114話 林檎飴
「二人は?」
ヒカリはそう訊いてあたりを見渡す。
「あっち」
トシユキは美少女ペアの方を指さす。
方向さえわかれば目立ってるだけあって一瞬で見つけられたようだ。
「じゃあ、私たちも同じ方向行こ」
「ああ」
ヒカリに手を引っ張られ歩き出す。
楽しそうに笑うヒカリは眩しかった。
今回の任務の最終目標は喰魔石の情報または喰魔石そのものの入手。
本部からの情報には行方不明になっていた二つ目の喰魔石に【巣】関係者である如月涼月が繋がっているという記載があった。
これは喰魔石本体のありかを知っているのか手に入れているのかは今現在わかっていない。
しかしそれ一つで抑止力となる喰魔石を個人の手または外部に流出させるわけにはいかない。
少なくとも如月涼月が【巣】に報告していない時点で何か組織の不利益になる可能性は高いだろう。
そう考えた上が【鳰】に命令を下した。
如月フヅキに接触する。
それが今回の任務の第一条件だった。
これは如月涼月の娘である如月フヅキから情報を手に入れるために行うことであった。
恐らく喰魔石の情報を娘に話す確実は極めて低いが今回のことの重大さから少しでも情報を手に入れるための措置であった。
そのため実のところ本格的な調査は別で進行しており今回行う【鳰】の作戦は今回の任務のほんの一部でしかなかった。
だからこそトンナは任務ではあるがたのしんで来いと言ったのだ。
そして現在第一条件をクリアし、ある程度関係を築くことに成功している今、次のステップに進むときであった。
「かなめは何食べる?」
フヅキは辺りを楽しそうに見渡して【鳰】に話しかける。
仲が深まったこともあって呼び捨てになっていた。
別にこれは【鳰】から呼び捨てでいいと言ってわけではなくフヅキ本人が恥ずかしそうにいいかなと了承を取ってきたのが始まりだった。
特に問題はないと考えた【鳰】の許可が出たため現在はこうなっている。
【鳰】はふと恐る恐る呼んでいたはじめの頃を思い出し少し笑った。
「どうしたんですか?」
【鳰】の様子に気付いたのか首をかしげる。
「いや、なんでもない。オレこういうとこ来るの初めてだがらおすすめとかあったら教えてくれないか?」
適当にごまかしたが縁日に来たことないというのは本当だ。
昼神のみんなから誘われることもあったが【鳰】は遠慮して参加しなかった。
「そうなんですね。ならあれ食べましょ!」
フヅキが指を指したのはりんご飴だった。
不思議な人だった。
と言っても義務教育さえまともに受けていなかったから進学して高校に入ってから毎日が不思議なことだらけだったけど。
それでもあの人はその中でもいっそう不思議と感じた。
フヅキは高校以前まで義務教育を満足に受けていない。
学校に通ったことがないわけじゃない。
しかし思い出ができるほど通っていない。
むしろ学校での記憶が少なすぎて同じ日のことを何度も繰り返し思い出すから鮮明に覚えていると言えばそうなのだが。
学校に行けなかったのには理由があった。
それは父親である如月涼月が大きくかかわっていた。
如月涼月は魔石の研究をしていた。
はたから見れば病気と言えるほどに熱中していた。
そのおかげで【巣】の魔石に関する研究は何世代も上の技術を生み出すこととなった。
有名どころで言うと人体に取り込まれた魔石をステータス以外で識別できるようになったこととかだろうか。
如月涼月の研究は数々の恩恵をもたらした。
しかしその一方で苦しめられたものがいた。
その一人が如月涼月の実の娘、如月風都希であった。
彼女は幼いころに母を亡くした。
しかし大好きな父親と暮らしていた。
はずだった。
ある時、父親は人が変わったように狂いだした。
そんな姿を見て心配するフヅキだったがどうにもできなかった。
フヅキは知らないことだがその当時【巣】から涼月は非道な人体実験の停止を命令された。
涼月の研究成果の裏では身寄りのない子供たちが集められ実験が行われていたのだ。
初めはちょっとした検査程度であったものが涼月が魔石と使用者の関係に興味を示したころからおかしくなり始めた。
使用者と魔石の死の関係。
使用者が死ぬと魔石はどうなるか?
これは研究するまでもなく常識としてわかっていた。
答えは体から粒子化して体外へでてまた元の宝石のような結晶へと戻る。
では同じ魔石を違う使用者に使うとどうなるか?
そんな研究をした。
もちろん使用者以外は同じ条件を用意しなければならない。
そのため殺した。
そして出てきた魔石を使ったのだ。
結果。使用者によって個体差があり。
そしてそれ以外の研究にも同じ手法で魔石を取り出し再利用をした。
理由は単純に魔石の希少さが原因だった。
世界中で魔石が落ちても魔石の扱いは希少のなかそんなことも起こっていないのだから当たり前であった。
そして、そんなことを繰り返した末【巣】から禁止された涼月は狂った。
以前とは別人のようになった涼月はものにあたった。
見た目も変わり性格も荒れた。
そんな時心配する娘が目に入った。
【巣】に仕入れルートを抑えられた今、殺す殺さない以前に実験ができない。
これしかないと思った。
フヅキは殺されない程度に実験に使われた。
辛かったり悲しかったりそれ以上に日常を願った。
そして世間では中学三年が終わるころ父親の様子が変わった。
昔のように戻ったのだ。
きっと父は何かを代わりを手に入れたんだと悟った。
そしてそんな父にも慣れたころ思い切って学校に行きたいと頼んでみた。
父は嫌な顔一つせず許可を出してくれた。
学費も払ってくれて尚且つお小遣いもくれるという。
この口座にあるだけ使っていいと言われた口座には0が七桁あった。
でも、許可が出たのはギリギリだったのであまり頭の良くないと言われていた学校を選んだ。その代わり制服とかが人気らしい。
勉強なんて小学校以来してないのでこれくらいだろうと考えた。
研究の合間にするほどの余裕や教材はなかったのだ。
しかし入った学校は思った以上に学力が低かったようでテスト勉なるものを知らなかったフヅキが挑んでも満点が取れた。
レベルが低いというより範囲が狭いのだ。
とはいえ、人付き合いをあまり経験していないフヅキにとっては生徒との会話にレベルを考えればちょうどよかったかもしれない。
そして少し学校にも慣れたころ一人の女性に出会った。
かなめという名前らしい。
かなめは他の女子とは少し違っていた。
それがとても不思議で魅力的に思えた。
それからかなめと出かけるようになり手つかずに近い状態だったお金を使い始めた。
クラスの女子と遊んだりもしたがそれと比べるとかなめと遊んだ数が多すぎる。
かなめは普段何をしているのかは分からないが誘えばいつでも来てくれた。
いつでも来てくれるので前にクラスメイトから聞いた「ニート(?)ってやつみたい」と言ったらなぜか落ち込んでいた。
祭りに誘ってみた。
しばらく返信が来なくて焦ったけど来てくれると聞いて喜んだ。
もしかして自分に送る文を必死に考えて時間が経ってしまったのかと考えるととてもうれしかった。
当日浴衣が似合ってると言ったらかなめはかわいいと言ってくれた。
かなめは夏祭り初めてらしい。
実のところフヅキも初めてだが普段のかなめにしては珍しい。
いつもと違って今日は自身がリードする番だとフヅキは意気込んだ。
僕はリンゴ飴食えません




