119話 三碧は死して名を留まず
「これは……?」
家に帰り惨状を見たタドルはそういった。
見慣れた家はあちこちに血が飛び散り汚れている。
しかし、死体がどこにもないことに疑問を抱く。
そんな時背後から聞きなれた声がした。
「父さん帰ってきてたんだ」
そこにいたのは実の息子タケルだった。
【鳰】は距離を取るためにおぶるようにしてフヅキを運んでいた。
他の部下たちも来てくれたが念のためだ。
それに一般人であるフヅキには戦いの余波だけでダメージになりえる。
「かなめ……」
フヅキは何か言おうとしたが何を言っていいかわからず、また黙る。
自分のせいで襲われている上に自分の存在が【鳰】の組織においてよくないものだと否応なくわかってしまった。
だから、「大丈夫?」も「ありがとう」も言うことはできない。
「多分、こっちの方なら大丈夫だ」
フヅキを安心させるように言うが【鳰】自身は未だ混乱していた。
アラキがなぜあんなことをしたのかわからないとは言わない。
本人がわざわざ全部話していたのだすべてわかってる。
でも、分からなかった。
なぜあの程度の理由で――いや、理由を考えれば尚更おかしい。
【鳰】のことを思い行動するならアラキの行動は【鳰】の望むことではない。
アラキという男は相手のためだと言い自分の考えを押し付けるような男ではない。
だからわからない。
そんなことを【鳰】は延々考えていた。
なまじ超人的な身体能力を身に着けただけに余裕があるのだ。
履物を脱ぎ捨て裸足で走り女の子を背負って考え事をすることができるほどには。
「勝てるわけないじゃないですか」
アラキは目の前にいる三人を見てそういう。
ここにいるのは同じ幹部【鳰】の部下でありアラキの認識では対峙している全員がアラキより強い。
同じ身分として圧倒的な差はないがそれでも両者の間には越えられない壁がある。
しかも一人だけでもそんなレベルなのにそれが三人。
そりゃ、勝てるわけがないと思うだろう。
「今なら説教と反省文で許してやるぞ」
江州は挑発気味にそういう。
アラキの顔を見れば本気だということくらいは分かる。
説得したところで意味がないだろう。
そう考え完全に割り切っていた。
別に情がないとかそんなことではなくアラキの覚悟は伝わってきていた。
言い方を変えればその覚悟を認めていたともいえるかもしれない。
全く肯定する気にはならないが。
「アラキ君……」
とは言えそんなに簡単に割り切ることは簡単ではない。
美沙兎は悲しそうな顔で呟く。
しかし次の瞬間。
「そんな悲しそうな顔さ――ゴホッ……!」
普通に蹴りを放ち攻撃した。
少し申し訳ないなと思っていたところにこれだ。
もろに入りアラキは咳き込む。
「うわ……」
スキタは思わず声に出す。
しかも、これの怖いところは演技で隙を作ったわけではなく本当に悲しんだうえでためらいもなく容赦のなく放たれることだ。
術者としては優秀だと言えるかもしれないが。
「まあ、もう敵だからね」
そういって江州は追撃を加えもちろんスキタも容赦なく攻撃する。
「あーもう!仕方ないな」
アラキは流石に耐えかねたのか一度距離を取り苛立つように言う。
しかし三人がそれを許すわけもなく追撃をしようとするが。
「来い!アヤザミカミッ!!!!」
アラキは神の名を呼ぶ。
「おいおい、アラキ。陣もなし出来るわけ……なっ!?」
江州が何を莫迦なことをと笑おうとしたとき、地面に真っ赤な光が陣を描く。
「そんなはずは――」
次の瞬間後方に一気に吹き飛ばされた。
「術者を見つければあとは早い」
シトイは式の使い手を見つけ追撃する。
式しかないなことから実際の相手の総数は分からないが恐らく少数。
本来一級の中で幹部に一番実力が近いと言われるその部下を相手取るのに何の対策もなしに行うのはおかしい。
最低でも腕の立つ術者を二桁用意する必要がある。
それに相手は式を使っていることから近接戦に特化している可能性は低い。
本来式は直接戦闘には向かない。
式を使う場面は偵察などの武力が必要のかい場面だ。
出来がいい方だとは言えこんな時間稼ぎにもならにような式を使うのならば自身で戦った方が早い。
それができないということは術者の戦闘能力は低くそれでいて他に仲間がいなく戦える術師がいない。
それにさっき言ったように戦闘面では使えないが式の出来としてはかなりいい。
見たところ一級ほどの実力者である。そんな人材を捨て駒にはしないだろう。
「三碧ッ!」
シトイは男に近づき三種類の電撃を合わせた雷電をぶつける。
「なっ!?」
しかし、突然男が消えたのを見てその場に止まる。
だが、此処に転移のアイテムで飛ばされているのだそんなことは想定済み。
後ろに現れた気配に攻撃を当て――
「え?」
ゴホっと咳き込み血を吐いたことに疑問を持つ。
肺か?
いや分からない。
そんなことよりどうして……?
朦朧とする意識の中男の会話を聞いた。
「……った。あ……とう阿木君……」
「い……自分は…」
阿木……?
そこで意識は途絶えた。




