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天より落ちし光の柱は魔石を運ぶ  作者: えとう えと
第八章 赤翡翠高校編
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146話 夜の蛇は笛に寄る


「まず初めにこれについてはあっているかどうかは分からないということを――」

「伊織君!!」


 芥生が話そうとしていたところで誰よりも次の言葉に注目していたはずの紗奈が話を遮った。


「紗奈ちゃんどうし…た……?」


 そう訊くまでもなく一目見ただけで状況を理解する。

 シーツのすれる音に息遣い、それは紛れもなく生きている音だった。


「伊織君」


 紗奈が呼びかけると伊織は重くなった瞼をゆっくりと開ける。

 視界がやっと開けたのかあたりを見渡す。


「これ、どういう状況?」


 先ほどまで生死の境を行き来していたような状態であったはずの伊織は只寝て起きたかのようにそうつぶやいた。


「芥生先輩、これを予想してたってことは……?」

「いや、ないな。というか完全に外したから聞かないでくれよさっきの」


 芥生に蒼介が訊いてみるがそんな返答が返ってくる。


「それで今どんな状況――ッ……!」


 伊織が改めて聞こうとした時、伊織の身体から魔力の高鳴りを感じ次の瞬間魔法の暴発が起きる。

 あふれ出るのは紫に染まる炎。

 一秒も経たないうちにこの部屋を支配するがすでに皆が退避あるいは防御に入っている。

 ただ一人紗奈以外は。


「ッ――!」

「伊織君」


 しかし、伊織から離れようとしない紗奈が伊織もろとも炎に包まれたかに見えた時。

 それは渦を巻くようにして二人を避けてそして一瞬にして消えた。


「はぁ、はぁ……あぶねー」


 炎の中心にいたはずの伊織は息を荒げて片手で紗奈を抱えながら開いたもう片方の手が床をつく。

 そこでやっと伊織から芥生は目を離し部屋の様子に目を向けるが焦げ目一つついていない現状に驚くのだった。

 初めに放たれた炎は完全に魔法的側面から見ても単純な自然的な炎としてみてもかなりの威力のあるものだった。

 しようと思えば『燃やす』という現象をなくすことはできるだろうが、今の炎は完全に津田伊織の制御下を外れていた、そのうえで完全に掌握して部屋に広がり切る前にそれをなくし更に熱の制御まで行ったとなれば異常なまでの技術を有していると言うほかなかった。


「おいおい、誰だよ。いうほど大したことないって言ったやつは」


 そうひとり溢すが他のだれかの耳に入ることはなかった。

 しかし、そんなことよりも喰魔石と魔力量にしか注意がほぼ向いていなかった少年の評価がありえない速度で上がっていることを処理する方が芥生にとっては重要であった。








 いきなりぶっ倒れた時も我ながらビビったが、今の炎にはもっとビビった。

 何とか止められたからよかったが危なかった。

 あと、紗奈が離れてくれない。

 なんとか座ることはできたがさっきの抱きかかえた体勢からずっと腕を回してきてるのでほどくこともできない。

 いきなりぶっ倒れて心配かけてしまったかもしれないが人の目があるのにとか思っていたら対面に似たような状態のやつを見つけた。


「えーと、イオさん久しぶり」

「久しぶり……津田君」


 お互いぎこちなく挨拶をかわす。

 ため口だった言葉遣いも敬語になってしまった。

 そして、お互い大変だなという視線を向ける。

 紗奈が抱き着いて離れない俺と、はとさんが離れないイオ、傍から見ればとても不思議な絵面だろう。


 しかし、話していれば慣れてくるというもので数分後にはもう気にならなくなっていた。


「いやー高校こそは趣味を全開にしようと思ったけど難しいね。まぁ、そもそも、学校に行く日も少ないからあれだけど」

「え、以外。趣味の方は想像つくけど毎日学校行きそうなのに」

「うーん、今までだったら遅刻すらしなかったんだけど。この待遇ってこともあるし、この人が朝離してくれないからってのもあってなかなか」

「あー想像できるわ。まあ、俺なんか逆に手を引かれて毎日行ってるから休んでも怒られないなら紗奈いないと不登校になるかもな」

「あ、あと、部活とかしなかったり学校行く日が少なかったりして気付いたことがあるんだけど、思い出が少ないんだよね。それで、未だに皆忘れている一年の自己紹介とかの記憶が懐かしくないんだよね」

