127話 闇炎も歩けばおっさんに当たる
「おぉ、すげーな」
ゲートを抜けるとスタジアムのような場所に出る。
いつか見た青高の物より更に広く見える。
俺は文化祭で色葉と戦った時のことを思いだ――いや、喰魔のせいで覚えてるどころか意識なかったわ。
とにかくバカでかいって話なのだが青高にこのサイズがないということはないだろう。
恐らくあの時のは公開されてはいたが試験のようなものだろうし適切な大きさのものを使っていたのだろう。
「そうだね」
紗奈はそんなことを言いながら俺の手を引いて席を探す。
なんか俺お世話されてね?
「なあ、なんか俺自分で席探せない子みたいになってるんだけど」
「じゃあ、ちゃんと席探せる?」
「それくらい……」
出来るよな?
あれ?できるかな?
そういえば俺、今まで蒼介や紗奈がサポートしてくれてて碌に自分で考えて(案内などを自分で見て)行動したことないような。
おい、誰だ?考えるどころか指示すら聞けないって言ったやつ。
「どうしたの行くよ」
「うん」
結局俺は紗奈に手を引かれながら歩いた。
「どうやら大体の席の範囲が決まってるだけでその中ならどこでもいいみたい」
「へー」
どうやら受験番号順に正確に席が決まっているわけではないようで自分たちが座れるブロックは決まっているようだがあとは適当らしい。
ちなみに俺たちはCブロックらしい。
それと席は決めると端末やスマホの受験票でロックが出来て確保できるらしい。
そうすることでその席に他の人が座ろうとするとブザーが鳴り席を離れている間に座られたり逆に自分が間違えたりしないらしい。
「ここにしようぜ」
「うん」
席の良し悪しは知らないが適当に決めて座る。
端末で指示道理にタッチすると『空席』と書かれていたところに自分の受験番号が表示される。
座席の上の部分のライトがつくようなので遠くからでも空席情報がわかりやすそうだ。
ちなみに俺の受験番号は『c00001』らしい。
なんか一番になっているがネストで処理したからとかだろうか?
紗奈は『c00003』らしい。
「結構座りやすいなここ」
「そうだね」
そんなことを言っていると何やら見た顔が視界に入る。
「あ!いた!」
「津田こんなところに」
「あの人が噂の津田の彼女か」
上からヒヨウ、上木、百目鬼だ。
「お前ら何してんだ?」
見たところ荷物もないようだし席においてから出歩いてるようだが、別に試合を観戦しに来たわけじゃないんだからそこらへんでドリンクとか売ってるわけじゃないだろうし。
「そこで売り子さんがドリンク売ってるから買いに来たの」
「マジかよ」
ヒヨウが指をさした方には笑顔でドリンクを渡す売り子がいた。
「お前ら受験に来たんだろ」
「何言ってんだ津田。だからこそ堪能するんだろうが」
「しかも売り子さんかわいいしな」
なにがだからこそかわからないが確かに売り子さんは可愛――
「――ッ!?」
殺気と腕に激痛を感じ隣を見る。
すると睨みながら俺の腕を抓る紗奈がいた。
「あの痛いんですけど」
いや、ホントに。
「ていうかこの席何ブロック?」
ヒヨウはこちらの状況に気付いてないのかそんなことを訊いてくる。
「Cだけど」
「ここもCなら皆で荷物持ってきて座ろうよ」
「そうだな」
「結構遠いのにここも同じブロックなのか」
なんかよくわからんがそういうことで一度去っていった。
どうやらロックは解除すれば他の席に変えられるようなのでできないわけではなさそうだが。
でもね君たち。
その会話、思い出とか作るときとかに凄い活躍しそうだけど陰キャ君はびっくりしちゃうからやめて。(陰キャ君のめんどくさいところ)
会話っていうのはキャッチボールだからこっちに投げ返さないといけないんだよ。
こっちが投げる前にそっち側で勝手に進めないでほしいな。
まあ実際の会話を考えると優しく話しかければ優しく帰ってくるし強く投げれば強く帰ってくるからキャッチボールというか壁打ちのような気もするが。
ここでラケット振るような人が強く打ってやっとそれなりの強さで帰ってくるとか言いそうだけど。知らんけど(保険)
と陰キャ君特有の思想をしていた時反対側から入れ替わるように蒼介たちがやってきた。
蒼介も同じブロックなのは聞いていた。
「お待たせ二人とも」
「久しぶり」
「久しぶりだね」
「久しぶり」
一応俺も言っておくこういうのは言っておかないと喋るタイミングを見失う。
蒼介とその彼女であるゆあは紗奈の隣に座る。
ちなみに紗奈の隣がゆあだ。
なんか蒼介が遠い。
だがそれでも俺の隣に来るのはさっきの三人のだれかつまり紗奈じゃない方のサイドの人間とも喋れるということで俺には心配がない。
まあ、受験なんてしゃべりに来るとこじゃないから一人で黙って座ってる方が普通かもしれないが。
