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天より落ちし光の柱は魔石を運ぶ  作者: えとう えと
第九章 六月馬鹿編
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164話 ■15話 saisir


 湿り気のある風に身体をさらされる。

 その感覚に初めに気付き、数秒後、たっぷり時間をかけてやっと足元に広がる緑が、そこが草原であると理解する。

 明らかに情報処理速度が遅れている思考に疑問を抱きつつも蒼介は状況の整理に移った。

 取りあえず初めに行ったのはステータスだ。特に何も取られなかったようだが、事前の情報で神との取引においては対価が必要な音くらいは調べがついていた。


「は?」


 しかし、ステータスは開かなかった。

 空気中の魔素の濃度はなぜか低いがそのせいで見えないなんてことではない。これは、ステータス自体が開いてない。

 概念自体がないかのような。

 いや、考えても無駄だろう。

 見たところ近くには建物はおろか文明の欠片も感じない。それに日本にこんな草原があっただろうか?

 しかし、それより歩くべきだろう。

 そう思い、妙に働きが悪い頭を抱えながら足を動かした。




 限界だ。何度もそう思った。

 モンスターを糧として強化された肉体はともかく精神的に疲労がたまっていた。

 時間にして三十一日。一カ月間。蒼介は人に会うこともできずにいた。

 食料は何とか食いつなぎ水も確保できたが流石にきつい。

 そして魔素がないからか日に日に強化された肉体の回復もされず疲労がわずかだがたまっている。

 川を見つけてからはそこを拠点にして活動をしているが行動が制限される。川沿いに行こうにも途中で池につながっていてできないのだ。上流は山だがそこに住んでるとは思えない。




 そしてそれは突然来た。

 あの感覚だ。神に過去へ飛ばされたときの感覚。

 足場がなくなったような浮遊感に襲われる。落下のような力の現象はないが上からの圧力が強いようで身体がきしむようだ。

 一度目で意識を手放してしまうわけだ。それにこの様子だと一般人であれば数秒もかからずに死ぬ。

 とは言え、分かっていても意識が他待てるはずもなく一度目と同じ結果に終わった。






 一度目と違うところと言えば建物があることだろうか。

 ボロボロで傾いていて童話の狼が三兄弟の豚の家を吹き飛ばすまでもなく少しの風で倒壊してしまいそうな。

 その出来は教科書で見た竪穴式住居とかそういった類よりひどい。素人がそれを再現したかのような出来だ。

 人はいないようだが取りあえず近づこう。なんて思ったときにはまた跳んでいた。





 次は視界が開けた瞬間に男に切り付けられた。

 間一髪で逃れたが男は叫び仲間を呼んだようで大勢から逃げる羽目になった。

 男の服は中華風和服と言うか、そんな感じで叫んでいた言葉も中国語と思ったが所々日本語で使われる単語のようなものがあった。

 逃げ切った後で言語理解が使えていないことに気付く。ステータスと魔法が使えなかったためもしやと思ってはいたがそうであった。

 それに、恐らく現代までは遠い。理由は分からないが恐らく何回もこのようなことを繰り返したどり着くのだろう。


 それでも飛ぶたびに精神が削られるような思いだった。




 また跳んだ。

 あれから何度飛んだかわからないがいつの間にか魔法は使えた。

 次は土豪のような場所の中だった。

 今日の成果は何十メートルだの、そんな頭のいたくなるような日々にうんざりした。

 魔法を放った。


 また跳んだ。

 言葉が通じればつながりがどうしても生まれる。

 そのせいで何度も何度も別れを経験した。

 友達が出来ても意味はなく。

 恩師が出来ても意味はなく。

 ただただ、別れの繰り返し。

 気の迷いで女に手を出そうとしてまた跳んだ。


 最近、時間の跳躍が緩やかになった。

 そもそも、ここまで来るのに日数で言えば一年と少ししかたっていない。

 それでも頭がおかしくなりそうだったが。

 頭と言えば妙に処理速度を持っていかれている原因は神にあるとわかった。

 妨害されているとかそういう話ではなく、あの神の思念を若干植え付けられていたのだ。過去に飛ばした反動でなったものではあるが、これのせいで時間のに関する事柄について敏感になてしまった。例えば時刻を時間と言うことに対してのどうと言うこともないことに足してめんどくさい違和感を感じるようになった。宗教は人を変えるが元となった神だけあって思考に介入されるようで気持ち悪かった。とは言え、言い間違いをめんどくさく指摘するくらいしか実害はないのだが。それも頭の中で完結してるため行動にはしていないし。

 

 初めはあの日までたどり着けないと覚悟したがこのままいけば大丈夫だろう。

 少し前に会った小さな女の子が高校生くらいになったりしているが、逆に言えばそれぐらい緩やかなペースになっているということだ。

 そして、もう近くまで来ている。

 あと少しだ。

【Nest】には幹部【鸛】として席を置いてあるから何かと便利である。

 彼方から見れば歳がほぼ変わらず滅多に帰ってこないなんて言う認識になっているだろう。


 

 

【鳰】に出会った。

 彼からさん付けで呼ばれるのはイヤでやめてもらったりした。まあ、これは幹部の皆に言っている事ではあるが。

 少しサポートや根回しをした。ある作戦を境に自分が知ってる【鳰】になった。人は少しのきっかけで変わると実感した。

 そして、保険をかけておいた。

 当時自身が使っていた偽名を【鳰】に教えて情報を流してくれと頼んだのだ。

 何故がツボに入って似合わず爆笑していたが了承してくれた。

 まあ数年はあるが出来る限りのことは準備ができた。


 それからは【Nest】で仕事をこなす日々だった。

 絶対に同じ悲劇は起こさないと柄にもなく誓った。

 そこから数年間時間を飛ぶことはなかった。

 

 そして、あの日。

 それがあと三日と言うところで飛んだ。

 気付いた時には1か月と言う短いスパンであったが経過していた。


 ゆあが生まれてから干渉はせずとも見守っていた。あの日にたどり着く前に歴史が変わりなにかあっても大丈夫なように警戒を怠らなかった。

 それなのに、あの日にいることができなかった。

 神が嘘をついたのか?

 それはない。

 契約は絶対だ。

 ではなぜ。

 考えても答えは出ない。

 そうして、蒼介は失意に堕ちた。

 ゆあが死んだそう思ったから。



 しかし、奇跡が起こった。

 ゆあは生きていた。

 死んだものだと決めつけていたが違った。

 本来モンスターに襲われるはずのゆあは助かったのだ。


 蒼介は喜んだ。

 会いに行けないのは残念だがそれでも気分は晴れた。

 そして完全に幹部【鸛】として活動を始めた。

 まさか、主な任務が【鴉】の御守りと言うか事後処理だとは思わなかったが。

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