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天より落ちし光の柱は魔石を運ぶ  作者: えとう えと
第八章 赤翡翠高校編
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149話 噂をすれば何とやら


「よし、これで完了っと」

「お、編集は終わったのか?」


 PCから手を放し椅子に体重を預けたコウスケにシュンヤが話しかける。

 配信業をしているコウスケのリア友であり、本人も動画配信をしているシュンヤは事情の把握はしているため気軽に話すことができる唯一の仲である。

 そんなシュンヤだからこそ行動をくみ取り今の言葉をかけたのだ。


 コウスケは現在『七祭』に向けての動画を制作していた。

 日本中の注目が集まるこのビックイベントに関連するコンテンツが伸びることは分かっていた。

 これを逃す手はない。


「後は最後に確認するだけだな」

「ふーん、俺も見てもいいか?」

「やだよ」

「いいだろ?」


 シュンヤにそういわれるが投稿するとは言え目の前で見られたくはない。

 だが結局嘆願されて仕方なくその場で再生することになった。







 動画サイトに一本の動画が投稿される。

 投稿者にはコウスケの文字がついている。

 配信が主流のコウスケだが赤高受験の際の配信から知名度が上がりこの界隈の配信者の中でも上位の部類に入っていた。

 そんなコウスケだからこそ普段滅多にしない動画の投稿でもそれなりの再生数が回った。


『今回は『七祭』が近いということで七選厳選して注目選手の紹介解説をしようと思います!』


 軽快なBGMと共に明るい声が流される。

 テロップには賑やかなエフェクトまでついて画面の下部を占領する。


『じゃあまずは一人目』


 画面が切り替わり写真、名前、出身校、学年が表示される。


『その美貌と剣は人々を魅了する。色葉葉月さんです。葉月さんの使う魔法は灼熱魔法でその魔法が舞う姿は桜のようでもありますね!』







「葉月ちゃんこれなんかどう?」

「うーん」


 とあるショッピングモールで葉月と友人である莉世は買い物に来ていた。

 今日は無事に莉世が目標の成績を達成できたことへの祝勝会を兼ねていたりする。

 一時は退学の危機に迫っていた莉世だが最近では葉月の指導のかいあってか成績も徐々にだが上がってきている。

 勉学に関しては元から上位の部類なので問題はない。


「私の服を選ぶよりこういうかわいい服を莉世に来てもらいたいんだけど」

「えーでもせっかく葉月ちゃん可愛いんだから着せ替――着てほしいなって」


 そんな二人はお互いに譲らず言い合うが割といつものことである。

 葉月は学校で一二を争うくらいには見た目の上では可愛いため莉世としてはいろいろと着せ替えをしたいのだ。


「あ!あれ?あの人」

「げぇ」


 莉世が何かを見つけそれにつられて葉月が見たところでそんな声を出す。

 人を滅多に嫌いにならないのが葉月という人間ではあるが、そんな葉月が嫌いな人間が二人いる。

 そして、そのうちの一人がそこにいた。


――『ということで二人目、夜鳥五偉子(よどりごいこ)さん!』


「あらあら、莉世さん……と私より一つ順位が()の色葉さんじゃないですか?」

「こんにちは夜鳥さん」

「こ、こんにちは。奇遇だね……」


 夜鳥五偉子。

 一年次から現在三年次ともに青高内の順位は五位である彼女がいた。

 そして、葉月より順位が一上ということを強調している彼女だがそれ以上に気に食わないことがある。

 それは以前莉世が退学の危機に陥ったのはこの少女が急に転入してきたからだ。

 彼女にその意思がなかったとしても到底仲よくしようなどとは思っていなかった。

 とはいえ、葉月は自身の思うほど器は小さくなく実のところそれに関しては彼女に悪感情は抱いてなかった。

 つまり、彼女のことが気に食わないというのは普段からの言動なのであり過去のことは関係なかった。

 その自覚がないために何故莉世が気にせず喋っているのかなどと考えてた。


「あら、その服は色葉さん用?」

「そうなんです!でもあまり乗り気じゃなくて」

「えー、ヒッドーイ!色葉さん顔だけは良いんだから着てあげればいいのに。私より下だけど顔だけは良いのに」


 わざとらしくそんなことを言うこの女に対して少しイラつきそうになる葉月だったが、煽ってはいるものの夜鳥本人で気にも嘘はついていなかった。


 ――『そう、そして夜鳥さんは先ほど紹介した葉月さんより順位が高いんですよね――』


「っていうか、さっきからうるさいんだけど!」


 葉月は指をさしてそういう。

 先ほどから夜鳥の持つスマホから彼女を讃える声が聞こえてくる。

 しかも葉月と比較してやれ順位が高いだのとうるさくてしょうがない。


「ごめんなさい。いくら事実とは言え順位が下と言われればいやよね。順位が下と言われれば」

「動画ですか?」

「そうなの、『七祭』が近い関係でこういう動画が多く投稿されてるけど動画は私に関しての情報が正確なの。ほら例えば色葉さんより順位が上だとか」

「それくらいなら他の動画でも嘘はないんじゃないの?」


 葉月はそういってみるがわかってないといった表情を浮かべた夜鳥は口を開く。


「いいえ、それは違うわ。もちろんこのチャンネルは配信メインというだけあって編集はそこまでうまくないけど肝心なところはそこじゃないのよ。肝心なのは色葉さんと私を比較しているということ。しっかり私が上で色葉さんが下ということを伝えてくれる動画が貴重だってことよ」


 と力説する。

 まあ、確かにこれからこの中で優劣が決まるというのにどちらが上だとか語る方が珍しいと言えるだろう。

 もちろんこの動画をしっかり見ればしっかりこの後に最近の二人のデータが示されどちらが勝つかわからないという絞め方になるが。


――『続いてはこの方!佐梁千里さんです!』


「イケメンだよね!」

「莉世はやめといたほうがいいよ。こいつ絶対やばそうだし」

「同感ですね」


 莉世の発言に対して珍しく意見が一致する二人。

 このイケメンは遊んでそうで危ないと思ったのだ。


「ひどいな。正直友達少なくて悲しいくらいなのに」

「ひっ」

 

