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天より落ちし光の柱は魔石を運ぶ  作者: えとう えと
第八章 赤翡翠高校編
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137話 病は口より入り禍は環境より出ず


 人は環境によって変わる。

 例外があるかないかはさておき、これは確実だろう。


 遺伝でもちろん変わると考えるが、やはり環境がなければそれは成立しないのではないか。


 遺伝とは個人差のことをここでは指している。

 地頭の良さ、運動神経、体格、様々なものがあるが、それは環境がなければ意味をなさない。

 比較対象がなければ意味はなく、困難な課題が現れなければ、視覚化されない。


 平均より、小さく生まれた。普通より成長が早い。一般的な人より早く成長が止まる。計算が大多数より早く解ける。筋力が飛びぬけて高い。


 これらはやはり環境があってこそだ。

 周りに同年代がいる環境でなければ比較はされないし、自身の能力を大きく超える課題があらわれなければ、それを軽々とこなす人のすごさは分からない。


 どちらが人格形成にかかわってくるかは分からないが環境がなければそれを知覚することはできないのだ。


 それで言うと津田伊織はスペックで言えば平均と言えるだろう。

 厳密には総合した場合平均と言うことだ。


 しかし、それにも条件がある。

 それは人並みの人生は過ごさなければならないということだ。


 人並みと言っても相当に幅広い。

 世間一般で言う普通はもちろんだが、人生を特に苦労せずに過ごしてもいいし、周りに流されながら生きてもいい、まだ幼い少年時代にふとしたことでドロップアウトしてもいい。

 どんな人生を送ろうと大抵ここに当てはまれば問題ない。

 大事なのは傍から見て経験したことの大きさではなく、自身がその人生において何を思うかである。

 超難関の試験に死に物狂いで挑もうと部屋から出れない日々の中で葛藤し結局出ずに人生を終了しても構わない。

 死に物狂いで努力しようと何もできずに葛藤しようと関係なく、とにかく思考が必要なのだ。

 したくない思考をすること、俺とお前では頑張り具合が違うとか、何もしないお前は逃げてるだけとかそういう話ではなく、その人の中でそれがこの世で一番大変だと思えばいい。

 それだけで自分で考えるという行為をすることができる。


 だがそれ以外、本来苦労するはずの場所で何一つ困ることなく成長した場合例外になる。

 スペックが高いあまりに苦労を経験しないのは悪い事ではないのだが、能力がないくせにつまずくことなく人生を生きた時、津田伊織は大きく想定の値を下回る。


 そして、現実にはそれが起きている。

 大きな原因としては幼馴染である、月宮紗奈、日高蒼介の二名である。

 そして、二人の中でも月宮紗奈は相当に起因していた。








 月宮紗奈は一般的に見れば何不自由なく生まれた。

 両親は健康だし、自身のスペックは高い、いわゆる苦労をしなさそうなタイプである。

 本人たちは苦労をしているつもりではあるが、実際はそうでない場合もあったりする。

 人の苦労など想像できてもわからないのだ。

 そして、月宮紗奈は本当に苦労をせずに育ってしまうタイプであった。

 それは、本人のスペックも多いに関わっていたが、それ以上に自分や他人に関心がなかった。

 普通それが負の感情を生むような場面であっても実害的なことでなければ損害を負ったと考えなかった。

 いやな気分を負ったとしてそれを害や損と捉えなかったからこそ苦労をしたという事実は発生しない。

 周りがそう考えようと本人には関係ないのだ。


 彼女の中での時間の流れは早い。

 特に長く感じる幼少の頃でもそれは一瞬、彼女にとって刺激はないのだ。

 

 そんな時、津田伊織という少年に出会った。

 人より、能力が全体的に見て低い少年だった。

 だが、紗奈の少ない経験上でもそんな子供はそう珍しいものではなかった。

 きっと、成長すれば人並みになるであろう少年。

 

