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天より落ちし光の柱は魔石を運ぶ  作者: えとう えと
第八章 赤翡翠高校編
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154話 どの兵法も大怪我のもと


 試合を終えた俺は観客席に向かっていた。

 階段をのぼりながら考える。


 先ほどの相手は霊を操る変わった相手では会ったが相性が良かったため難なく勝てた。

 相手が使ってきたのた魔法は恐らく実体化していた骸骨はともかくドラゴンみたいなのは通常触れられないものだった。

 だから、本来なら苦戦するようなところではあったのだが俺の魔法は二つの魔法が合わさってできたもので、幸いなことに霊に干渉できる闇属性を有していたおかげで苦戦しなかったのだ。


 しかし、と俺は考える。

 今回は運がよかっただけだ。

 次に当たる相手が今回みたく相性に良い相手とは限らない。

 それなりに苦戦、運が悪ければ負ける可能性もないとは言えない。

 なにも俺の魔法が弱いと言っているわけではない。その逆である。

 強すぎるのだ。

 それゆえに制御が難しい。

 だからうまく扱えない場合は自滅の可能性もあるのだ。

 先ほどの試合だってうまくいってたとは言え自身の炎に焼かれるという失敗を犯した。

 こんなこと《闇炎》を使い始めたころ以来だ。

 それだけに決着を急ぎ、相手が話しかけた時は驚いたがそれでもすぐに終わらせたのだ。


 やっと最近少しアヤザミカミの方も使えるようになってきたのだが、まだ完全に扱えるようになる前に新たな課題とは。

 何かが解決しても直ぐに課題が出てくる。


「まあ、そんなもんか」


 今まで周りに頼って自分から何かしたことがなかった俺にとっては大事ではあるものの、それでも他の人は人生の中で何度もこういうことをを乗り越えてきてるだろうと考えてみる。

