しかし、それは想定済みで時間はかかるもののしばらくして彼らの起こす大規模作戦に乗じてこちらも目的を達成しようと考えた。
この組織は前の時代での情報が役に立った。とは言え、前の時代ではこの時代のように作戦を実行できなかったようだが。
後は簡単だ。
『七祭』当日にことがうまく運ぶように幹部どもを本部に集めて、更にアデゥシロイとなった伊織を適当に理由をつけて『七祭』の会場へ転移させる。
そして、自分たちは自分たちで記憶の譲渡をする。
そうすればやっと。伊織との生活が送れる。
予定どうり【鳰】を殺して封印が解けたところで作戦は開始する。
封印された。
どれだけ経ったかわからない。
だが恐らく肉体は時間が止まったままだということは分かった。
封印が解けたようで俺はいきなり外に出された。それが今の状況だ。
しかし、時間が経過していないと言っても魔力は回復しているようでよかった。
身体も化け物へ馴染んだのか意識が飛ぶこともない。
まあ、でも、その最高の気分をぶち壊したのは転移であった。
またか。
そう思ったが次の瞬間、マイナスに傾いていた気持ちがプラスにまで押しあがった。
ついにだ。
こんなにバカみたいに通り道をしてやっと、やっと、目的を達成できそうだ。
目のまえには制服姿の俺。
どういう状況かわからないが高校には上がれたのか、よかった。
一瞬目が合うがそう感傷に浸ってるわけにもいかない。
ここまでもたもたし過ぎたさっさと終わらせよう。
そうすればきっと紗奈とももう一度。
俺は記憶譲渡の能力が付与された刀を自身に突き立てる。
これで、死と引き換えにこの時代の俺に記憶は引き継がれる。
幹部【鳰】を殺し伊織の転移が完了。
後は自分たちだけだ。
紗奈は今到底戦闘が出来る状態ではないので、【Nest】本部以外に用意した場所にこの時代の自分を呼び出した。
強制転移だ。
蒼介が【弧】に協力した見返りにこの時代の紗奈と蒼介を特定の場所へ転移させると約束させたのだ。
そして、紗奈が自信を呼び出したのは【占いの間】、その二号であった。
一方蒼介は別の場所で術を発動する。
それは紗奈が持ち帰った記録媒体によって再現された魔術。
伊織と同様の死を代償としたものだった。
その時津田伊織、月宮紗奈、日高蒼介が並行世界においての自分を知った。




