136話 氷焼きが回る
明治健治。
階級は二級。
本人は体術を得意としながらも受験生の中では七位という高い成績を誇る。
魔力の扱いにもたけている彼は身体強化を効率良く、より強力に扱うことを得意とし、戦闘スタイルは一番近いところで言うと幹部【鳩】に似ている。
しかし、【鳩】と違う部分もある。
彼は身体強化以外にも魔力を使い、彼は高い魔力と体術の組み合わせを上手く生かし高い戦闘能力を誇っている。
もう一度情報を確認しておく。
そこまでする必要があるかは分からないが万全を期すためだ。
「よし」
蒼介は気合いを入れるためにあえて口に出す。
今日はゆあが来ている、勝たないわけにはいかない、そう思い此処まで準備をしてきたのだ。
応援しているゆあを思い、周りにはわからない程度に口の端を歪める。
それに今回の相手は自分より下の順位とは言え、トップテンに入るほどの実力者、気を抜くわけにはいかない。
そこでアナウンスが入り、少し暗い通路から出て指定の位置へ向かい合うように立つ。
「……よろしく」
「よろしくお願いします」
どことなく気だるげな印象を受けるあいさつをされるが、向こうから挨拶をしてくるところを見ると素なのかもしれない。
とは言え、気だるげなのは言動と表情くらいで構えはすでに取られている。
手足は太く、ガタイは良い。資料でも体術に秀でているとあったが、それがより分かりやすい。
典型的なパワータイプと言ったような様相、しかしながら魔力の操作に長けているという話だ。
魔力の操作は意外と頭を使う作業、それを考えれば馬鹿正直に突っ込んでくる可能性はそう高くはない。
仮にそうだとしてもこちらがそう簡単に対処できないことをしてくるだろう。
一瞬のうちに蒼介の脳は予測を立てる。
しかし、それは予想済み、事前にアーカイブを見た時点で予想はしていた、これはただ、それがより信頼度があがり正確な情報へと昇華されただけのこと。
そんなことは蒼介にはそこまで関係ない。
例え、予想が外れてもその場で作戦を立てるまでのこと。
『始め!』
「それに」
蒼介は試合開始の合図にはまるで反応する様子もなく淡々と告げる。
「どんなに考えても僕が負けるなんて可能性は導き出せなかったからね」
「な!?」
対戦相手の明治健治は驚愕に顔を歪め、バカみたいに口をぽかんと開ける。
まあ、それも仕方なかったのかもしれない。
氷はすでに彼を追い詰めていた。
地面からのびた氷は鎖のようになり彼を拘束し、宙に浮いた剣を模した氷の先はすでに彼の喉元だ。
本来蒼介が相手を分析するまでもないのだ、それだけ相手との差は歴然であり、この状況を見ればまさに一目瞭然というわけだ。
しかしながら、蒼介があそこまで用意が周到だったのは、彼女であるゆあにいいところを見せたい一心である。
蒼介だってこれでも男なのであった。
まあ、とは言え、普段から確実に倒せる相手でも万全を期すので通常ともとれるが、知るものが見れば今回は異常に力を入れていたことは分かったであろう。
氷の剣は只そこにあるだけ、だがしかしこれが試合でなくダメージを肩代わりする道具がない本当の戦闘なのなら、蒼介が指を動かすことすらせず念じただけで彼は首を切り落とされるであろう。
だから、こういうしかない。
「降参」
戦いは一方的なものとなった。
「蒼介君お疲れ様!」
関係者以外立ち入り禁止区画から出た瞬間にかけてきたのはやはり、ゆあであった。
蒼介は汗もかいてないが、嬉しそうにタオルと水筒を受け取る。
「ありがとう」
「ううん、いいの。したくてしたんだから」
「そう。あ、これ美味しい」
「私が淹れてみたんだ」
そんな会話をして笑いあう。
そして、それを見る俺。
いつ行けばいいのだろうか?
なんかいい感じの雰囲気出してるし。
「うーん」
「どうしたの?伊織君」
「いや、他の人が入りにくいけど、彼女との時間も大切だよねって」
「い、伊織君もそう思う?」
「うん」
どうやら、紗奈も同じ思いだったようで同意してくれる。
ああいう空間って入りにくいよな。
と、そんなことを考えていたら紗奈に引きずられて人気のない場所に連れてかれた。
「えーと」
「時間少ないけど二人きりで過ごそう?」
「え?あ、うん」
なんかそういうことになった。




