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天より落ちし光の柱は魔石を運ぶ  作者: えとう えと
第八章 赤翡翠高校編
156/193

155話 佐梁千里


 千里の試合の後は蒼介の番だった。

 しかし相手に苦戦することなく勝ってしまう。

 そしてそれはしばらくして行われた紗奈も同様だった。

『新人戦』でも同じように進んでいたため特に驚きもしなかったが、相手選手を見るとやっぱりこんなものかと思ってしまう。

 やはりこれは力を手に入れたからだろうか。

 力を手に入れたから大したことがないように思うのだろうか。

 でも、違うようにも思えた。

 力を手に入れたと言ってもまだ使いこなせていない。

 ならば俺が勝っているのは火力だけで戦闘技術は俺より高い選手何てたくさんいる。

 だから、うまく立ちまわられたら負ける可能性だってそう低くない。

 

 でもやっぱり。


「――ぬるいな」

「試合の話?」


 つい言葉に乗ってしまった心の声を隣に座る紗奈に拾われる。

 ちょっとイキッたようなことを口に出してしまい遅ればせながら恥ずかしく思う。


「うん、なんていうか。うまく言葉に出来ないけど燃えないっていうか……」


 そんなキャラでもないはずなんだけどな。


「それって、本気じゃない――ううん、死ぬ気で戦ってないからじゃないかな」

「死ぬ気で?」


 そんなことを言われて思わず聞き返してしまう。

 これは試合だし、ダンジョンでもない。

 命なんか到底賭からないし、かけられるほどの物でもない。

 この大会にはそんな交渉で血なまぐさい天秤は存在しないし、存在しえない。

 だから今の言葉には特に引っかかった。


「うん、死ぬ気で。じゃあ伊織君さっきの佐梁くんと売灰さんの試合見た時はぬるいって感じた?」

「いや、まあ、その時は感じなかったけど」

「そうだよね。それに伊織君もわかったでしょ?売灰さんが本気で殺しに行ってたこと」

「うん、まあ」


 確かにさっきの二人の試合とそのほかの試合との一番の違いと言えばそこになるだろう。

 まず前提として違うのだ。

 命を賭けるか、賭けないか。

 命を殺すか、殺さないか。

 武器を持つとか、魔法を使うとか、そんなこと以前にさっきの試合は心構えが違った。

 売灰さんは殺しに行って、千里は殺意を明確に感じた上で対応した。

 結果誰も死ななかったがでもこれは文字通り死闘であった。


 まあ、それはそれとして。


 何やだな。

 俺。

 偉そうに命を賭けるだの賭けないのだの。

 そもそも、命を賭けない前提で行われているものに、命が賭かっていないからぬるいだの。

 なに様って感じである。


 そもそも、俺自身モンスターと戦うときは命がけだが、そこまで偉そうに言えるほど命何てかけたことがないのだから。


「それより」


 紗奈がそう言ったことで俺の思考が打ち切られる。


「伊織君そろそろ一回戦は終わりそうだよ」

「ん、あ、そうか」


 そうだ俺は一回戦が終わって満足していたが、二回戦も今日の内にやることを思い出す。

 いくら日を跨いでのビックイベントとは言えわざわざ開きのあるスケジュールにするわけがないのだ。

 俺は第一試合ではないがその次なのでもう行った方がいいだろう。

 そう思い、紗奈にお礼を言って席を立った。








 二回目ともなるとそう迷うこともない。

 と言うか一回目でも迷うようにはできていないのだが。

 まあ、そんなことは良いとして俺は前例に倣い控室にいた。

 さっきの部屋と違うところに行かされるとも思ったがそうでもなかったようで、そういえば全員分の部屋があったなと思い出す。

 少し小腹が減ったので置いてあったお菓子をつまんで次の試合を予想してみる。

 予想と言っても相手は千里だとわかっている。

 俺が言いたかったのは千里の能力だ。

 さっきの試合では千里が反魔力を使っているのを確認できた。

 反魔力――つまり第二属性魔力だが、今回の大会の中で確認できたのは千里を除けば夜鳥だけだ。

 まあ、それもその筈で、本来反魔力は今のネストの学校に通っている生徒では使えるようなものではない。

 だから、本来であれば仮に使えたらなんてことも言えない。

 なぜならそれはネスト内部でも上位に位置するものがやっとほんの少しだけ扱えるというものだからだ。

 だから夜鳥が攻撃を少し逸らすだけでも反魔力を使えていたことは異常な出来事であったのだ。

 

