11話 ペットを見張るの大事
11話 ペットを飼うならしっかり見張っててほしい
紅い人狼、アデゥシロイの紫の瞳がこちらを向く。
「どうしよう、蒼介」
「それは、僕も知りたいな、こんな事なら最期に彼女に会っとけば良かったよ」
「え、彼女いたの?」
俺、聞いてない。
「君もいるだろ、と言うか、意外と余裕あるね君」
「あれは違、いや違くない!俺にもいるんだ!!」
「前言撤回、コレはダメかもしれない」
蒼介は深刻な顔をする。
「大丈夫か?……もしや、外部からの妨害?!」
クッソ、やられた!
「それより、そろそろ何だけど」
「何が?」
何の話だろうか?
まさか、カップ麺だろうか?
いや、何十分たってると思ってるんだ。
そんなことする奴いるわけない!
いや、もししてしまっても俺は許すけどな。
誰にでも失敗はあるからな。
「大丈夫だぞ、蒼介」
俺は親指を立てる。
「何が?、それより来たみたいだね」
「ん?」
もしかして、カップめ、彼女か?
死を予感してそんな幻覚を。
「ああ、遅れてすまない」
俺も幻聴が……
「って誰っ!」
知らぬ間に隣に人が立っていた。
「ああ、じょ、"徐・坊や"の仲間か」
徐・坊やは蒼介のネットでの名前だ。
じょうほうや、じょう・ぼうやとの事だが本当に面白いと思ってるのだろうか。
「徐・ぼっ……ぷっ……ふふ、徐・ぼ、坊や、と、取引をした【鶯】の仲間だ。届け物を届ける時に一度会った」
この人いまツボってたのか?
「蒼介、大丈夫なのか、あったって事は住所まで教えてたってことだろ」
「まあ、大丈夫だよ、家で受け取ったわけでもないし、それに、どうせ調べればわかることだけど、心配するなら、この人の前で本名言わないでよ。折角徐・坊やって名乗ってるんだから」
「ぶっ」
今この人また笑ったか?
「えっと、それでお名前は?」
取り敢えず名前を聞いてみる。
「オレの名前は【鳰】だ」
「にお?」
何だそれ?
それと、オレとか言ってるがこの人は女の人のようだ。
きっちりとしたスーツを着ている、顔も美形だ中性的どころか完全に美少女だし服も女性ものだ。
でも何だか、下腹部が少し盛り上がって……
「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁ!!!!」
これ以上考えちゃダメだ。
「【鳰】て言うのは鳥だね」
「そ、そうか鳥なのか!」
変な事を考えるのはやめよう。
そう、におって言うのは鳥なのか、へー。
「ちなみに、こんな格好だけど、男の人だよ、いやー僕も初めて見た時は驚いたよね」
「そうか、こう見えても鳥なのかそーなのか」
「伊織、自分が変なこと言ってる自覚ある?」
まるで変なものを見るかのようにこちらを見てくるが、変なものなら俺ではなくその隣の人を見てほしい。
「なあ、蒼介、疑問なんだが、何でアデゥシロイは動かないんだ?」
今の今まで結構話したがアデゥシロイが動かない事は気になっていた。
「それは、オレから説明する、今オレたちの仲間、総勢40人で金縛りを行いあの、オオカミタウロスを抑え込んでいる」
オオカミタウロスってネーミングセンスどーなってんだ?
いやそこじゃない。
「40人?」
デカい組織かなんかなのか?
あの日から余り経ってないがそんなに人を集められるのか?
「40人使って、止めるのがやっとだ」
「俺としては、40人かそこらであの化け物を止められていることに驚きなんですが」
「ああ、そのことか、普通なら不可能だろうな、オレたち一人一人が一人3人づつ、要は120人いたところで一秒止めれるかも分からねぇ」
「なら、どうして」
「無いんだよ、魔力が」
確かによく思い出すと、あの刀の力も全て本体からではなく、刀自身から出ていたように感じる。
「魔力があれば普通は魔力抵抗があるからレジストされる、特にモンスターはな、だか、あれには一切魔力を感じない、その筈なんだが抑えてられるのも長く持たない」
「魔力が無くてラッキーだったてことか?」
「いや、おかしいんだ、モンスターってのは魔力で出来ている、だから一切ないのはおかしい、そもそもの話、魔力がないと存在が固定できない、存在すらできないはずなんだ」
モンスターか。
いや、そう言えば。
「おい、蒼介さっき、あいつの種族人間って言ってなかったか?」
「う、うん、確かに鑑定したら人間って……てっ事は」
あれは、本当に。
「人間……いや、アレは亜人だ、亜人なら魔素のない場所や魔力不足でも、存在はできる」
「魔素?」
よく小説などで聞くワードだが蒼介の口からは聞いたことがなかった。
「ん?ああ、モンスターは基本的に空気中にある魔素を吸って生きている。人間で言う呼吸みたいなもんだ、それは、さっきの魔力がないとモンスターが存在できないこととも関わってくる」
「と言うと?」
「例えば、魔素の濃いダンジョン内などでは、モンスターは本来の強さを発揮できる、だが、ここ地上は、さっきの、魔素の塊が落ちてきたので多少は濃くなったがそれでも薄い」
「魔素の塊?」
「ああ、お前らも見ただろう、あの柱みたいにでけー光だ」
アレは魔力だったのかと納得する。
「だから、さっきの、狼とかも、あまり強くなかっただろ?」
十分強かったけど。
魔素を吸うのは呼吸のようなものという事は、俺は強化されてたとは言え、酸欠の狼相手に手こずってたのか。
と、そこで、におが耳につけたインカムを抑える。
「ああ、わかった……おい、魔法の準備ができた、ここから、退くぞ」
「魔法?」
「大規模魔法だ、一度しか使えない、説明は後だ」
そう言って、におは、いつの間にか回収した腕のない少年を担いでさっさと言ってしまう。
俺達も少し離れたところまで移動する。
隣に立った、におが、いいぞと、インカムに向かい返事をする。
次の瞬間校庭を囲むように魔力を感じる。
「秒読みするぞ」
何とも魔の抜けた声でにおはそう言う。
「5.4.3.2.い――」
におが黙り込む。
カウントダウンは強制的に終わりを告げる。
「またかよ……」
思わずそんな声が漏れてしまう。
何故ならば、空が光っていたからだ。
今度の光は柱で無く壁のようだが。
「ちょっと近くないか」
「うん、そうだね」
「チッ、コッチが災害の方かよ、多分ギリギリ、外れるから大丈夫だ」
次の瞬間には空から光の壁が眼前に迫る。
「コレが目と鼻の先ってやつか」
「本当にギリギリだとは」
光の壁だと思っていたが間近でよく見ると多分形状は今までと同じ円柱だ。
ただ、馬鹿でかい。
直径何キロあるんだ?
「触れたら何が起きんのかな魔力上がるとか?」
「いや、多分コレ、何かの効果に全魔力使ってるから、触れても意味ないし、触れたらその効果の対象になるだけだと思うぞ、実際今、目の前の地面は消し飛んでるみたいだしな、地面の削れ具合を見るに外側は比較的安全だろうが、どちらにせよ、吹っ飛ぶ事には変わりない」
「こりゃ、触らない方がいいっぬぁ?」
俺が一歩下がろうとした時、背中に衝撃を感じた。
気づいた時には顔から倒れた。
やべ、死んだかも。
視界が光に包まれ。
次の瞬間。
意識が飛んだ。




