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天より落ちし光の柱は魔石を運ぶ  作者: えとう えと
第九章 六月馬鹿編
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165話 ■16話 Histoire des Noirs


 久しく聞いていない文明の音。

 人の喧騒。自動車の走行音。

 そして、元の世界に来たという実感が一番持てるのはやはりその視線だろう。

 まるで奇妙なものを見る目。

 まあ、実際ボロボロの服を着こんだ、まだコスプレと言った方がマシな見た目をした少女がいれば仕方がない。

 いくら、人とのかかわりを避けると言われる日本人でも目が吸い寄せられる。それは例え言葉を発さなくとも少女にとっては体で感じることの出来る周囲の反応だった。目は口ほどにも語るとはよく言ったものだ。

 しかし、このまま、突っ立っているわけにもいかない。

 紗奈は人気のない場所へ向かった。

 行動のに影響することももちろんだが、この時代には恐らくこの時代の自分や伊織がいるだろう。写真を撮られて変なトラブルが起きてもいけない。


 そういえばと対価の話を思い出す。

 対価となった腕は意外なことにくっついているようだが動く気配がない。

 生きてはいるが機能――と言うより、腕を動かすための権限が取られたようだ。

 とは言え、勝手に腕が神に操られるわけでもないが。


 少し調べた結果ここがあの日より一年と少し前だということに気付いた。

 どうするか悩んだが、ことを荒立てないように【Nest】を利用することにした。


【Nest】に入る方法は悩んだが今この時点では術師の家系以外は基本入れないので他の方法を取ることにした。

 とは言え、そう難しい事でもない【鴉】に頼るのだ。

 有用性を示せば恐らく【Nest】に食い込むことはできるだろう。

 そういう性格だと前に時代にあった時に確認している。

 あの幼女は有用なものは何でも使う。


【Nest】に入るために接触したのは【鴉】一人だけ。身バレを防ぐためだ。

 自分は占いを出来ると言い予言して見せた。

 これは元の時代で資料を読み漁ったことが功を奏した。

 正確な日付を覚えていないことが痛いがそれは仕方ないだろう。伊織のことなら正確にわかるのだが。

 そして、一つ部屋をもらった。いつか伊織の漁ったノートに書いてあった【占いの間】と言う名前を付けた。ちなみにそこに書いてあった設定どおりに模様替えをした。

 

 あの日が近づいたころに今度は12月23日についてのことを予言として話した。

 これで、【Nest】が動けばこの時代の伊織についても大丈夫だろう。

 そして、肝心の自分たちのいた時代の伊織を待ち遠しく思いながら紗奈は待った。








 飛んだ。

 そうなんとなく気付いたのは薄れる意識の中だった。

 俺の身体から何かが入って抜けていくような感覚を感じる。

 意識が保てない。授業中に寝ないようにしてる時みたいな感覚だ。

 結構な圧力がかかっても意識は安定しない。

 一瞬意識を話せば次の瞬間にはその間の感覚が一秒なのか一時間なのかわからないほどに。

 いや、そもそも意識以前に自我が。

 そこでやっと俺は自身の存在が安定していないことに気付く。

 この高密度な魔力の塊と自身の身体の境目がわからない。

 それに喰魔も様子がおかしい。

 身体がいとも簡単に解けてまた絡んでもうわからなかった。





 神の力で時空間を飛んだ津田伊織は不安定な状態に陥っていた。

 喰魔から闇の魔石を切り離した影響だ。いや、本来ならばそれもそう大きな影響は及ぼさない。

 しかし、喰魔を見出し不安定な状態にしたものがいた。

 それは、津田伊織を過去へ送った張本人、神『デニスロト』だ。人ではないため張本柱とでもいえそうだが。

 とは言え、神にこうしたことをされるのも仕方ないとも言えた。

 何故ならば、神と不仲になっている鬼神の関係者として会いに来て、更には神が最も嫌う喰魔の気配を漂わせていたのだから。

 鬼神としては神と言う存在が直接的に一個体である人間に手を出せないと踏んだのだろうがそんなことをせずともやりようはあった。

 いや、それ以前に神とされるものがたかが人間など気にしているはずもなかった。

 神の憎悪の対象は喰魔だ。喰魔と呼ばれるものたちがその名で呼ばれることからも想像がつく。彼らのなれの果て――つまり、人間などと言う下等な生き物に寄生して様々なものを獣のように喰らわなければならないという哀れな姿を揶揄して喰魔と言う名前を存在自体に刻んだ。呼称ではなく、変えられない事実としてその名前をわざわざ手間をかけて刻んだのだ、相当に嫌っていたのだろう。

 そして、そんな喰魔たちが最も嫌うことをしようとたくらんだのが今回の行動だった。

 そもそも、何故、元の歴史と1日ずらして彼を送るのか?

 それは、喰魔が最もさげすむ魔物と同等の存在にまで叩き落すためであった。


 そして、実際にその通りになった。

 津田伊織は高濃度の魔素の中で日付をずらしたことにより、近くにいた魔物を暴走した喰魔によって取り込んだ。

 骨格は歪み取り込んだ魔物同様に狼の特徴を持ち、体は深紅の体毛で包まれる。

 筋肉は異常に隆起し、骨は密度を増して人間と特徴をなくす。

 身体の膨張による力に耐えられなかった服は張り裂ける。

 唯一残ったのは体によって伸び縮みもするベルトだけ。

 そして、都合のいいそんなものに付けられた四振りの刀。

 服と言う服もなくなんとも野蛮な身なりに神が見たら笑いが止まらないだろう。


 そして、それは津田伊織だけが経験したことではなかった。

 神はご丁寧にも力を合わせて他の六つの喰魔の所持者も醜い姿へと変え、強制的に送還した。

 地球に干渉するには少々手間がかかったが何とか七個体を同じ世界の時間軸に送ることは成功した。

 そして、その時点で神は人間では考えられないほどの年月の間憎しみを抱いていた者たちへの関心を無くした。

 結果など興味がなかった。神が憤った理由はおろかにも神に迫ろうとしたからだった。

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