 まあ、使えない俺がなぜこんなにも詳しいのかと言うと俺の師匠である黒帯も反魔力を使うからだ。

 そんな黒帯だが最近わかってきたが彼は相当に強者らしい。

 それも幹部からの命を直接受けるくらいには。

 恐らく幹部と言う権力の冠がないだけでその冠をとれば少し劣るにしても同じくらいの位置にいるのではないのだろうか。

 ちなみにそんな黒帯がほぼ反魔力の操作に力を費やした結果が相手の正魔力の結合の分解なのだが……


 まさかまさかである。

 あいつはそれに匹敵するだけのことをしてのけたのである。

 いや、正直黒帯の反魔力の話は鳥取ダンジョンでのことしか知らないから簡単には比較できないが。

 芸当だけで言えば今回の千里のやったことの方が数段凄いのだ。

 黒帯が結合を壊したのは完全に掌握されてたとは言え魔素の塊だ。

 対して千里が崩したのは恐らく魔法の結晶である鎌だ。


 なにがすごいのかと言うと。

 まず、魔法と魔素とでは全然結びつきが違うということだ。

 それは、魔法を使えるものと使えないものとでの体外魔素の操作性からもわかるだろう。

 魔法として顕現したエネルギーに対して魔素だけのエネルギーでは勝手に結合を外して霧散してしまう。

 それを考えればどれだけ難しいかわかるだろう。

 それに黒帯のした芸当だって本来なら出来ないと言われるようなことなのだ。

 とすると千里はどうやってあんなにも凄いことが出来るのかが少々気にはなるが。


 で、此処まで来るとこれ以上のことを千里が出来るのかと言うことになってくるのだが。

 黒帯ですらほぼ修練を反魔力に費やしてこれだ。

 それなら、それ以上か少なくとも同じだけ反魔力に力を入れている千里が他の能力を持っているのかと言う話になる。

 普通に考えてもまずないと言い切れるだろうが、多分、いや、確実にあいつは魔法の一つくらいは持っている。


 だがこれまで千里が魔法を使った記録はない、

 蒼介に調べてもらったから間違いないはずだ。

 こうなると予想の立てようもないが。


『第一試合が終了いたしました。第ニ試合に出場する選手は準備を開始してください』


 そんなアナウンスが流れる。

 聞いたばかりだけど驚きそうになる。

 完全に意識の外だったからか。


「まあ、いいか」


 そう思いなおして先ほどと同じように日の下に向かう。

 通路を通り、外に出る。

 やはり何度しても会場の大きさに圧倒されそうになる。

 しかし、すぐにそんな気持ちは振り払われる。


 目の前には千里がいるのだ。

 よそ見しているような場合じゃない。


「やっと戦える。うれしいよ」

「そう言われるとますますあの時にやれなっかたのが申し訳ないな」


『新人戦』、俺はあの時倒れて医務室に運ばれた。

 結果的にはなんともなかったけど――と言うか、魔法が一個に統合されたけど、まあ、何事もなかった。

 それだけに、なんだが待ち望んでいたのがわかると申し訳なくも思う。


「でも、反って良かった。君と大舞台で戦えるから」


 そういって、千里は会場を見渡す。

 確かにこれ以上の大舞台はないだろう。

 観客は湧き、テレビカメラは俺たちを映す。

 今一番注目されていて盛り上がりを見せるのは確かにここだろう。


「そうか。まあ、よろしく頼むよ」


 俺がそういったのと同時に観客席から声が届けられる。


『二回戦、第二試合!赤高津田伊織選手対同じく赤高佐梁千里選手!試合開始!!』


 そこ瞬間俺の刀は千里にそして千里の刀は俺に。

 俺たちは交差するように刀を交えていた。

 だが両者の刀は左手に握られる刀に弾かれる。

 そして、弾かれるときに強く当てることによって両者距離をとる。


「おいおい、刀を使うなんて聞いてねーぞ?」


 戦いでの会話は悪手だ。

 しかし、つい口を滑らせる。


「僕だって君が二刀使うとはきいていないよ」


 どうやら、乗ってくるようだ。

 そして、そう答える。


「まあ、使ったのは初めてだしな」


