130話 脳が溶けた闇炎使いは爪を出すことすら忘れる
「なんか疲れたな」
受験前から体力を使った気がする。
そんなことを思いながら去っていくコウスケさんを見る。
「あの人強かったりするの?」
ふと出た疑問だった。
受験前に配信しているくらいだから試験を余裕でパスできるくらいには強いのだろうか。
「それなりに強いんじゃない?」
「そうなのか?」
「うん、結構耐久配信とか言ってノルマを課してダンジョンに入ってるっぽいから」
「へー」
蒼介は先ほど話してきて少し気になったのか過去のアーカイブのサムネイルだけ簡単に見せてそういう。
内容は分からないが結構な間隔でネスト管理下にあるダンジョンに入ってモンスターを倒しているらしい。
「まあ、少し危ないような気もするけど配信することでちゃんと続けられそうだよね」
確かに人の目があることでサボらずできるような気もする。
とそこでアナウンスが入る。
『只今より、赤翡翠高等学校による入学試験を始めます』
一気に場の緊張感が高まった気がする。
そして、アナウンスは更に試験についての説明をする。
まず初めに魔力測定が行われるらしい。
これは、高ければ高いだけいいが別にイコールで強いというわけではないようだ。
まあ、それは魔力量だけは多いらしい俺が一番分かっている。
多分、俺より少なくとも強い人は沢山いる。
俺の横にいる紗奈がよい例だ。
『それでは計測を始めますので受験者の皆さんは登録していただきました席に手を触れてください』
俺はひじ掛け的なところに付いた液晶に『触れてください』の文字と手形マークが現れると指示通りに手を置く。
ちなみに肘置きは一つの座席に付き左右に二つ、つまり隣同士の席だと席同士の間に連続して肘置きが置かれる形になっているので映画館での使いにくいな的なことはない様だ。
置く手は左右どちら側でもいいが左の方が推奨された。なんでも左の方がわずかだが多く測れるらしい。本当にわずかだが。
そして同時刻を持って【Nest】公式による入学試験の配信が行われた。
この配信は第二回から行われているが事の発端は【Nest】トップの座に着く【鴉】の我儘だった。
どうやら彼女はその当時自分の中で流行っていた配信をやりたかったらしい。
そして大きなイベント形式でしたいという欲が湧きこのようなことになったのだ。
試験としてどうなのかとも思うが受験者には事前に許可が取られている。
つまり今会場にいる人間は全員承諾済みなのだ。
そんなことをして人が来るかとも思われたが流石日本国における魔法対策機関というべきか人は多すぎるくらいに盛り上がった。
受験者たちとしても文化祭や体育祭などとイベントをするたびに中継やらなんやらされるため別段疑問にも思わなかった。
ということで配信が開始したのだが配信されているのは既存の配信サイトではなかった。
【Nest】のアピールやなんやらと使うたびに人が多くなることや保護者への配慮も兼ねて情報部がいろいろと整備して作り上げたのだ。
ちなみに相当な金がかかっている。
保護者の配慮というのは保護者だけ特定の映像を見ることが出来るという処置だ。
ネット配信が行われるということで受験者に心無い言葉を浴びせられる場合や逆にネットに慣れない親が不用意なことをしてトラブルを起こさないようにするという処置だ。
保護者には受験申請をすると同時に専用ページへのリンクが送られ更に送られた時点で通常ページにアクセスできないという制限がつけられる。
そして専用ページでは自身の子供の映像が中心的にみられるという処置がされている。子供が映らない際は通常の映像に差し替えられる。
そんなこんなで配信が始まっていた。
『さあ始まりました。赤翡翠高等学校入学試験!!』
「キター」「お、始まった」「きちゃ」「やっとか」「待ってた」「つーか毎度思うけど受験のテンションではない」「まあ、本人たちには聞こえないし」「多分これないと映像だけじゃ地味だし」「スナイさん毎回大変だな」「それな」「この人一級なのに仕事ほぼ実況ってマ?」「階級試験の裏でもやってるらしい」「それいっていいん?」「本人が公言してる」「でも実力はたしか」「どっちの?実況?」「そっちじゃねーだろ」「お前ら挨拶しろ。名前行って挨拶するのは常識だろーが」「え?どゆこと?」「こわ」「コメント欄をチャットか何かと勘違いしてる?」「いろんな層が来るからこういうのもまぎれてるのか」「あ、BANされた」「仕事が早い」「よく考えたら挨拶求めただけでBANされてて草」
