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116話 月異


「次こっち行きましょ!」


「ああ」


 フヅキに手を引かれ【鳰】は歩く。

 ただでさえシルエットや歩き方が女になるように気を使ってるのに足元がこれでは歩きずらい。

 足元を見ながら内心愚痴るがそれとは裏腹に意外と【鳰】は楽しんでいた。


「よう、かなめ」


 しかし、予想外の背後からの声に立ち止まる。

 そこには一人の男が立っていた。








「ちょっ見てあそこ」


 江州が指をさすのは作戦中の【鳰】と接触対象であるフヅキだ。

 とは言え腐っても【巣】の最高戦力と名高いものたちだ。

 いくら気を抜いているように見えたとしても皆意識は飛ばしている。

 それ故、すでにその場にいた部下全員が状況を把握していた。


「なぜあんなところに!?」


 それを口に出したのは美沙兎であったが皆口に出さずとも同じ思いだった。

 しかしその時点で動けた者はいなかった。







「あんなに笑ってる【鳰】さん見たの初めてかも」


 西湖は遠目に見て言う。

 【鳰】が来てから数か月、西湖が中学生ということやなんだかんだ言って高校入学するだけの学力を持っていた【鳰】が仕事が早いということもあって空いた時間に勉強を教えていたのだ。

 その時、時折笑うもののなんだかぎこちなく思えた。

 しかしそんな笑みは消え去り今は優しい笑みを浮かべていた。


「ホントだ。任務の対象という関係ではあってもなんだか少し安心したわ」


 今回のような作戦は情が移りやすく私情が出やすくはあり、あまり良い傾向ではないが普段の【鳰】を見ている身からするとよかったように思う。


「あれ?そういえばアイツは?」


 ふと、あたりを見渡しアラキがいないことに気付く。


「さっきトイレに行くって言ってましたよ」


 西湖はそういって去っていったアラキを思い出しそういう。


「私にも声かけなさいよ」


「ごめんなさい。なんだか名瀬さんには伝えないでくれと……」


 そういう時期かとも思うがトイレくらいはと考えていた時だんだん喋る声が小さくなり疑問を抱く。

 どうしたのかと聞こうとしたとき西湖が背後に指をさす。


「あ、あれ……」


「え……?」


 後ろを振り向き自分たち部下の気配を警戒対象から除外していたことに後悔する。

 しかし、だとして余程自然体でなければする抜けることはできないはずだった。


「アラキ……?」


 そこにはアラキがいた。








「よう、かなめ」


 手を上げこちらに向かってくるアラキを見る。

 正直【鳰】は特訓のかいあって気配に気づいていたのだがフヅキのことを考えた結果あえて反応しなかった。

 変に不信感を持たせる必要はない。

 それにまさか話しかけてくるとは思わないだろう。


「よう、アラキ」


 しかし、話しかけられれば答え返すしかない。

 こいつなに考えてんだ?

 多分他の部下たちは止めようにも動けないので相当焦ってることだろう。

 下手に出ていくと余計に自体が悪化する。


「もしかして彼氏さんですか!?」


 そんなことをこちらの気も知らずに口走るフヅキだが【鳰】にはこの数か月の経験からこれは本気ではなくふざけて言っているのだと気付く。

 当初であればこんなことは遠慮して言えなかったので心を許してくれたと喜ぶべきか、状況を余計にめんどくさくしそうなことに憂うべきか。

 これにはどう返すんだと【鳰】は内心アラキを見る。


「なぁ、かなめ」


 しかし、予想に反しまた【鳰】の名前を呼ぶ。

 これにはフヅキも怒らせてしまったのではないかと慌てる。


「おかしくないか」


「なにが?」


「【巣】だよ」


「おい、お前!?」


 フヅキもいる前でいきなりアラキは暴露する。

 どういう作戦なのか?

 これで反応を見て【巣】の存在を知ってるか確認するのか?

 でもそしたら今までしてきたことが……


「【巣】もお前の家、鳰家も……なぁ?」


 明らかにおかしくなったアラキを見る。

 とても正気には見えない。


「お前を道具としか見てない」


「……」


「鳰家はお前に魔石を使うだけの道具としか見てなかった」


「何でそれを知ってる?」


 それはアラキにだって話してないはずだ。


「【巣】だってかなえを個人としてみていない」


「何の話だ?」


 家については確かにそうだが【巣】の件は知らない。

 確かに後で【鸛】がどうしようもない場合は昼神の人たちを処分すると言うつもりだったようだが。


「知らないのか?」


 アラキは意外そうに見る。


「いや、聞かせてないのか……」


 アラキは憤ったように見えるとまた話始める。


「【巣】が欲しているのはお前個人ではなくお前の血筋だ。鳰家は歴史に名を刻むほどの封印術の使い手を数々と輩出してきた家系だ」


 それは昼神邸に【鸛】がやってきたときにも口走っていたか知っている。


「そして問題はその封印術にある。名前は――」


 命秤結解(めいていけっかい)

 アラキはそういった。

 それはアラキの神降ろしのような血筋にしかできないお家芸ともいえる技。


「命秤結解はその名の通り命と封印対象を天秤に乗せるような術だ。自身の命を削り、命を鍵にして封印する」


 封印術は様々な様式があるが何かを鍵にして封印するものとして一番強力なものは命や記憶、魂と言ったものを鍵にして封印するものだった。

 それらは人がすべて持っていながら人の手では届かないもの、人が何よりも大切にしているもの。

 これ以上の対価はなかった。


「こんなふざけたことはおかしい」


 アラキは手を握りしめる。

 握りしめた手からは血が滴る。


「だから思ったんだよ【巣】を壊そうって」








「よーし!もっといいとこ見せちゃうぞー」


 そう言って張り切るのはトンナだ。

 そして隅には大量の景品が積まれている。


「父さんもういいよ」


 射的用の銃をのぞき込むトンナを見ながら息子であるハヤトは言う。

 すご技連発で目立っているのかその異様な光景に人が集まってきてるかは分からないが早く離れたかった。

 というか気付いているのだろうか景品は一人三個までも文字を。

 何回チャレンジしても一人三個までの文字を。

 店主のおっさんもお金を無限に落としてくれるのでなにも言う気はなさそうだが。


「ほら、みたか!」


「もう何回も見たよ」


 ダメだこの人と思いながらなんとかやめさせると歩きだす。


「いやーここまでくるといっそすがすがしいですねぇ」


「あ?」


 聞きなれない声にハヤトが反応する前にトンナは構えていた。

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