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天より落ちし光の柱は魔石を運ぶ  作者: えとう えと
第八章 赤翡翠高校編
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141話 専断偏頗


「俺は初めから思ってたんだよ。津田伊織って大した事ねぇって」

「その割には応援していたように見えたけど」


 カフェテリアの隅に座る男子生徒は周りの迷惑にならないくらいの音量で会話する。

 名前は坂本と本田だ。


「まあ、君が期待してたからこそ怒ってるのは分からなくもないけど」

「期待なんかしてねぇよ、あんな奴。あいつは逃げたんだ、佐梁との試合から」


 心底残念そうに坂本は語る。

 期待してただけに許せなかったのだ。


「君もめんどくさい性格しているね」

「あ?」

「だってそうでしょ。彼は只の学生、芸能人はおろかスポーツ選手でもない」

「でも、あんなに有名になっといてそれは無責任だろ」

「でも、彼、一度でも自分からメディアなんかで露出したことあった?知名度の恩恵を自分から得ようとしたりした?それに彼はSNSさえしてないし」

「あれだけ有名ならどこかで優遇されたてるだろ」

「そうかな、随分生きづらそうに見えたけど。彼、月宮さんと日高くん、あとは桜庭さんとしかいたところ見たことないし、受験時に一緒にいたあの三人は周りが近づかせないように見張ってたし」

「それは、強くなきゃ一緒にいられないだろ」

「強くなきゃ一緒にいられない?」


 その言葉に本田は首をかしげる。

 よくわからない。


「そうだよ。強くなくちゃ一緒に並び立てないだろ?」

「そうかな。天才の友達は基本的に凡人の気がするけど」

「そんなこと津田伊織には関係ないだろ」


 その言葉を聞いてやっと気づいた。

 津田伊織というのは坂本にとって人間ではないのだと。


 恐らく坂本の中での津田伊織は神か何かだ。








「伊織君!」


 紗奈は未だ眠り続ける伊織に声をかける。

 しかし、応答はない。


「私がそばにいれば」


 そう一人呟くが、そんなことはできないとわかっていた。

 頑張れと伊織に声をかけられた時点で紗奈は否が応でも試合が終わるまでは駆けつけることはできなかった。

 伊織の言うことは絶対なのだから。


 とはいえ、伊織が倒れたと連絡が入ったのは試合が終わってからだった。

 伊織が来ないことを不審に思いスタッフが捜したところ、尋常でない様子でベンチで倒れこんでいたのだ。


 そして、いまそれを聞いた紗奈は運ばれたという医務室まで来ていたのだ。


「伊織君……!」


 紗奈は伊織の手を握る。


 話によると伊織はポーションや回復系の術の類を掛けても治らないそうだ。

 現代医学的な面からの診察でも原因不明、心配のあまり手を握ることは何らおかしなことではなかった。


 紗奈はどうすることもできない自分が恨めしかった。







「伊織が!?」


 蒼介は電話口で聞き返す。

 つい、持っていた携帯に力が入る。

 強化された筋力は簡単に携帯にひびを入れる。


 あらゆる治療法が効かない。

 どうすれば?

 そんな考えが頭に浮かび、ある考えに思い至る。


「……もしかしたら、喰魔かもしれない」


 喰魔。

 喰魔石に宿るとされるもの。

 そしてそれは万物を喰うとされる。


 魔素。

 

 魔力。

 

 肉。


 それは様々とされているが、伊織から聞いた情報も合わせるとスキルも喰らうという。


 とするとスキルを喰い尽くし、身体まで影響を及ぼしているかと考えられるが恐らくそれはない。

 スキル以前に喰魔が魔力を喰うとするならば底の知れないものを持つ伊織の魔力を喰い尽くすとは思えないのだ。


 だが今はそんなことは関係ない。

 電話を切りかけなおす。


「もしもし、芥生(あざみ)先輩。今いいですか?」









 肢体が絡み合い艶めかしく動くなか、そんな雰囲気を壊すように端末が震える。


「……もしもしぃ?」


 心底迷惑そうに【鳩】は電話を取る。

 しかし、用件を聞いたのか表情が変わる。


「どうかしたんですか?」


 そんな【鳩】を見てイオは不思議そうに首をかしげる。


「うちの可愛いイオちゃんに手伝ってほしいって」

「ちょっと、また抱き着いてこないでくださいよ」

「だって、外出たらこんな暇ないし」


 そんなこと言っているが外でもお構いなく【鳩】はくっついてくる。


「うーん、よし!」


 どうやらやっと行く決心が付いたのか立ち上がる。


「そこの服取って、というか着せて」

「時間ないんでしょう」


 そんなやり取りをしながら準備を済ませていく。

 シャワーを浴びたかったが仕方ない。

 目に見えて汚れるわけではないのだから大丈夫だろう。


「いきますよ」


 イオは【鳩】に声をかけた。

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