「あー部活がなくってってのは分かるわ。放課後とかも人と過ごさないと何処かによるとかないもんな。思い出したんだけど自己紹介と言えば趣味の欄にヲタクって書いてあってビビった」

「あーいるよねそういう子。で、それほどオタクでもないみたいな。知ってるアニメは子供向けアニメだけとかね。オタクは趣味じゃなくて人種だろって感じだよね」

「そうそう、本物のオタクはその欄にアニメとかラノベとかって書くよな。あと、そもそもオタクなんて名乗れないし」

「わかる、ホントに凄い人とかってマニアックな設定とかほぼ記憶してたりするからオタクなんて名乗れないし結局好きとは言っても自分で名乗るならにわかとしか言えないよね」


 そんな会話に花を咲かせていると徐々に体にしまっていく紗奈の腕。

 態々話を遮ってこないだけ気遣いなんだろうけどもう限界。

 ミシミシと音を立てそうだ。


「話に花を咲かせてるとこ悪いんだけどさっき伊織が言ってたように状況の整理がしたいんだけど」

「自分で言ったのに忘れてた」


 偶にしかこういう話できないからつい盛り上がってしまった。


「で、初めに聞いときたいんだけど俺どれくらい寝てた?」


 試合をすっぽかした自信はあるのだが数時間寝たのか数日寝たのか全く分からない状態だった。


「えーと、大体一時間強ってところかな。今はまだ昼休憩だから僕たちの試合に影響は出てないよ」

「そうか、ならよかった」

「それで、僕がここにいる人たちに助けを頼んだんだけど芥生先輩に関しては知らないだろうから紹介するね」


 そういって、蒼介が見たのは爽やかイケメンだった。

 なんか理想形って感じの見た目だな。

 細マッチョで暗すぎず明るすぎず、なんていうかスタンダードイケメンって感じだ。


「よろしく、津田伊織。俺は芥生連、お前と同じ喰魔の所有者だ」

「よろしくお願いします。えっと、来てくださってありがとうございます」


 ありがとうございますの前に何を着けようか迷ってからそういった。

 助けてくれてだと違うし、なんていえばいいんだろうこういう時。


「いや、気にするな。俺が来たのは蒼介に呼ばれたからだし。それに、紗奈ちゃんを大切にしてるようだし、まあ、お前はフツメンだけど助ける価値はあったってことだ」

「あ、はい」


 ツンデレとかではないなガチでそう思ってるってことか。

 そして、恐らくこの人はイケメンに対してまず価値を見出しているが別にブスだからというあれはないのだろうか、なんていうかイケメンは特別だが容姿では差別しないというか。なんかよくわからんがフツメンという言葉には悪意はない様だ。

 まあ、悪意はなくても気に障る人は大勢いそうだが。


 そんなことを考えているとガシッと腕を首に回される。

 そして、他に聞こえないような音量でささやいてきた。


「それでお前どうやって紗奈ちゃんを落とした?」

「それでって何ですか?」

「いいだろ、さっさと答えろよ」

「いや、でも俺特に何かしてませんよ。むしろ俺が普段世話されてるくらいで」

「この性格でヒモ適正か、珍しいな」

「何の話ですか?」


 この人距離の縮め方エグいな。

 陽キャはみんなこんな感じなのか?


「離れてください」


 と、後ろから声を掛けられて芥生先輩は俺から離れる。

 その瞬間今度は紗奈が拘束を厳しくする。


「じゃあ、話を再開するけど……」


 そう言って話してくれたのは俺が寝ている間にされた会話の内容だった。

 簡潔に教えてくれたので数分でこの話は終わった。


「それで次だけど――」

「悪いけど、俺もそれなりに時間が押してるからさっきの津田がどうして倒れたかとか簡単に話し合いたいんだが」


 蒼介の言葉に被せるようにして芥生はそういった。

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