 それに、まだ精神的に来るものじゃないだけ何千倍もマシだ。

 少々焦ってはいるが死ぬわけでもないのだ気楽に行こう。

 そう自分に言い聞かせて俺は強いモンスターと予期せぬ形で鉢合わせて負傷する可能性から目をそらした。

 まあ、ダンジョンから出てこない彼らと鉢合わせるなんてことはまずないだろうが。


「伊織君お帰り」

「うん、ただいま」


 そうやって挨拶を交わして席に座る。

 考え事をしていれば下のフィールドから観客席までなんてすぐのことでいつの間にかついていた。

 紗奈が差し出してくれたお茶を飲みながら椅子に腰かける。

 少し勢いよく座ってみるがよくあるプラ製や木でできたものではないので痛みもない。

 どこからこんなに金が出てるかわからないが映画館のシートのようなこの椅子は衝撃を受けとめてそれを俺に伝えることはない。


「そう言えば紗奈は行かなくていいの?」


 俺はふと蒼介の席が空いているのを見てそう訊いてみる。

 ちゃんと覚えてるわけではないが確か紗奈も近かったような気がしたのだ。


「蒼介君はもう次だから言ったけど、私はこの試合が終わってからいくから大丈夫」

「そうなんだ」


 何故か覚えてくれてたんだねと感動された俺は前に目を向ける。

 そこではすでに次の試合が始まっていた。

 魔法や様々なスキルを活用し、ド派手に戦う二人の生徒を見る。

 攻撃力は結構高いし技術だけで言えば俺なんか相手にならない。

 彼らの戦いは高レベルであり恐らくネストにいる上位の術者には一歩劣るものの学生であることを考えれば相当な実力を誇っていた。


 でも。


 何故だか醒めた目で見てしまう。

 別に俺がバトルジャンキーに目覚めたわけでもないが、でもあえて言うならば――


 ――心が躍らない。


 戦いは高次元のはずなのに茶番じみて見える。

 何かが足りない。


『試合終了!!』


 そうこう考えているうちに試合は終わりスタッフが出てきて会場が整備される。

 魔法の類を併用して使っているのか戦闘で傷ついた穴も一瞬でなくなる。

 するとまたアナウンスが流れ試合を合図する。

 いくら数日掛けて行うとは言えこれだけさっさとやらなければ終わらないのだろう。


『では続いては第五試合!赤高佐梁千里選手対紫高売灰サキ選手!試合開始!!』


 てっきり次は蒼介の番だと思っていたがそうではないらしい。

 とは言え、さりょう千里の名前を聞けば関係ないと切り捨てるわけにもいかない。


 前回の、というか『新人戦』では俺が倒れたせいで対戦できなかった相手がまさに千里である。

 どうやら千里は俺と戦うのを楽しみにしているようだが、それ以上に円卓最強と言われるその実力をこの目で確かめる必要があると思ったのだ。

 正直俺の性格的に全く他の選手を気にしていなかったのだが流石に俺のせいで試合が出来なかったとなればさすがに気になる。

 ということで、少し千里のことについては意識を向けていたのだが、あれは相当強い。

 ちょっとやそっとでは倒せそうもない。

 それはたたずまいだけでもわかってしまうほどであった。

 オーラというかなんというか。彼は魔力を完全に消したりするのが得意のようだがそれ以外に何か雰囲気を感じた。


 とは言え、対する売灰サキも相当のように見える。

 というかさっき教えてもらった娘かとやっと思い出す。

 確か、彼女も千里同様円卓だったか。


 そうこうしているうちに二人は急速に接近していた。


 いや、距離を詰めたのは売灰の方だけだ。まだ、千里は動けていない。

 何故、売灰のその小柄な体がその圧倒的なまでのスピードが出せるのか疑問に思えるほどの速度を出して、自身が見上げるほどもある相手に躊躇なく突っ込む。

 そして腕を振りかぶったと思った瞬間、死神も掻くやと言うほどの大鎌が千里の首を捉えた。

 そして無慈悲にも鎌は千里の首を刈り取った――かに見えた時千里はすでに売灰の背後を取り、狩りをお見舞いしようとする。

 しかし、寸でのところでそれはまたもやどこからか現れた鎌の腹によって防ぐも、勢いは消しきれずに後方へ飛ばされる。





 

 そこでやっと彼女が彼を殺す気で攻撃したのを理解した。

 先ほどの攻撃の際、明らかな殺気を感じたのだ。

 到底試合では感じることのない類のものを。

 しかし、それだけしなければならない理由があった。

 殺す気で行かなければならない理由があったのだ。

 そうしなければならないほどに二人の力量は開いていた。


 しかし、彼女はまだまだ想定内と言った表情で千里へ向かう。

 同じ円卓としてそんなことは承知の上なのだろう。

 再度接近した売灰は先ほどと同じモーションをとる。

 振りかぶったその姿はすでに千里に見せている。

 当然それは躱される。

 しかし、それは想定済みである。

 先ほどのように繰り出される鎌と同様に反対側からをそれは迫りくる。

 左右から展開する鎌はまるでハサミだ。

 これも躱される。

 だがそれすらも想定内。

 彼女は恐らく戦闘中に仕込んでいたであろう仕掛けを展開する。

 次の瞬間――いや、もうその時に地面から生える無数の鎌が千里に襲い掛かっていた。

 鎌はそこで初めて千里に当たった。

 千里の服の裾を掠ったのだ。

 だが、そこで止まる売灰ではなく、第三の手段を行使する。

 今までは体から直接、地面を通してと接地面を使って鎌を出していた。

 だから、無意識の内に安全だと思う場所が出てくる。

 恐らく千里も思ったのだろう。空中は安全だと。

 今までさんざん見せられてきた。この大会中だけでなく出会って数年。

 ずっと我慢していたのだ。

 一目見た時には自分がこの男に勝つにはこれくらいしなければならないとわかっていた。

 だからずっと準備してきたのだ。

 そして今がその時。

 決勝と言う華々しい舞台でもないがそんなことは関係がなかったただ勝つためにしてきたことだ。

 いつもより調子がいい。服とは言え開始早々傷まで与えた。そして、今千里は空中にいる。

 絶好の機会だ。

 今しかない。

 そんな思考はコンマ一秒もしないうちに結損を出して――いや、もう何度もシミュレートしたそれは考えなくとも反射で勝手に体が動く。

 呼吸をするように使える力。

 それは時間のロスを小指の先ほども与えることもなく発動する。


 数も数えられないほどの鎌が空中を占領した。

 逃げ場などない。

 防ぎようもない。

 死んだかもしれない。

 でも、それでも、彼に勝つにはそれしかないのだ。


「……やった」


 彼女は可愛らしく声を上げる。

 今まで張り詰めたものがほどけたように思う。

 しかし、油断などしてはいないまだ鎌は展開している。


 ――鎌が崩れた。


 そう分かった。

 いや、分からない。

 崩れる?

 意味が分からない。

 鎌に亀裂が入ってボロボロになって風化したように壊れた。


「いや、惜しかった」


 彼はボソッと呟く。

 確かに惜しかったのだ。

 これが魔力を固定化した鎌でなければ少しは違ったかもしれない。

 例えば炎のようなものなら反魔力により影響も多少なら受け流せたかもしれない。


 しかし、分かるわけないのだ。

 恐らく学生の中では一番と言っていいような反魔力の操作技術がある夜鳥でもこんな芸当はできないのだから。

 できない前提の物を対策するなど出来るはずがない。

 いや、それ以前に売灰は反魔力を使われたことにすら未だ頭が追い付いていない。

 頭の中にその可能性は完全なゼロであるため思い当たる節などあるわけもない。


 それでも、負けるわけにはいかない。

 そう、とにかく攻撃しなければ。そう思い魔力を込める前に千里は意識を刈り取った。









 圧倒的だ。

 先ほどまでの試合とは全く違う。

 あんな茶番じみたものとは違う。

 あれだ。

 そう思った。


「伊織君どうしたの?」

「いや、何でもないよ。ちょっと次の試合が楽しみになっただけ」


 端末に通知が来て決定的になる。

 次の俺の相手は佐梁千里だ。

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