163話 ■14話 au fil du temps
神が眠る祠。
そこには時間を司る神がいるとされる。
名を『デニスロト』。
三柱いる異世界の時間を司る神の一柱である。
と、そんな神が入る祠に俺は訪れていた。
あの鬼神に言われたのだ。
元の世界を観測しては見たがここから半年から数年と言う短い間で紗奈や蒼介の反応が消えるらしい。
なら今すぐ阻止すればいいと思うかもしれないがそうも行かなかった。
鬼神は時間や空間を司るわけではないが『鬼』に属する力なら扱える。
正直それが何だという話ではあるが、それによりも向こうの世界をわずかだが観測できたらしい。
直接見る音はできないもののその能力は素晴らしく存在くらいは観測が可能らしい。
その結果、紗奈と蒼介、それに詩の存在が消えるという。
そして問題はここからだ。と言うのも、紗奈と蒼介は恐らく神の力が関わっているため俺では戻った所で防げないと言う。
ならどうすれば?そう考えていた時。
そこで提案されたのは時間を遡り歴史を変える事だった。
神がいるのだから不可能だとも思われたがそうでもないようだった。
まあ、とにかく、祠に来たわけだが。
本来自分から降りてこない神が降りてきた。
「よぉ?お前か?喰魔のにおいを漂わせながら、更には鬼神の野郎の神器を身に着けてきた奴は」
と言うのも俺は鬼神からとあるものを渡されていた。
刀だ。
恥ずかしくないのかとも思ったが奴は自分の名前を付けた刀を渡してきた。
実際のところ制作に鬼神は関わっているが、名付けたのは集落の人間らしい。しかし、俺には関係ない。
ちなみにこれがどういう役割をするかと言うとこの目の前にいる(姿は見えないが)神と会えるチケット的な役目をしている。
まあ、コネがなければ大物とは会えないのだ。
「ああ、その鬼神の紹介を受けて来た」
「ほう?それでなんだ?」
「俺をあっちの世界で過去へ戻してほしい」
俺は用件を口にする。
祠の主は一拍おいて口を開いた。
「はぁ……やっぱお前スゲーな。つーか、何で『空間』の付与までされてんだ?まあ、いい。やってやるよ」
「本当か?」
「ああ、もちろんだ。本来なら時しか無理だが世界渡りも問題ない。だが、対価をもらう」
「わかっている」
俺は頷いた。
「じゃあ、対価は……。そうだな。さすがの俺でも喰魔なんていらねーから、もう片方の魔石で良いにしてやる」
「それだけでいいのか?」
正直な話それは別に困ることではなかった。
俺の刀である四本の内の二本は魔術を記憶できる。
そして、更にはアヤザミカミには闇が付与してある。
それは元は魔石だったもので実のところ俺の中にあるのは抜け殻だったりする。
それはこいつも気付いているはずなのだが。
「ああ。今回は特別にな」
「じゃあ、俺をあの日に。12月23日に送ってくれ」
そういった神は再び思案するようにしてまた口を開く。
「じゃあ、しかたねーから。サービスして22日に送ってやるよ」
「あ?いいのか?」
「まあな。んで、それにあたってだがちょっと副作用的な感じで俺の力がお前に少し付与されちまう可能性がある」
「それって駄目なのか?」
「いや、特にそういったことはない。まあ、俺の気づかいだ。俺が今から使う力によってお前が現れた時点より前の、つまり過去に存在してる並行世界も含めたお前に影響が出るわけだ」
「どんなふうに?」
「そう警戒すんなよ。付与されるのは使う力と同様に『過去』の属性だが、並行世界にもその波を流して薄める負けだから精々正確に時間が測れるくらいだろうな。んで、お前が着た瞬間に付与されると同時に力が消えてまあ、ついでに記憶からも消えるって感じだな」
そんなもんか。
「しかし、どうするんだ?」
「あ?」
「過去に戻って何するかは知らねーが、お前がいる限りその世界には二つの同一存在が存在することになるんだぞ」
「ああ、そこは考えてある」
俺は刀の内一本に記憶を継承できるように魔術を仕込んでいる。
だから、過去に着いたらすぐに過去の俺に記憶を継承して死ぬのだ。
と言うか、それを使ったら自動的に死ぬ。
「じゃあ、そろそろするぞ」
「頼む」
神の合図とともに俺は過去へと飛んだ。
紗奈は祠へ向かっていた。
聞いた話しによると伊織は集落にある二振りの神器と呼ばれるものの内の一振り、アヤザミカミをもっていったらしい。
二本と言ってももう片方にクロウホノマに関しては数百年前にあっちの世界に跳んでいるらしいが。
祠に着いた紗奈は神を降ろした。
集落での修行を経て少しだが力を手に入れたのだ。
まあ、大したことはできないが、占いの一回くらいは使えるようになった。
「またか。多いな最近は。で、なんだ?お前も過去か?」
話を聞こうと思っていたがそういわれて思案した。
伊織が過去へと行った。
予想はしていたがやはりそうか。
「そうです」
まあ、一応準備はしてきたのだ。今すぐにでも過去へ行っても問題ない。
嘘とも言えなくもないが何をしてもどうせバレるのだから気にせずそういう。
「どうせあいつの知り合いだろうが……喰魔のにおいもしないし、何より気分がいいから快く送ってやるよ。と、言いたいところだが」
「何か問題でも?」
「お前、持ってかれすぎてて何を対価に出来るかってところがな。まあ、精々腕ってとこだな。じゃあ左腕だ良いな?」
「わかりました」
「ああ、それと対価のせいもあってピンポイントでは飛ばせねーからな」
「あの日より前なら大丈夫です」
そういって紗奈は覚悟を決める。
やっと会えるのだ。
「じゃあ行くぞ」
世界を渡った時の似た感覚に包まれながら紗奈の意識は薄れていった。