 自身は人より下だと考えながら、傍から見れば本気でやってそこでやっとギリギリ平均くらいに行きつく少年。

 つまり人並み。

 人間は割と精一杯人生を生きていて割と本気だ、それで平均なら正真正銘の人並みという奴だ。

 手を抜いて悠々自適に暮らしているなら天才的ではなくともほんの半歩ぐらいは人以上だ。


 紗奈は何を考えることもなく生活をした。

 手助けをしたこともあったが特に思い入れもなかった。


 少年は親切にしてもらったからかそれなりになついていたし席が近かったりして行動も共にすることが多かった。


 そんなとき何気ない出来事ではあったが少年に助けられたことがあった。


 まあ、それだけで特に何もなかったが、というか何なら少しムカついた。

 下に見ていた人間に助けられて少し思うところがあった。

 しかしながら、そんな感情は小さすぎて自覚することもなく、それが影響して少年との関係が変わるわけでもなく、また毎日は続いた。


 しかし、少し変わっていたことがあったかもしれない。

 紗奈は彼にほんの少しだけ注意を向けた。


 それからも彼のことは何かがあれば助けた。

 助けたと言っても手助け程度ではあったが。


 本当に何もなかった、しかし、ある時気付いた。

 時間の流れがいつもよりゆっくりだと気付いたのだ。

 いや、実際は体感速度もそう変わってなかったが、思い出すようになったのだ。

 一日を思い出し懐かしむことが出来るようになっていた。


 そして、長期休暇に入った時、彼を良く思い出した。

 そこで、案外自分は彼を助けるのが好きだったかもしれないと思ったのだ。


 そのうち、彼が傷ついたり苦労したりすることが嫌いだと気付いた紗奈は介護をするかのように何でも手伝った。

 本当に何でもだ、身の回りの世話から、彼の障害を排除するために幼いながらも裏で動いていた。


 そして、ある時から彼に惹かれていた。

 すべてに恋焦がれてしまった。


 思えば、手助けをしたのも伊織が初めてだった。

 伊織とした経験は何かが違って刺激がたくさんで一緒にいてドキドキした。


 小学校での学年を折り返す前にもうすでに好きになっていた。








 そんな、微かな記憶を胸に頭をうずめながら何となしに思い出す。

 とても、温かい。

 目だけを上に向けると明後日の方へ顔をそらしている伊織は顔を真っ赤にしている。

 そんな、姿はやはりかわいい。

 彼はヘタレなのか手を繋ぐことすら未だに躊躇するので当然の反応とも言えた。

 まあ、だからこそ強引に人気のないと頃まで連れ込んで抱き合っているのだが。


「伊織君」

「な、なに?」

「こっちむいて」


 どうせしたいと思いながら自分ではできない彼は紗奈に促せられないとすることはできない。

 だから、してやるのだ。

 こちら向いた瞬間少し強引に唇を重ねた。


 一人では社会生活が出来ないであろう伊織を見る。

 当然、途中から自分で仕向けていた紗奈は責任はとるつもりだ。

 だから、すべて自分に任せてと心の中で呟きながら、小悪魔的な笑みを浮かべた。

 ちなみに、伊織のしたいことは最優先事項なので本人の意思は大いに尊重する所存だ。


 一方、伊織はその笑みによってコロッと落ちていた。

 イチコロってやつだ。









 楽しい時間を過ごした紗奈は晴れやかな気分で対戦相手と向き合っていた。

 相手は初治ゆう。

 ビジュアルはまさに美少女で生徒からも世間からも絶大な人気を誇っている。

 今も、カメラや観客席に手を振っている。


 紗奈は絶対に負けないと意気込む。

 というか、この女だけはぶっ殺――自分の手で排除しなければならないと考える。

 伊織と一緒に(上位に)ならないといけないのももちろんであるがその前にこいつは敵だ。

 なにを当たり前のことを言われるかもしれないが、初治が伊織を狙っていることは分かっている。


 校内に情報網を持っている紗奈だが手に入れた情報にこんなものがあったのだ。


『私、津田君も良いと思うんだよね』


 この女は良く伊織のことをわかっているとほめたいところだが、この女は伊織が一番苦手なタイプである。

 であるならば近づけるわけにはいかない。


 伊織は陽キャが嫌いなためこんなキラキラした女はきっと好かないのだ。

 それに、彼女はあざとい。これは伊織が最も警戒していることだ。

 伊織はあざとい女は腹黒く怖いという認識を持っている。

 それならば全方位に笑顔(ファンサ)を振りまき(ファン)を侍らしている女は信用できない。


 ちなみに紗奈はあえて考えてないが彼女が近づいてきた場合彼が最も警戒しているあざとさと言うものに伊織自身が気付くことができない。

 というか、男は単純なので可愛ければあざとかろうが何だろうがそれで良――


 とにかく倒さなければいけない。


『始め!』


 速攻。

 その言葉が最適だと言えるほどに一瞬で決着はついた。


 体力ゲージはすでに0になり初治は崩れ落ちる。

 日高蒼介に続き速攻で決まった試合だが、本人に降参させた蒼介と違い、何のためらいもなく削り切った紗奈はそれ以上に早かった。


 ちなみに、紗奈は怒りのあまり最後まで聞かなかったが音声には続きがあった。


『――でも、紗奈さんとお似合いだし。そ、それに私、女の子好きだし//』


 その当時現場には可愛らしく顔を染める少女がいたという。

実のところ顔面普通と言っても可もないけど不可もないって事だから、強かったりした日にはそりゃモテるよね。


尚、友達はできない模様。

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