145話 千里の馬も闇炎に逢わず
時間はあるんですが気力がなくて。(言い訳)
「それでなんですが次は私の場合の話です」
イオは伊織のことはあらかた話したので自分のことに移る。
「私の場合は先ほど言ったように魔力やスキルがなくなった状態になり喰魔に侵されたときのことです」
「さっきも聞いたけどそんなこと起こるのか?」
芥生はそう訊く。
起こらないと言いたいわけではなく起こりにくい、起こそうとしなければ本来起こらないと言いたいのだ。
喰魔と言うものは本来宿主の安全は絶対だ。
だからこそコストに見合わない守葬化を一定の値があるとはいえ致命傷にならないうちに発動するのだ。
それだけ大事にしているのは代わりの器というのはまずないというところがわかりやすい理由だろう。
先ほどの喰魔は人を選ぶという情報が本当ならそういったこともあり得ると芥生は思ったのだ。
それ故に喰魔は器の体内から魔力やスキルが消失してもすぐに喰らうことはない。
実際実験の際に自身で芥生が試した時には身体を喰らうことなく空気中の魔素をかき集めて維持をしていた。
「俺も実際にやったことがあるけど喰魔は体より空気中の魔素を喰らうことを優先するはずだぜ」
「ええ、でも魔素がない状態だったら?」
「魔素がない状態?」
「そうです、魔素がない状態ならば。そんな状況に陥ればまずは空気を喰い始めるでしょう。しかし、空気では満たされない。喰魔が何でも喰うのは魔素を喰らうため、魔素が含まれなければ次に移ります。次は衣服、わずかに付着した魔素くらいなら取り込めます。でも、それはほんのわずかなら次は――」
「いや、ちょっと待ってくれ」
イオの言葉を遮るようにして静止をかける。
未だ状況がつかめなくこのままでは理解が追い付かない。
「聞きたいんだが、まずどういう状況なんだ?魔素がない状況ってのはあり得るとしてどうしてそんなピンチに陥るんだ?魔素のない場所ではモンスターは存在できない、なら人間の可能性も考えたが魔法も同様使い物にならない中どうやってイオちゃんをそこまで貶められるんだ?」
芥生は分からなかったことを一気にいう。
どうもあり得ない状況で理解がしがたかった。
そんな質問に少し困ったような顔をするとイオは口を開いた。
「あーえーと、長くなるので簡潔に言うと神に会ったんです」
「神?」
「神ってあの神ですか?」
「どれを想像してるかわからないですけどゴッドですよ。正確に言うと一神教の神というよりそれぞれがつかさどっているものがある多神教の神って感じです」
イオはたとえて説明する。
ここで言う神とは、時間の神とか空間の神とかそういう部類であり、一神教のような全知全能の存在ではない。
他にも土着神のような括りもいるが、結局のところ現実味のない話には変わりなく誰もが?マークを頭の上に浮かべたのだった。
ただ一人以外は。
「みんなが疑う気持ちもわかるけど愛しのイオちゃんが疑われるのは嫌だから教えてあげるよぉ」
そういったのは【鳩】であった。
先ほどまで完全に全員から無視されていた彼女ではあるが今の一瞬で全員の注目を集める。
「ひとつ言っとくと神を降ろしたという事例は実際に【Nest】本部にある記録にも残ってるし実際している人がいたのも事実だよぉ。面識はないけどね。とはいえ、神に会うというのは良く知らないけどこれで皆の神がいるかどうかという疑問には答えられたと思うなぁ」
こんななりでも【Nest】幹部である、そして【Nest】にも記録があるとなれば信用に値した。
「確かに、確認しました」
そんななか蒼介が言った。
彼が皆に向けているのはスマホ、そして画面には神降ろしの概要が書かれている。
「なんで、そんな端末で機密情報が抜き取られてるのかなぁ?」
「プログラムを走らせるだけなのでキーボードをたたく必要はないのでこれで事足りますよ」
蒼介はそんなことを言うがそういう話じゃない。
この神降ろしの情報およびあの事件の概要はすべて極秘レベルであり、それを【Nest】幹部の前であからさまに抜き取るのがまずおかしいのだ。
それに加えて彼が持つのは【Nest】支給の端末ではなく携帯電話である。そんなものでは処理が追い付かずこんな芸当は不可能なはずなのだが。
いや、中継点としてpcか何かを挟めば別かもしれないがそもそも【Nest】の独自の言語を使い構成されているシステムに対応しているプログラムを開発済みであることにもツッコミを入れたい。
「それで話の続き何ですけど、どうやら喰魔は完全に器に魔力の類が残ってないとわかると器とのつながりが若干ずれるみたいなんです」
「それで、魔石を取り込んだと」
【鳩】は驚いていたが、事態の大きさを把握してないのかそれとも意外と図太いのかイオは話始めて芥生はそれに反応して事の顛末を言い当てる。
「はい、そういうことです。でも補足すると、それもそう簡単にも行かないみたいです。これに関してもわからないことが多いですが偶々の現象ではありました」
まだわからないが同じことをしただけで出来るわけではないというのが体感だけではあるがイオの結論であった。
そして間を少し開けて紗奈に向き直る。
「これが一応私の知っている関係ありそうな情報だけど、紗奈ちゃんいいかな?」
「取りあえず、ありがとうございました……」
イオが紗奈にそういったのは未だ完全な原因を見つけていないからだ。
そして、魔石を使うという解決策も使えない。
だから、今回のことに関連しそうなことをすべて話したのだ。
伊織と自分の共通点や喰魔の様々な状況下においての行動も含めて。
「ああ、それと、ノイズは身体を喰われたときの音というより何か自身から出たような音でした」
なんてことはないと思いつつもそれも付け加えておく。
「あー俺分かったかも」
そんな時芥生はおもむろに言った。
「いや、分かったとは違うけどなんとなくで」
そういった途端、紗奈の表情があからさまに変わったので間違ってたらどうしようと芥生は思った。
「千里、どうした?」
男子生徒が話しかけてくる。
「どうしたって?」
「いや、何かあったような顔してたからさ」
「ああ、津田伊織君とやりたかったなってさ」
千里はそういいながらストローを啜る。
「意外だな」
「そう?」
「ああ意外だ。お前人に興味あったんだってレベルで今までそんなこと言わなかったし」
男は心底驚いたのか大げさな動きを着けて言う。
「でも、それなら残念だな」
「何で?」
「だって、もう戦えないだろ?」
「七祭があるから大丈夫」
そういう千里を見て男は口を開く。
「津田伊織は眠ってるんだろ。しかも噂のあれで」
男の予想が正しければ津田伊織は終わりだろう。
「それに、その日は七祭に専念はできないだろ」
「それは覚えてる」
それにと千里は言う。
「きっと津田伊織は出てくる」
千里は笑った。
いつもなら考えられない行動に男はビビった。
待って今手が震えてる。
日高蒼介と月宮紗奈って苗字が日と月でついになってますね。
気づきませんでした。




