151話 Q枝が重さできしむさま
七校とはネストがなんちゃらでなんちゃらの学校のことを言うのだが学校名にはいずれも色が含まれている。
例えば、アカショウビン高校とか、アオサギとか、き何とかとか。
後の奴は良く知らないが色を含んでいるというのは聞いたことがあった。
「つーか、実際のところ七校って言っても詳しくないから誰が強いとかわからないんだけど」
ふと思ったことを口にする。
いくら七校と言ってひとまとまりにされても他校の詳しい事情など知らないのである。
「まあ、そうだろうね。多分在校している伊織よりネットでの情報を見てる部外者の方が詳しそうだし」
それは個人情報が駄々洩れでは?
というか、そこまで知らん高校に興味がある奴がいるのか。
「伊織は、赤、青、黄高以外は知らなそうだから他4校で一人ずつ話すよ」
「うん」
「じゃあ、まず他の四校の名前は知ってる?」
「あ、えーと、緑高とか橙高とか」
「緑はあるけど橙はないね」
「あ、そう」
「あるのは、緑燕高校、紫鷺高校、金目梟高校、銀椋鳥高校だね」
蒼介はそういうがてっきり虹の色に由来してるかと思っていたがそうではないようだ。
というか金と銀とかギラギラしてんな。
制服に色が入れられるのならネクタイが光ってるんだろうか?
そう思い周囲をチラ見するがそれらしい制服を着ていた生徒はそんなコスプレじみた服ではなくボタンなんかの細部が銀の物になってたりした。
「じゃあ、ちょうどそこにいるのを見つけたから緑高の人から紹介するね」
そういって蒼介が見る先にいる人物を見る。
ネクタイが緑色の特徴的な制服を着た男子生徒だった。
落ち着いた印象がある。
「彼は古閑直人。学年は二年で魔法はなし、主に気を使う人物だよ」
「気ってあれだよな階級試験でも見た奴。えっと、八雲とチダが使ってたやつ」
「そうだね。でも彼はそれだけじゃないんだ」
蒼介の言葉にまあそうだとは思う。
気が決して弱いわけではないのだがそこまで戦闘における選択肢というか汎用性に欠けるというか。
それだけに相手に対策されやすいのだ。
「彼の場合は気を体術以外に活用できるんだよ」
「体術以外に?」
「うん。簡単に言うと体外に影響を及ぼせる」
「体外にって、そりゃ魔力を使っても難しいぞ。魔法を使えば話は別かも知れないけど」
気は魔力と比べて体内で使うことに適しているエネルギーだ。
それを魔力でさえ魔法というツールを使わないと難しいことをするということだ。
言うなれば電気だけで家電を再現するようなものだ。
まあ、そこまで可能性がない話でもないがそこまで簡単な話ではない。
「まあ、気と言うだけあって体術と組み合わせる形になるからそこまで派手なものではないけど、相当に凄いよ」
蒼介がそういうなら相当なんだろう。
「で次がこの人だね」
「これ何の写真?」
写真に写るのは一人の少女だ。
しかし、気になるのはそこではなく、その少女の写真写りが異常に良いことだ。
黒髪が似合う少女でおしゃれなコートを着こなしている姿はとても戦うようには見えない。
「なんかの雑誌の写真らしいよ。調べて出てきたのがこれだったからよく知らないけど」
「モデル的な奴か」
「そうらしいね。名前は與那紀七。使うのは身体強化を軸にした剣術だね」
「確かに刀は似合いそうだな」
「似合うだけじゃなくて技術も凄いよ。まあ、凄すぎて僕には正確に測れない領域にいるけどね」
「勝てないほどに?」
「さあ、やってみないとわからないけど。でも、負ける気はないよ」
わからないと言いながら割と自信満々に言うな。
「紫鷺高校で言うとこの子かな。売灰サキって子で僕たちと同じ一年で円卓の人だね」
「ああ、円卓か」
そんなのあったな。
確かさりょう千里もそんな感じだったか。
「で、最後に金目梟高校の呉服黒鵜。三年生でこの人も円卓だね」
「ごふく?」
「この人は闇魔法を使うね」
「俺とおそろいじゃん」
炎とか闇とかメジャーな感じの魔法を持っている俺ではあるが地味に同じ人と出会ったことがなかった。
そもそも希少性が高いのでそんな者かもしれないが。
「ま、こんなとこだね」
「ありがとな」
「気にしないでいいよ。いつものことではあるし、それよりそろそろ行こうか」
「何に?」
行くって言われても心当たりがないので聞き返す。
今回に限っては聞いてなかったなんてことはないはずだが。
「開会式だよ。選手は全員下に降りて整列だよ」
聞き忘れていたようだ。
「伊織君一緒に行こ!」
「う、うん」
紗奈が待っていたとばかりに手を出してくるのでとりあえず握った。
最近は何かと面倒をかけているからか前にもまして手を繋ぎたがる。
こちらもいやではないので喜んでつなぐが、他の女の子に気を取られると、手を握りつぶされそうになるので危ないのだ。
ネストの大会である『七祭』『新人戦』ともに服装は動きやすい運動服や体育着、ジャージの類ではなく、制服が採用されている。
これにはいかなる時でも戦闘が出来るようにとか、まあ、いろいろあるのだが実のところ案外ジャージを使うよりも戦いやすかったりした。
制服と言ってもただ高い生地が使われているわけではないのだ。
この制服には様々な魔法的な技術が使われており戦闘服としての性能が高いのだ。
それをジャージに付けた方がよさそうでもあるのだがこれを一着作るのにも結構なコストがかかるためそれはできないそうだ。
本当かどうかは知らないが。
ということで、いまフィールドに集まっている生徒は皆制服を着ている。
学校ごとに整列させられた俺たちの視線を向ける先には朝礼台があり二人の生徒が立っている。
選手宣誓を行うために選ばれた男女二人、甲野希湖ノ、古閑直人の両名は一斉に声を上げる。
「「宣誓ーー!!」」
「僕たち!」
「私たちは!」
「「【Nest】特別戦闘基準法にのっとり――」」
なにその法?
前に言ってた法律での規制法だったか。
というか、俺内容知らないけど大丈夫かな?
「「――最後まで全力で臨むことを誓います!!」」
次の瞬間スタジアムを囲うようにして花火が打ちあがり、観客席から大量の拍手と掛け声があがる。
『七祭』が開幕した。
花火が上がるなんて聞いていなかったが凄い気合の入りようだな。
まあ、当たり前のようにテレビカメラが並んでいるからそこまで驚くこともないが。
しかし、今回は手が込んでいる。
『さあさあ、始まりました!『七祭』!!実況はこの私、銀高三年、公咲小桜音と解説の――』
『【Nest】幹部の【鶺】でぇす!!よろしくね!!』
『ありがとうございます!きっと今ので男子生徒のやる気は鰻登りでしょう!』
まあ、そりゃそうだろう。
あんなにでかいものを強調している女性を見ればそりゃ――
とは言え俺は紗奈一択だ。
俺はない方が好きなのだ。
ちなみに全くないわけじゃない。
何というか発展途上な感じだ。これ以上発展しそうもないけど。
これは紗奈の名誉のために言わなければならな――
「痛っ!!」
「伊織君、変なこと考えてない?」
セキレイさんのことは考えていなかったのに。
「そ、それより俺たちはまだだし上に戻らないか?」
俺は素晴らしい機転を利かせてその場を乗り切ったのだった。
「伊織君は小さいのはイヤ……?」
「普通に好き」
僕たちも高校生こんな会話もするさ。




