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120話 父面に蜂


「ククク、息子さんをかばいながらでは満足に動けませんか?」


 男はハヤトを守りながらも徐々に傷つくトンナを見て言う。


 そんな言葉にハヤトはハッとする。

 足手まといになるのは分かっていた。

 それは十分に自分の実力を理解してその場を動かなかったことからも良くわかる。

 しかし、それがわかっているからこそ本気を出せず自分のせいで傷ついていく父親を見ていられなかった。


 しかし、トンナはそんなことは言わなかった。


「バカ言え。逆だよ。こいつがいるから俺はこんな命を懸けるような馬鹿馬鹿しい仕事をしてられるんだ」


 トンナは男から目をそらさずにハヤトの頭をなでる。

 無造作に雑で少し痛いがハヤトはそれがうれしかった。

 一方トンナは成長期ということもあり随分背の高くなった息子に感動していたが。


「それにいつもは家帰るまで見れない顔を見れるんだこんなに士気が上がることはねぇよ」


 トンナは構えた。


「だがよ。なにか忘れてねぇか?」


「は?」


 トンナがとういった瞬間男を真横からの衝撃が襲う。

 ガラスだ。

 ガラスの塊が柱のようになり男を貫く。


「ぐっ!?」


「お前が言ったんだぞ。俺の魔石を奪いに来たと。なら魔法を警戒しなくてどうする」


 トンナは笑う。

 ハヤトは思わずガッツポーズをとる。

 これまで魔法を使うためにガラスが足りなったせいで作る羽目になったが何とか当てることができた。


「方向性を持たせるのは苦手だったんだ」


 トンナはそういう。

 実のところガラスがなくとも作ることはそう難しくない。

 しかし引き延ばしてあいてに当てるとなれば話は違う。

 通常の魔法攻撃であればたいていが炎だったり雷撃だったりするがガラスは少し勝手が違う。

 氷や土と言った固形の物はあるがガラスはそれらとも違う。

 これはガラスと魔力との親和性的な話になるが上記の物と違いガラスは魔力を通しにくい。

 その特性は表面だけのものであり内側に働きかければその限りではないが。

 そしてその内側に働きかけるのもこの魔法の得意な能力ではあるが今は関係がない。

 話が少しずれてしまったがガラスは魔力との相性が悪いため氷魔法のように形成して射出なんてことはできない。

 それは打ち出す際に行われる魔法的事象がほぼすべてガラスの表面により無効化されるからだ。

 例えばガラスに推進力を得るための術を施したとしてガラスの表面には効果を乗せることができない。

 正確には術を打ち消す機能はないがくっつける接着剤のような役割をする魔力がはじかれ機能しない。

 そのため放出系と似たようなことをするためにはガラスを引き延ばすという過程を極限まで高速化して何度も行い疑似的にガラスを押し出し攻撃するしかない。


 ちなみに全く関係ないが魔法的薬品――例えばポーションなどは表面が魔力の耐性があるガラスが容器などに使用される。


「狙いが定まるまで大変だったが何とかなってよかったな」


 トンナはそういうが男は立ち上がる。


「しかし、これならどうでしょう」


 男は体を上下させ息をしながら魔力を地面に流す。


「まぁ、名付けるなら召喚ってとこですかね」


 地面が光り何かが姿を現した。


「魔物か?」


「正解です。アラキ君様様ですね」


「なぜそれを使える?それを使えるのはアラキだけのはずだ」


 それは本当の意味でそうだった。

 アラキの家族でその技を使えるのは今現在アラキだけ。

 それを全く関係のないこの男が使えるのはおかしい。


「いえ、別に全く同じものじゃないですよ。神降ろしなんて使えないですからね」


 これはアラキの術をもとにした別の術だった。

 これらの魔物は神の破片でも何でもないただの自然発生するものと何ら変わりはない。


「まあ、強さは通常の魔物とは比べ物にならないですけどねぇ!」








 深紅の陣から姿を現したのは鬼だった。

 アヤザミカミと言う神の破片でありながら愚かにも下界に落ちたもの。


「――――グルォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」


 鬼は雄たけびを上げた。


「ぐっ」


 三人はそれだけで委縮しそうになる。


「失敗したんじゃなかったけ?」


 本人がそういったのを思い出しそいう。


「やり直しただけですよ」


 そうただやり直しただけ。

 やり直して試練を終えた。

 つまり契約したのだ。

 それが儀式の準備をしなくともここに呼び出せた理由。