『まず初めに行われるのは魔力測定です。これが低いからと言って実力が低いとは限りませんがある種の基準ともなります』
「まずは小手調べか」「小手調べってか手を置くだけ」「むしろ一番本来の意味に近いのでは」「すげーなどんな技術なんだろ」「全部ばらばらにデータを取って一括でバカでかい装置に送って計測して数値にする」「へー」「とは言っても機械半分魔法とかそういうの半分で出来てるから詳しいことを知ってるやつは【Nest】でもほぼいない」「確か階級試験で使われるのが上限50だっけ?」「そう。階級試験時の平均は毎年上がってるけど23くらい」「で、今回のやつの上限は?」「たしか9999」「インフレし過ぎでは」「なぜ一万じゃないの?」「10000を作るより9999を作った方がコストがかからないらしい。最後の一だけで相当な違いが出るって」「まあ、そもそも上位でも4000が精々、十年に一度の天才でも5000」「十年って、まだ三年目なんですが」「ちなみに今回採るのは全開放した魔力じゃなくて常時魔力」「それって抑えた状態ってこと?」「そしたら全開放して不正出来るのでは?」「それは無理」「常時魔力は魔力を体内に抑えようと最大限解放しようと変わらない」「魔力を抑えるってのは別に魔力が増えるわけじゃないし開放するのも溜めていたものを一気に出すだけで増えてるわけじゃない。常時魔力は厳密には違うけど一秒間に生成される魔力量、イメージとしてはそれが適格」「まあ、確かにイメージならそれだな」
『では、受験者全員の記録を発表するのは難しいので十位から一位を順に発表したいと思います』
「まあ、何人いるんだって話だもんな」「実況とスタジアム内で流れてるアナウンスの内容が同じだったのに重なってききとれねぇ」「内容が同じだけで分は違うからな」「会場でも発表するんだ」「まあ、毎回そうだから特に何とも思わなかったけどそうだよな」「円卓はまず入ってくるだろうけどあとは誰だろ」「始まる前の様子を見たら結構有名な奴いたぞ」「どうやって見たん?」「受験生が何人か配信してた」「なるほど」「真面目に受験した方がいいのでは?」「自己責任だろ」「それで有名人って誰?」「初治ゆう」「あー確かに」「可愛いしね」「明治健治もいた」「めいじけんじ?」「駄洒落か?」「知らんのか?」「駄洒落っというか韻」「あとは日高蒼介とか」「イケメンか」「月宮紗奈は?」「いたわ」「可愛かった」「なんで皆その二人が出てきて津田伊織出ないん?」「イケメンじゃないし」「草」「メディア露出ないくせに知名度がくそ高い男」「しかしイケメンと美少女相手には勝てない」「というかこの二人が頻繁に名前出すのにテレビとかでないからこそだろ」「まあ、確かに」「強いかもわからんしな」「強くはあるだろ。合格は確定してるらしいし」「嘘乙」「合格してたら受けに来ないんだよなあ」
『早速では十位!![2736]桜庭ゆあ!!』
「たっけぇー」「十位でこれか」「というか誰?」「この子日高君の彼女さんでは?」「チッイケメンが。それはそうとおめでとう」「完全にノーマークだった」「前回の十位がたしか2652」「確かで細かすぎる情報で草」「これで【Nest】入ってないんだぜ」「まじ?」「えぐ」「というかあの髪色いいね」「たしかに」「ミルクティ色的な」「中学生に見えんな」「というか単純にかわいい」「それな」「本人だったらやだけど、数値と一緒に本人を映してくれるのはありがたい」「それな」「なんかめっちゃ喜んでてかわいいし」「わかる」
『続いて九位!![2851]陸田多比!!』
「ここにきて円卓」「早かったな」「こいつ嫌い」「円卓最弱の男」「まあ、円卓の称号かさに着てウザくはある」「それさえなければな」「まあ、言うて中学生だしそんなもんしょ」「同じ立場になって調子に乗らないかと言われればそうとも言い切れない」「実力はあるけどな」「くずではない」「なんていうか雑魚」「強いけど雑魚」「ムーブが雑魚」「ひどい言われようで草」
『八位!![2912]井田イナヨ!!』
「来てたんだ」「知らなかった」「そもそも中三だったのか」「草」「それは知っててもいい」「でも俺知らんこの人。可愛いけど」「俺知ってる。可愛いから」「【Nest】階級試験第二回合格当時三級現在二級」「漢字多い」「本人が人前に出るのを嫌うため知名度が低い」「嫌ってはない面倒なだけ」「確かに絶対に出ないわけじゃない」「時間を取らせなきゃ話してくれる」「時間とらせなきゃとは」「街頭インタビューくらいなら」「というかほぼそれしかない」「草」「結構受けてはくれるんだ」「その場で決めてその場で終わるものなら」「事前のアポは逆効果」「予定とか嫌いらしい」「子供に気を使いすぎだろ」「へー」「予定自体ではなく予定が入ってる状態」「子供つっても【Nest】だぞ」「芸能人ではないんだから本来受ける必要もないのに付き合ってくれてんだよ」「もはや中学生に対して大人げない方がおかしいだろ」「というかこれ実力隠してたのでは」「まあ、確かに普段手を抜いてる可能性はある」