 俺は右手でアヤザミカミ、左手でアカイロノを握っている。

 アヤザミカミを使えるようなってからはアカイロノをしまっていたのだがまた役に立った。

 まあ、でも。


「とは言っても二刀流で戦えるほど器用じゃないしな」


 そういうと俺は首飾りに刀をしまう。

 やろうと思えばできなくもない。

 なまじ、力だけはあるから出来なくもないのだが、それでも出来るだけ。

 到底戦いに使えるようなものでもなかった。


 しかし、対する千里が持つ刀は刀身が短く二刀としては現実的にも思えた。

 彼はそのまま戦闘に移るようだ。


 次の瞬間、どちらとも言えぬまま、ほぼ同時に動いた。

 二人の刃が重なり甲高い音を立てる。

 高速で動く中で火花が舞いその数だけ攻防が行われる。

 斬りつける、斬りつけられる。

 その繰り返しに嫌気がささないほどに剣は拮抗していた。

 ギリギリで両者を釣り合わせるか細い天秤は幾度どなく揺れる。

 ほんの少しの要因で簡単に傾いてしまう天秤にほんの少しの死角から千里は重しを乗せた。

 死角から放たれる左手。そこに握られているのは短刀。それは俺の身体を貫こうと近づいてくる。


 ――カキンィィン!!


 そして、次の瞬間到底身体から出ないであろう甲高い音が空気へ吸いこまれる。

 千里の刃は自身の身体を破壊されながらも一振りの刀と呼ぶにはみすぼらしいものが防ぐ。

 それは、初めて入ったダンジョンでゴブリンが使っていたもの。

 ホブゴブリンのものでさえ簡単に壊れるというのにそれ以下の代物。

 刀身は短く刃はまるで潰してあるかのように切れ味を失っていて、おまけに悪臭までするときた。

 しかし、そんなゴブリンの刀は俺を救った。

 序盤も序盤に手入れいらずの武器を手に入れた俺は他の手後らな武器はなかったのだ。

 正直壊れることは前提として、少しは怪我を負うかと思ってが頑張ってくれたようで無傷だった。


 しかし、良かったとここで動きを止めるわけにはいかない。

 今が絶好の機会だと思い紫炎を高火力で発動させる。

 一瞬のうちに渦を巻いたそれは俺事二人を飲み込み空まで届かんとする炎の柱を形成する。

 

 魔法名は紫炎魔法だ。

 紗奈に聞かれてそう答えたのを思い出す。

 闇炎魔法とでも名付けようと思ったのだが炎を見てて気が変わった。

 闇ではなくやはりこれは紫だ。

 闇と言うには明るくて綺麗すぎる。

 蛍光色ともいえるほど明るいのだ闇とは言えないだろう。


 光に集まる虫は実は光に向かっているわけでもないのだという。

 人間は重力で上下を判断しているが虫はそうもいかないらしい。

 風が吹いたりしただけで相当な力を受ける彼らはそんなものは頼りにならないという。

 だから、位置の変わらない太陽の光を上にして飛んでいるのだそう。

 しかし、街頭などをそれだと勘違いすると光を上にして飛んだ場合そう簡単に出ることはできないらしい。

 

 とそこで紫炎は光だが闇でもある。

 と言うことは虫はどちらだと判断するのか、そう思い検証してみたところこれを光だろ思ったらしい。

 なら、これは闇とは言えないそんな風にも思ったが。

 多分これは俺の技量の差であるため本当のところは関係ないのかもしれない。

 どちらにせよステータスは何故か紫炎魔法にかわっていたからいいのだろう。


 まあ、それはともかく、この程度では千里は倒せないのだろう。

 これは想定済みのことであり特段焦ることでもない。

 予想通り千里は離脱して後ろに下がる。


 見た目は少し服が焦げたりしているようだが本人にダメージは与えられていない。

 反魔力は一が固定されて明確に連なる売灰のような鎌を壊すのは一瞬だが、俺の炎のような魔法だと少し勝手が違う。

 まあ、イメージ的には鎌は一個体だが俺の炎は何層にも連なっているような感じで、鎌は壊させるとそこで終わりだが、炎は表面が結合の分解をされてもすぐに切り離して玉ねぎの皮を剥くように代わる代わる表面を変えることが出来るのだ。

