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天より落ちし光の柱は魔石を運ぶ  作者: えとう えと
第一章 中学一年生編
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10話 アデゥシロイ


闇炎(あんえん)ッ」


 闇炎、それは、二種の魔法の同時使用を試みた結果であった。


 この技は単純な組み合わせで構成されている。

 

 〈(あん)〉:0.5秒後に闇属性の魔力の放出。


 〈(えん)〉:炎属性の魔力の放出。


 本来、登録した魔法を発動中に重ねて使うと発動が停止する。


 正確には、一種の魔法であればの話である。


 だが、二種の魔法であればその限りではない。


 一種の魔法、例えば日高蒼介の場合は氷魔法だが、〈鎖〉を発動し〈槍〉を発動しても、鎖が具現化していれば、槍を出しても消えることはない。


 では、鎖の生成が途中の場合はどうなるか?


 その場合氷魔法〈鎖〉はキャンセルされそして新たに〈槍〉が作られる。


 だが、二種の魔法を使うことが可能な、津田伊織なら、例えばの話だが、炎魔法を発動しながら、並行して闇魔法を発動することが可能だ。


 それも、誤差なく二種を発動した場合の話だが。


 そもそも、津田伊織の現在のスペックでは右手に炎を明確にイメージし、左手に、闇魔法をイメージすることなど不可能だ。


 それを戦闘で使うとすればなおさら可能性が低いと言えるだろう。


 こんな状態ではもし発動ができても方向性を持たせたり火力の調整をしたりは出来ない、ましてや、炎属性と闇属性の魔法を合成し、混合魔法などとは、とてもではないが言えない。


 だから、考えた。


 どうすれば良いかと。


 そして、魔法の登録に目をつけた。


 数少ない四枠のうちの二枠を使い炎魔法と闇魔法の同時出力を可能とした。


 まず、(あん)の魔法を発動する、その効果は、0.5秒後に発動される。


 そこに合わせて(えん)と魔法を発動する。


 そうする事で二つの魔法が強制的に同時に放出される。

 