 その瞬間声と共に現れた男に小さく莉世は悲鳴を上げた。


「盗み聞きとは趣味が悪いと思いますけど」

「大丈夫莉世?」

「う、うん」


 莉世とは反対に落ち着いた対応を見せる二人。

 今の気配に気づけるか否かを見れば二人と莉世のレベルの違いを推し量れるというものだった。

 とは言っても今のは気配をある程度消したものであったため莉世の実力がないというより二人が凄いという話ではあるが。


「ああ、ごめん。気配を消してたのはあまり注目を浴びたくなかったから」


 実のところこれは本当のことであった千里はそのルックスのためか人も注目を集めやすく普段は気配を最低限経っているのだ。

 とはいえ、先ほど近づいたときに気配を消していたのは実力を見定めるための行動でありあえてではあった。

 それと、どうでもいいことではあったが友達が少ないことは事実だが実のところ気にしてはいなかった。

 彼の性格を知るものからすれば先ほどの悲しいなんて発言を聞けばさぞ驚いたことだろう。


「それで、僕の話をしてたようだけど」

「はい。この動画見てて」


 一番驚いていた莉世だが誰よりも早くそう返す。


「へぇ。これ津田伊織くんは出るの?」

「えっと、夜鳥さん知ってる?」

「ええ、ちょうどこの後に出ますよ」


 そういって教えるが夜鳥は意外と千里と言う男が津田伊織を気にかけていることに驚いた。

 もちろん彼女自身津田伊織が逃げたとは思わないが単なる一選手でありそこまでの注目されるような人物ではないように思えるのだ。


 ――『次はこの三人を一気に紹介!津田伊織、月宮紗奈、日高蒼介!この三人は関係が深いのでそれも擦れつつ解説しますね』


「三人同時か……?津田伊織君の出番減らないかな?」

「というか、居座る気なの?」


 さっきからそんな気はしていたがここで見る気満々の千里に葉月は驚く。

 本人は気にした様子もなく小さな画面を見ている。


「ゆあは何着たい?」

「蒼介君が選んでくれれば何でもうれしいけどなぁ」

「伊織君、私は退屈させない女だから買い物長くないよ」

「いや、別に紗奈のためなら待つけど」


 とそこに現れたのは今動画で開設されている一行プラス桜庭ゆあ。


「え、なんか噂をすればみたいな力があるのかな?」

「いやいや」

「確かにありそうねですね」

「津田伊織君だ」


 動画で紹介された人物が次々とやってくる事態に驚きながらも、そんなことは気にせず千里は近づく。


「津田伊織君だよね?」

「え、えーと。さりょうくんだっけ」

「そう、あと千里でいいよ。呼び捨てでね。それと『七祭』で戦うの楽しみにしてるから」

「え、あ、うん。いや、前はごめん。言い訳みたいだけどぶっ倒れちゃってさ」

「いいよ。次で戦えるし」


 そういって言いたいことを言い終えたよう感じだったので葉月は取りあえず挨拶をしておく。


「久しぶりだね。いきなり話しかけて申し訳ない」

「いいですよ別に。ね、皆」

「私は気にしてないですよ」

「伊織君はどう?」

「気にしてないけどそれ聞く?」

「皆さんもショッピングですか?」

「そうなんだ。ちょっとした祝勝会というかなんというか」


 本当は二人で楽しむはずだったのだが。


「そっちは?」

「僕たちは新しくダンジョンに出来たって聞いてきたんですよ」


 このショッピングモールはダンジョンに出来たものであった。

 ダンジョンが現れてその近くにはダンジョンに役立つものなどを売る専門店や飲食店などが出来ている最近ではあるがショッピングモールが出来たということで来てみたのだ。

 とは言え、この数年でそんなものは珍しくもなくなっているのだが今頃知った伊織が騒いだので後の三人が誘ったのだ。