『次は七位!![2985]明治健治!!』
「うお、きた」「あとちょいで三千いくな」「あ、さっきの」「予想通り感がすごい」「本人もそんな顔してる」「確かに」「草」「本人が魔法戦いメインじゃないのにこれはすごい」「言われてみれば」「まー確かに」
『第六位!![3025]初治ゆう!!』
「キター」「可愛い」「カメラにファンサしてくれてる」「流石初治ちゃん」「可愛いは正義」「つーか可愛くて忘れてたけど三千超えたな」「すげー」「調べてみたらSNSの写真めっちゃ可愛い」「マ?」「それな」「まじか調べてくる」「すごい」「笑顔が眩しい」
『では五位、[3523]卓馬延!!』
「円卓きた」「六位と四百近く違う」「名前に円卓を持つ男」「円卓にふさわしい男」「まあ、そもそもこいつの名前から円卓ってできたからな」「それを知ったうえで皆行ってるんやで」「陸田と比べると際立つな」「あいつも高いはずなんだがな」「仕方ない」「こいつと比べられるのが可愛そう」「たしかに」「そりゃな」「つーかこいつより上の奴ら何者?」
『続いて四位!![5006]日高蒼介!!』
「は?」「は?」「おかしいだろ?」「は?」「不正かな?」「五千は十年に一度の天才なんだろ?」「ゆうて去年の一位も五千超え」「いやお前一位じゃなくて四位だから」「本人は全然驚いてないんですが、ゆあちゃん喜んでて可愛いんですが」「そんなのどうでも……かわいい」「普通にどういうこと?」「頑張ったんだろ」「頑張っただけじゃこうはならねーよ」「じゃあなんかそういう一族に末裔とかなんだろ」「ありえる」「というかこれより上三人もいるの?」「たしかに」
『次はトップスリー!!第三位!![5056]月宮紗奈!!』
「やっぱこの二人か」「すげー」「なんか顔面偏差値と魔力って比例してんの」「天は二物も産物もなんとやら」「ていうかそんな喜んでない」「津田伊織がなんで喜ばんのってかおしてる」「そりゃ津田伊織は人気はそれなりにあるけどこの何人いるかもわからない会場でトップ十に入るかと言われれば微妙だしな」「俺も結構すきだけどこの中じゃな」「あ、津田がほめた」「あ、喜んだ」「そっちの方がうれしいんだ」「チッ」「草」「そんなイライラすんなって」「悪いな俺彼女とみてる」「彼女いる奴はそんな自慢しない」「まあ、時期とか人には寄るけどな」
『第二位!![5152]佐梁千里!!』
「一位じゃないんだ」「円卓最強」「えすご」「こいつ一位じゃなないって他誰だよ?」「しらね」「こんなまえで生まれたかった」「名前負けする方がつらいぞ」「今一級だって聞いたけど」「それはガチ」「エぐ」「学校行かなくていいのでは」「この年で一級かよ」「何したらこんな強くなんだ?」「もてそう」「やはり一位がわからない」「ダークホースとか」「もう有名どころは出たしな」「うーんなぞ」
『第一位!![9999]津田伊織!!』
「は?」「故障?」「意味わからん」「カンストしてて草」「これは放送事故」「そりゃ一気に測定したらバグるよな」
『えーなお機械の故障ではなく上限を上回ったため[9999]になっています』
「は?」「ガチでカンスト?」「ていうか津田伊織ってこんなにすごかったの?」「でもやっぱおかしいだろ」「ラノベ主人公みたいになってて草」「いやでも近くにいる日高蒼介驚いてないぞ」「は?マジだ」「というか自分の時以上に紗奈ちゃんが喜んでる」「ていうかこれ津田伊織【Nest】最強ってこと?」「なんか近づいてってる奴何」「カメラ持ってるけど」「そいつ配信してね?」「今ニ窓してるけど耐えきれなくなって凸したらしい」「でなんて?」「【Nest】最強化って聞いたらそうじゃないって」「んなばかな」「たしかに【Nest】でも上位の魔力量があるらしいけど別に攻撃が強くなったり状況判断がうまくなったりしないって」「でも魔法ぶっぱでいけるっしょ」「魔力がたくさんあっても蛇口の大きさは変わらないってさ」「あーたしかに」「どっちにしてもおかしいけどな魔力量」「なんか都合のいい魔力タンクにされそう」「おい」「こわ」