 だから、反魔力の効きは物質系の魔法よりは効きが悪いためごり押しで少しは置けると思ったのだがそううまくもいかないようだ。


「凄い……!」


 対する千里はまるで感動したかのようにそういう。


「やっぱり、今日でよかった!『新人戦』ならこんなことできなかった!」


 俺をほめるその声がまだまだ余裕だと言ってるような気がしてならなかった。

 こちらの攻撃から脱するために反魔力を使ったようだが恐らくそれだけ、未だ魔法は使っていない。

 まだまだ、本気を出していない。


「チッ」


 舌打ちをして刀に炎を纏わせる。

 そして自身の周りに火球を並べる。

 腰を落とし地面を蹴る。


 トレースするかのように同じ動きを見せる千里に宙に浮かばせた火球を飛ばしながら牽制する。

 反魔力で防がれるのは気にしないようにしつつ刀を交える。

 そして、同時に魔力を込めて地面に発生させた魔法を爆発させる。

 地雷かはたまた噴火のようにして紫炎は舞う。

 流石にまずかったのか距離をとろうとした千里に攻撃を仕掛ける。

 逃がすわけがない。

 そしてそこでついに見た。


 ――魔法だ。


 黒い稲妻。

 そう形容するのが一番当てはまっていた。

 そしてそれは俺を射抜く。

 瞬時に闇を高めるが無償とはいかず左手を負傷する。

 血が流れるが折れたわけではない。

 そんなことより今警戒すべきは彼の魔法だ。


「君のような天然物には敵わないけどこれでも十分に優秀なんだ」

「なんの話だ?」


 雷を纏う千里に聞く。

 話が飲み込めない。


「僕の魔法は唯一の成功例である人工的に作り出された混合魔法ってこと」

「つまり俺と同じってことか?」

「いいや、違う。君の魔法と僕の魔法とでは天と地ほどの差がある。もちろんそっちが天だ」


 人口的と言われてもよくわからない。

 そんな芸当が出来るかどうかは置いておいてもだ。千里が言っていることは喰魔石と同じ機能を持つものを作ったということだ。

 それはありえない。


「喰魔石を人口に作るなんて不可能だろう?」

「そうかも。でも僕は偶々成功した。何人も失敗したようだけど、まあ、そもそも喰魔の役割をする魔石を使うだけで僕以外は死んでいる。だからその次のほぼ運の積み重ねみたいなことが成功したのも偶々。それも喰魔を研究してた人も言ってた」


 喰魔を研究している人物を知って言われてもそう驚かない。

 喰魔と言う単語がそもそも機密なのだ。

 これで騒いだところで今更だ。


「それより続きだ」


 そういった瞬間黒い雷は目の前にいた。

 何とか受け流すも魔法は反魔力で弾かれ黒雷無差別な一斉攻撃は身を焦がす。

 熱に少々体制があっても意味をなさない。

 肉が斬られ血が流れる。

 一方的になぶられる。

 数回に一度は防ぐもほぼすべてをその身に受ける。


 この攻撃から一端抜け出さなければ勝利はない。

 そう考えた。しかし、そんなものはない。

 刀を振るおうにも難しく、反撃はおろか抜け出すこともままならない。

 一瞬でも動きを止められれば。

 そう思ったとき、思ってもみない方法でそれは叶った。


 魔力の反応。

 この感じは恐らく――


「――転移!?」


 そして、今はそれどころではない。

 転移がどうとかそんなことを考えている暇はない。

 対応を誤れば全員死ぬ。

 俺ならわかる。

 今から、数秒後ここに現れるのは、赤い人狼。


 アデゥシロイだ。

 

 強大な魔力を感じる。

 だが、アデゥシロイは魔力がないはず。

 だから、きっと違うなんて、そんな都合のいいことは起こらない。


 二振りの刀を携えた赤い毛並みの人狼は無慈悲にも現れた。

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