 ちなみに騒いだだけで行きたいとは言っていない伊織ではあるが紗奈に頼まれて渋々来たのであった。

 とは言え結構楽しんでいるというのが現実である。


「あれ、そういえば千里と仲良かったんですか?」

「いや、仲良かったというか。今あったばかりというか」


 葉月はここまでの成り行きを話した。

 そして、ついでに全員と自己紹介もすました。


「まあ、でもダンジョンの近くに建物とか万が一の時モンスターとか出てこないのか」

「うーん。それこそ万が一だろうし。まあ、なくはないかもね。ここはダンジョン近くというよりはダンジョン内だし、逆に言えば対処できる人しか来ないともいえるけど」


 このモールはダンジョンにつながってるわけではないが少しダンジョンの特性を利用してダンジョン内にある空間に作られているのだ。

 とはいえ、実質的にそれはダンジョンに入る許可が下りていなければ入場できないので一般人が来るというわけでもないが。


 まあ、でもモンスターが出る可能性もゼロではないのだ。

 未だダンジョン内のモールというのは試験段階と言っても良い状態でありそれが入場前に警告されるほどには安全性があるわけでもない。

 つまり、まあ。


〈モンスターがモール内に侵入――〉


 けたたましいサイレンと共にアナウンスが流れる。


「これ俺が悪い?」


 伊織はフラグを立ててしまったかと考えたが実のところここにモールを入れるということ自体が無理があったのだ。

 モンスターは基本的にはダンジョンから出ないがそんなモンスターが魔力に反応して外へ出ることがあるのだ。

 となればダンジョン内で魔力量が多いものたちが集まっていたら狙われるに決まっているだろう。

 これはモンスターのことなど良くも知らない業者がここを手掛けたせいでもあった。

 少しこの分野に明るければ対策の取りようもあった、というか対策を取るのは本来当たり前であり今回が異常だったというべきか。


「これって、避難?それとも手伝うべき?」


 そんなことを伊織が問うがそうも言ってられない。

 もうモンスターは見える位置まで来ている。

 となれば応戦しかない。


「くっそ」


 伊織が刀を取り出し魔法なしで攻撃していくのに対して近接が得意なものが続き他は遠距離からの攻撃にいそしむ。

 伊織が魔法を使わないことに誰も突っ込まないのは魔法耐性あるモンスターに切り込んだからである。

 ここにいる人間に瞬時にそれを見抜けぬものはいない。


「《鎖》」

「はぁッ!」


 蒼介が拘束しそれを葉月が刀で斬る。


「《有明月》」


 紗奈が首を刈り取り千里が残ったものを対処する。

 そこに夜鳥が攻撃を入れ、ゆあ、莉世が続く。


「でけーなあれ」

「そうだね、天井すれすれだし」


 そして現れるのは大型のモンスター。

 皆が身構えたその時。


「ドアノック拳法ッ!」


 一人の男が高速で現れる。

 繰り出されるのは目にもとまらぬ四連撃。


「《交響曲第5番(四連ノック)》ッ!」


 その男の名は――


 ――『最後はこの方!一番の注目株、徳備多々良さんです!!』








「コウスケいいのかこの人入れて?」

「ん?ああ津田伊織?」


 シュンヤに聞かれてそういうと頷かれる。


「世間的なというか動画の評価を狙うとすると悪手じゃないか?」

「かもね。でも俺はちゃんとあって知ってる、あの人が相当に強いってことを」


 コウスケはそういって笑った。

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