「意外だな蒼介が俺より遅いなんて」
こういう大体蒼介は俺より二、三十分早くいる。
普段はそんなことばっかりだから珍しく思えた。
とは言え、今の時刻は受付開始時刻がやっと過ぎたとこだが。
「挨拶してたら遅くなっちゃたんだよ。というかどうせ紗奈さんと一緒に来なかったら僕がどんなに遅れてもそれより遅く来そうだけど」
「それは……あるかもなぁ」
普通にありそうだ。俺にはすっぽかす勇気はないが起きれなかったりして結果的にすっぽかしそうまである。
「それより挨拶って知り合いでもいたのか?」
このブロックだけでもバカでかいから知り合いの一人や二人いてもおかしくないが。
俺?俺は知り合いにはもうこの会場で会えるだけの奴とあった。
「知り合いっていうか【Nest】情報部の人にちょっとね」
「へー何でそんな人がまた」
「あれの調整に来てたんだよ」
蒼介が指をさした先には魔素などを利用した投影技術の結晶であるバカデカモニターがあった。
青高でも同じものを見たがやはりスタジアムと同じく数倍はでかい。
「【Nest】の人たちは結構疎い人が多いらしいのとここ以外もスタジアムも調整しなきゃで駆り出されてるみたい」
「ここ以外?」
「うん。他にもいくつかあるんだよ。とは言え満席になるようなほど人はいないけど。でもそれでも相当な人数だからね」
そもそも満席になるように振り分けられてないようで全員座ってもそれなりに席が余るらしい。
まあ確かに席が決まってないのだからそんなもんかもしれない。
「でも、このスタジアムは他と違って人が多いらしいよ」
このスタジアムは他より広いということで結局の人口密度は変わらないようだが。
「とは言え、ゆあにも付き合わせちゃったのは申し訳なかったよ」
「そんなことないよ。蒼介くんが私を彼女だって紹介した時は少し恥ずかしかったけど」
「ごめん」
「ううん。うれしかった」
チッ。イチャ付きやがって。
それにお前仕事先の人に彼女として紹介されるの結構あれなんだからな。多分。
そんなことを考えていたら何故か紗奈が俺の手に自分の手を重ねてきた。
何事かと思い紗奈を見るが微笑まれた。
まあでもよくわからんがいい気分なので蒼介、お前のことは許してやろう。
「あれ、日高も来てんじゃん!」
そんな空気をぶち壊したのは上木だった。
その金髪毟ってやろうか。
というかお前面接とかの印象悪くなりそうだな。
いくら地毛でもその純日本人顔で金髪は印象良くなさそうだ。
仕方ないけど多分こいつは落ちる。
よし、それに免じて許してやろう。
え?黒に染める?駄目だよ。髪染めるなんて不良みたいじゃないか。(偏見)
「あれそちらの人は?」
そんな三人はゆあさんに気付く。
ということで自己紹介をすることになった。
俺?しないよ。
「桜庭ゆあです」
「おーイケメンと美少女お似合いだ」
ヒヨウがそんなことを言う。
「月宮紗奈です。伊織君の彼女です」
なんか今強調しなかった?
「津田、やるな。お前には似合わないほど可愛――」
百目鬼がそんなことを言った瞬間、殺気を感じた。
出所はやはり紗奈だ。
え?今怒る要素あった?
ちょっと、俺がディスられた感はあったが。
「さ、紗奈ちゃんは伊織君とお似合いだよね」
すかさず、ゆあが声をかけると殺気が止む。
え?よくわからん。
「なんか寒気がしたような」
「まあ、まだ冬だしな」
百目鬼は殺気が抑え気味だったのもあってかそれくらいにしか感じなかったようだ。
しかし理由は分らんが今までの人生においてイケメンだからと許されてきた分が今来たのだ。
「それより皆同じブロックでよかったな」
俺が成長し身に着けたスキル『かいわをふる』を今使うとき。
俺だってこの一年で成長したのだ。
「まあな、日高と俺たちは同じになるとしても。あとの三人が同じにならない可能性もあったもんな」
上木が言う俺たちは上木、ヒヨウ、百目鬼、蒼介らしいが。
「なんでお前らが確定なんだよ?」
「それりゃお前、同じ学校で基本的にまとまってるからな」
「そうだね。もしかしたら違うとこもあるかもだけど私が併願した私立も同じ学校の子は連番だったよ」
「へー」
そうなんだと思いながらこいつらの受験番号を見るが確かにそうだ。
何故か蒼介とゆあの番号も続いているのは気になるが蒼介ならなんかしてそうだな。
そんなこと話考えていると柱の陰からこちらを除く人影を視界の端でとらえる。
「誰だ?」
思わずそういうと諦めたように物陰から人が出てくる。
他の人たちも気付いていたようで皆が視線を向けていたが出てきた人影を見て皆の声が重なった。
「「「おっさんだ」」」
おっさんだった。
今更ですが誤字脱字ありましたら報告頂けますと幸いです。




