117話 地無
あたりはすっかり暗くなり屋台の光や電球で光る提灯が頼りになるころ人々は少し怪訝な顔をしながらそこに佇む三人を避けていく。
その中のひとりフヅキが見る先には向かい合う二人がいた。
【鳰】とアラキ。
親友であり、元学友であり、現在は、上司と部下。
その二人がただならぬ雰囲気で向かい合っていた。
「なあ、かなめ。【巣】を潰すにはどうすればいいと思う?何が必要だと思う?」
アラキは【鳰】に問う。
「さあな」
「喰魔石だよ」
アラキの言葉に同意する。
【鳰】だって分かっている。
今回の任務に深くかかわるこそ、喰魔石の持つ力を。
それが一つあるだけでバランスブレイカーになりえるのは分かっていることだ。
「じゃあさどうやって手に入れるかだけど」
そういって指を二本立てる。
「方法は二つある。一つ目【巣】最高戦力である【鴉】を殺し魔石を奪う。これは現実的じゃない」
指を一本折り曲げる。
「そして二つ目は如月涼月が待つとされる情報を頼りに手に入れる」
アラキが薄く笑うと、父親の名前を呼ばれたからだろうかフヅキが反応する。
「それをしている最中だったんだが……」
もはや隠せないと思い【鳰】はそういう。
「いや、もうその必要はない」
アラキは見慣れぬ肩掛けの鞄に無造作に手を突っ込む。
「最後に話したかったんだが思ったよりも長くなっちゃたな。じゃあな、かなめ」
――バーン
と音が鳴り響いた。
「アラキの奴何言ってるんだ?」
なにかを堂々と話し始めたのを一行は見守っていた。
そんな中江州がそういうが皆も同じ気持ちだった。
この距離では聞こえない。まして今は祭りの最中、人が多すぎる。
それに【鳰】のアラキはともかく【鳰】のマイクは常に音を拾っていたはずだそれなのに何も聞こえない。
これはアラキ以外知らないことだが事前にアラキがオンオフを出来る物に取り換えられていた。
「おい、あれって」
もう全員が飛び出していた。
アラキのその手に握られているのは銃だ。
どこで手に入れたのかは分からないがここからでもわかる一気に放出された殺気とどう考えても縁日のくじの当たりなんかではない重みがある。
どうやら周りはおもちゃだとしか思ってないようだが。
しかし次の瞬間、またもや状況が変わる。
――コロン
そんな音を立て、地面に落ちたのは……
「まずっ……!」
シトイは離れようとするがもう遅い。
それは光を放ち効果を発揮する。
転移のアイテムだ。
「くっそ!」
一瞬で戦力を一人減らされ悪態をつくがこの中で止まるものは誰もいない。
一直線に【鳰】のもとへ。
――バーン
しかし、それより早く撃鉄は起こされ、引き金は引かれる。
「やはり自分がしてもらえなかったことを子供にはしてあげたいってやつですか?」
射的屋を出て歩いていたトンナとハヤトに声をかけた男はそういう。
なんとも薄っぺらい印象を受ける男だ。
しかし、実力は間違いなく高い。
「何の用だ?」
トンナは構わずそういう。
どう見てもただ談笑しに来たようには見えない。
「いや、僕思うんですよ。やっぱ間違ってるなって」
しかし、男もその問いには答えない。
「あ?」
「あなただってそう思うでしょ。まさに被害者ってやつなんですから」
男は不気味に笑った。
「名瀬さん!」
「わかってる!」
アラキが銃を取り出したときこの二人も動き出していた。
初動は別行動の四人と変わりないが、位置が悪い。
四人と比べると到着までに0.2秒ほど遅れる。
それではだめだ。
短距離走での0.2秒が致命的な差を生むように基礎運動能力が高いうえに更に身体強化を重ね掛けした術者同士の戦いの中では更に重要度は上がる。
だからこそ早急に対処しようとして注意が散漫になる。
襲撃者はそこを狙う。
「わかってるわよッ!」
しかし、名瀬は幹部の部下を担うほどには実力はあるこれくらいなら当然折り込み済みであり難なく対処できる。
名瀬は真横から放たれたナイフをはじき返す。
どこから放たれたかを確認しようとするが恐らく人ごみの中。
一般人に知覚できないスピードで放たれたためパニックが起こっていない事だけが救いだ。
アラキが何を考えているかわからないが恐らく協力者は複数いる。
これを逃すより追った方がいいだろう。
誘き出されるようで癪だが行くしかない。
幸い彼方には部下が四人、人数的には申し分ないだろう。
シトイが転移させられたようだがそれはどうしようもない。
「西湖ちゃん!」
「わかりました」
西湖は意図をくみ取りついてくる。
名瀬はそれを確認する余裕もなく地を蹴った。
昼神邸。
血と死のにおいがこの場を閉め、あたりには両断された死体やそこから飛んだと思われる血液がこびりついている。
「まあ、こんなもんか」
次期昼神家当主であり【鳰】の義兄弟であるタケルはそうつぶやく。
今日の朝まで食卓を囲んでいた人たちをたくさん殺したが特に思うことはなかった。
そのことに対しては自分でも意外だとも感じていなかった。
この家の人たちには大した情もなかった。
別に仲が悪かったとかそういうのはなくむしろ良好な関係であったが結局は他人。
しかしながらタケルだってこの世すべての人間を他人とは思っていない。
ただそのハードルが高いだけ。
「まあ、強いて上げるならなんだかんだこの世で一番尊敬している父さんと……」
そういって名前を上げたのは現当主であり父親でもあったタドルだった。
とは言え、今日は任務で家を空けているようで未だ殺してはないが。
タケルは純粋にその人柄にも強さにも憧れていた。
まあ、家としての決まりが古いせいで普段は固く見えるが。
「それとかなめかな」
父親を除いた中では義理の容態でありながら血縁者を押しのけその名前が一番に上がった。
今更ですがNestって所属してる人たち隊員なのか術者なのかわかりません。
Nestの設定がガバガバすぎてわからない。