「でも、契約したってことは」


「本家よりも強くはない」


 美沙兎の声にスキタが答える。

 ゲームよろしくボスを仲間にしてもそのままの強さは得られない。


「ならッ!」


「甘いですよ」


 アラキがそういった瞬間美沙兎は攻撃を食らい血を吐く。


「ゴホッ」


 弱いとは言ったが元の強さが別格なら多少ダウングレードしたところで変わりはない。

 弱いはずはないのだ。仮にも神の欠片。

 少なくとも契約するまで実に十三日アラキはこの鬼と戦い続けた。

 そのうえで相打ち覚悟で倒したのだ。

 そう簡単に勝てるわけがないだろう。








「父さん!」


 ハヤトは自分を庇い倒れ伏すトンナに駆け寄る。

 初めは善戦していたはずなのになぜかいきなり動きが鈍くなり致命的な一撃を食らい血に伏していた。


「幹部に仕えていると言っても魔力がなければ所詮ただの人。いやー慢心しましたねぇ」


 男は下卑た笑いをしながらトンナを見下す。


「何をした?」


 本来ここでハヤトが話しかけるのは悪手だろう。

 しかし、それでも抑えきれなかった。

 あんなに強い父親が負けるなんておかしい。

 これは贔屓してるのではなく事実そうなのだ。

 ハヤトを庇いながらという悪状況でなければそもそもこの男は文字通り瞬殺されていた。

 ここまで長引いたのはハヤトがいて動けないために本来補助に使われる魔法を主軸に使っていたからだ。

 しかも、硝子魔法が本来力を発揮するのはガラスなどがある場所。

 硝子魔法は設置罠のような使い方をするのが基本なのだ。

 硝子魔法のガラスに干渉できるという特性を使うことが一番理にかなっている。

 今回のような戦い方は本来ならばしないのだ。


「ああ、息子さんですか。少し開発した術を試しただけですよ」


 男はなんてことないように言う。


「簡単に言うなら空気中の魔素をなくす魔法。本当は吸収して転用したいところですがそれはまだできませんので。名づけるなら操魔結解ってところですかね。と言ってもまだ完成してないんで効果があるのはここら一帯だけですが」


 男はそんなことを言う。

 つまりトンナは魔素がなくなり魔法の類を使えなくなったのだ。

 ハヤトの実のところ気づいてはいたが何をしたかと聞くことしかできなかった。

 ただ先ほどの話からわかるように相手も魔力は使えない。

 先ほど言った吸収した魔力の転用とやらが出来れば自分たちだけ魔法を使うなんてことが出来そうだが。

 それができないことは本人が言っている。

 ならイチかバチか、そう思いハヤトが動こうとしたとき動いたのはトンナだった。


「ぐっうあぁあ!」


 トンナは痛みをこらえながら立ち上がり男に攻撃をあてに行く。


「四緑ッ!」


 その手に風を纏わせ攻撃を放つ。


「――ッ!」


 男はいきなりの攻撃に咄嗟に避けるが完全にはよけきれない。

 しかし、それには構わず攻撃を放つ。

 どこからか取り出した刀でトンナを串刺しにする。


「ぐハッ……!」


「残念でしたね。充てられていれば勝てたかもしれないのに。ですがもうこれであなたは助からな――ゴハッ」


 身体を何かに貫かれ血が噴き出る。


「死ね」


 ハヤトだった。

 トンナたちとは違いこの戦いの間全く消耗していないハヤトがすべての力を振り絞り結解の影響で自分まで弱体化している男に攻撃をしたらどうなるだろう。

 答えは明白。

 今この状況がそれを表していた。

 ハヤトは男の胸を貫いた腕を無造作に抜く。


「父さん!」


 そして今殺した男など眼中にないかのようにトンナに駆け寄るがすでにトンナの体内から魔石であろう粒子が出てきている。

 すでに死んだのだ。


「そんな……」


 ハヤトは意気消沈しながらも最後に父親が残したとも言える魔石を取ろうとして――

 ――消えた。


「え……?」


 恐らく転移だろう。

 アイテムや魔道具の類ではなく術者の。


 しかしそんなことを考えられるほどハヤトは冷静じゃない。

 だから怒りで脳の血管がはじけるかと思うほど頭が痛みが走る。

 そんな痛みに耐えながら犯人を捜すも見つからない。

 いない。

 見つからない。


「……いた」


 そこに倒れ伏すのは先ほど絶命した男。

 それに腕を振り下ろした。


 何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。


 召喚された魔物はとうにトンナが倒しつくし、それしかその場になかったハヤトにはこの死体を殴り続けることくらいしかできなかった。

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