 なんて言うのは簡単だが、普通そんなことはできない。


 正確に0.5秒後ピッタリに〈炎〉と誤差なく口に出すなんて、あまり現実的とは言えない。


 だが、伊織は、それを可能とした。


 発動さえしてしまえば、後はどうとでもなる。


 向きを操ったり、火力の調節したりするくらいならできる。


 登録した魔法なんだから操れないと思われるかもしれないが、ある程度までは通常の魔法同様に、操ることはできる。


 でなけれは、蒼介の鎖など、ただ、生やすだけで拘束などできない。


 だがそれはメリットだけではない。


 闇炎はただ放出させる、だけの魔法だ、辛うじて刀に纏わせることはできるが、それ以外は垂れ流し状態になる。


 その結果、伊織の周りを円を描くように放射状に黒い炎が溢れている。


 生身の人間が足を踏み入れたらただでは済まない。


 だが、それは、伊織も同じだった。


 本来であるならば魔法を取得すれば身体もその、属性に強くなる。


 伊織なら、火属性、あつさに強くなる。


 蒼介なら、氷属性なので、寒さに強くなる。


 だか、今の伊織は多少の耐性はあるものの、自身の魔法によりダメージを受けていた。


 本来、自属性に強い魔法の使用者であるが、ただそれだけでは魔法行使の際、強力な魔法に耐えられるほどの耐性はない。


 その為、魔法発動の際、一時的に、耐性がより強くなる。


 だか、同時に二つの魔法を発動する伊織には本来発動するはずの、耐性がない。


 これは、強制的に魔法を発動した、代償とも言えた。


 魔力を燃やしており、服に燃え移ったりはしない炎だが、攻撃力は確かにある。


 伊織は自分の肌が焼かれる感覚を覚え舌打ちする。


「速攻で決める」


 伊織は足を踏み込み、地面を蹴る。


 魔法の加速も使い、人狼に一気に距離を詰める。


 だか、そうも簡単にはいかない。


 人狼に侍る、四体の黒狼が、行手を阻む。


 だがスピードは緩める事なく眼前に迫り、一閃。


 闇炎を纏う事で強化、さらに、炎で加速させた刀は一撃で首を刈り取る。


 が、バキッと刀が根本から折れる。


 これは、闇炎による負荷、固い黒狼の皮膚だけが原因ではない。


 そもそも、伊織はただの中学生であり、どんなに身体能力が上がろうと、その武器の扱いは素人以下だ。


 今まで刀が持ったのも魔力が含まれたダンジョン産であったことが大きい。


 もし、従来の刀など持っていたのなら一日も経たず折っていたであろう。


 だがそんな事は、伊織とてわかっている。


 ゆえにコレは予想していた事態であり、既にその右手には首飾りから出した刀が握られている。


 そして止まる事なく、次々と黒狼を斬り伏せる。


 さっきので四体だ。


 もう行手を阻むものはいない。


 伊織はさらに加速して、人狼――アデゥシロイへと腕を振り抜く。


 そこに、握られていたのは、刀ではない。


 それは、ダンジョンでキングが使用していた、大斧であった。


 今まで使用していた刀と、大斧ではその大きさや重さ以前に武器としての等級が違う。


 通常時なら持ち上げることも難しいこの斧だが、今この状況においては最適かつ最高の武器だった。


 金色(こんじき)の大斧は黒い炎を宿し、さらに炎を噴射し加速する。


 一瞬、伊織の濁ったような紅い目と、アデゥシロイの怪しく光る紫の目が交差する。


 大斧が、アデゥシロイの腹部に直撃する――その前に振り抜かれた三振り目の刀、太刀が間に入り込み、武器がぶつかり、物凄い衝撃を生む。


「ぐっ!」


 手が痺れ、さらには、大斧に亀裂が入る。


 だがまだ、止まるわけには行かない。


 伊織は斧を捨て再度足を動かす。


 向かうのは人狼――ではなく、その後ろ、狼たちを黒く染めた原因である二本の刀。


 一体目を倒した時に既に僅かにだがあの刀から狼達に魔力が送られていることに気付いていた。


 もしかすると、あれを抜けば狼たちは元に戻るかもしれない。

 

「あと……すこ、しっ!」


 伊織は手を伸ばすが、もう届くと言うところで、腹部に衝撃を感じ吹っ飛ばされる。


「グホッ!!」


 突然の衝撃に疑問を抱く。


 何故。


 何故、あの攻撃から直ぐに動けるのかと。


 そもそも、先の攻撃で怯んだのは伊織だけであり、アデゥシロイは、微動だにしていないため、わざわざ待つ道理はない。


 反応が遅れたのは意外な行動に虚をつかれたからだ。


 アデゥシロイは刀を振りかぶり、振り下ろす。


 伊織はなんとか構えるが間に合わない。


 だが、首根っこをつかまれるような感覚と共にその場から引きずられるようにして、移動する。


 先ほどまでいた場所に、太刀が振り下ろされるが地面に当たる直前にピタリと、止まる。


 ハッとし後方を振り返ると氷の鎖、どうやら蒼介が、助けてくれたのだろうと確信する。


「た、助かった」


「気にしないで」


 だが、今の一瞬で随分離れていまった。


「クソッもう闇炎は打ち止めだぞ」


 それにさっきのように突撃しても斧を失い、隙もつけない今となっては、先ほどのようにうまくいく可能性はゼロに等しい。


 2本の刀を見ながら次の策を考え――


「ない?……と言うか」


 自分の横に目がいく。


 そこには、氷の鎖の残骸と一緒に何処かで見たような二振りの刀が。


「ああ、それ?隙をついて奪ったよ」


「あの一瞬でそんな事まで?」


 すげーなと、伊織が漏らす。


「いや、君が突っ込んでっても、まず勝てないし最悪死ぬと思ってたから初めからそのつもりだったよ」


「おい」


 自身が死ぬかもしれないと思って、実行させたのかと、伊織が不満を抱く。


 「あの狼たちは元に戻って、首のない死体に戻っちゃったみたいだけど、どうする?」


 ひとまず、校舎にいる人間への被害は目の前の人狼が何かしない限り大丈夫だろうが。


 だが。

 

「こいつが見逃してくれるとも思えないんだけどな」

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