106話 ニオ
【鳩】と別れた後、【鸛】が止まる。
今度こそ目的地に着いたようだ。
「さ、着いたよ。ここが君の新しい職場。まぁ、君には新しいも古いもないけどね」
そういってみるのは何の変哲もないドア。
「ここが」
「そう、じゃあ僕は行くからと言いたいところだけど流石にそれはまずいから」
そりゃそうだろうと思ったが、【鸛】は本当にしたことがあるらしい。
その時の被害者は昨日聞いた話に出てきた友人だったらしいが。
しかも、悪意などはなく、本気で。
【鸛】は呼ばれたのだからさっさとは入ればよいと考えたようだが。
そういった【鸛】はカードをドアにかざすように言う。
「こうですか?」
そう訊きながらも日常生活でも似たようなものは見るのでほぼ確信しながらだが。
「そうそう」
【鸛】が肯定するとドアが自動で開く。
「お、みんな揃ってるね」
【鸛】中を見てそう言った。
「【鸛】さん」
【鸛】に気付いた一人が声をかけてくる。
「もしかしてそっちの人が?」
「うん。そう」
【鸛】がそういうと皆が集まってくる。
その中に見慣れた顔が……見慣れた顔?
「ア、アラキ?」
「お、かな――じゃなかった、【鳰】やっと来たな」
そこにはなぜかアラキがいた。
「おい、稲津、幹部にその口の利き方は――」
アラキが怒られているのをしり目に【鸛】を見る。
「何故アラキが?」
「言ったでしょ、『部下の内一人は君が仕事しやすい相手』って」
そうは言うが、というか幹部の部下はそう簡単になれるものなのか?
簡単に幹部になってしまった【鳰】は考える。
「それに僕が手を回したわけじゃないよ。こと君の部下に限っては適性が必要だからね」
来る前にも少しだけ聞いたが結解を張る関係で適正がないとダメなんだとか。
「まぁ、君の友達は実力でここにいるから心配ないよ」
「そうですか」
【鸛】に聞いた限りどうやら、ここにいる全員は今日初めて集まったらしいがずいぶん仲がよさそうだ。
「さぁ、そろそろ自己紹介と行こうか」
【鸛】がそういったところで全員が静まる。
幹部というのがどれだけすごい存在なのかは知らないが、一瞬にして一列に並びなおしたことから見るに相当なものだろうと考える。
幹部ではなく彼個人の技量の可能性もあるが。
【鸛】に促されまずは自分から挨拶することになる。
「えー、この度幹部になった【鳰】です。よろしくお願いします」
なんていえばいいのかはわからなかったがとりあえず挨拶をしておく。
「うん、じゃあ次は君から行こうか」
【鸛】が再度促す。
そこでやっと気づく。
今まで自分は学生であったため基本的に受け身で過ごしていたが、【巣】云々以前に、その場を回さなければならない人物だということを失念していた。
とりあえずは【鸛】が回しているが、心に留めておくことにする。
「わかりました。俺の名前は鋤田です。担当は北です」
スキタの発言に首を傾げそうになったが、そういえばと【鸛】の発言を思い出す。
北というのは結解に関係した発言だった。
大規模拘束術式"神縛結解"。
その中核となる七人、いや、八人の内一人である彼は自身の担当する方角を言ったのだ。
彼は先ほど【鸛】に一番早く挨拶をした人物だった。
ちなみに三十代。
そして次の人へと続いていく。
「えっと、俺は江洲って言います。西です」
そういった江州は割と若い様だ。
正確な年齢は分からないが二十歳くらいだろうか。
「次はボクかな。名前は市問。歳は十九で、それと……あ、そうそう、そこのアラキ君とは知り合い」
そういった彼はアラキを見る。
ちなみに東らしい。
「私は美沙兎、南です。ちなみに美沙兎は苗字です」
そういった彼女も二十代前半に見える。
「じゃあ、俺だな。知ってると思うけど荒喜。んで、方角は北東」
まぁ、アラキはアラキだ。
次。
「私は頓名と申します。担当は南東です」
トンナと名乗った男はスキタと同じく三十代。ちなみにイケオジ。
「名前は名瀬です。駄洒落みたいですけど南西を担当しています」
年齢は【鳰】とアラキの1つ上で先ほどアラキを注意したのは彼女だ。
そして先ほどの荒い口調だがどうやらアラキにだけ発動するらしい。
「西湖です。方角は北西です」
そう名乗ったのは中学生くらいの少女だった。
というか本当に中学生のようで十四歳らしい。
大丈夫なのかと思ったが大丈夫らしい。
「よし、みんな終わったね」
【鸛】がそういうと色々と説明をして去っていった。
「早速ですが。任務です」
【鳰】本当に早速だなと思いながらそういう。
とはいえ、他の幹部にすら顔合わせもしてないのに支給された端末に任務内容が送られてきたので仕方ない。
勝手がわからないながらにやるしかないのだ。
「あの、先に1つ良いでしょうか?」
そういったのはスキタだ。
先ほどからのやり取りを見ているとリーダー気質があるようだ。
こういうところでも発言しそうな人だしこの行動には疑問を抱かないが。
「何かわからないところでも?」
まだ内容すら話していないのだからあるわけがないのだが。
いや、逆に話してないからまだわからないところしかないともいえるが。
そんなふざけたことを考えていたがスキタの口からは思ってもいなかったことが出てきた。
「いえ、そうではないのですが。俺たちに敬語使う必要はないですよ」
「え?」
「本来ならばこんなこと言うのはどうかとも思ったんですけど、【巣】という組織の性質上そうした方がいいってのもありますけど、それ以上に【鳰】さんは普段の喋り方の方がしやすいでしょう」
よくわからないが気を使ってくれたようだ。
「わかった。そうする」
だが良いというならそうしよう。そもそも、苦手なのだ敬語以前に文章とかそういうのが。
「ええ、こちらとしてもその方がありがたいです」
「じゃあ、他にないなら説明を始めるが――」
加地灯高等学校入学式。
『しぃんにゅうせぇい!!!!起立ゥ!』
バカでかい声を更にマイクに乗せ拡散してくる。
うるせー!
新入生である新井敏行は心の中で叫ぶ。
こういう教師は嫌いだとトシユキは思う。
そういえば中学の頃に入っていた部活の大会でもこういう奴いたなと思い出す。
体育館だか武道館だか知らないが運営を手伝っていた顧問かなんかが二階で立ってた選手に受かって「立つな」とマイクで叫んでいたのを思い出す。
プレイしている選手がどうのと言っていたが、マイクで拡散した怒鳴り声で叫ぶ方が妨害になりそうだが。
結局、隣にいた、運営に注意されていた時はざまぁないと思っていた。
まぁ、つまり、トシユキはこの手の人種が苦手だった。
そんなことを考えていたらまた指示がとんでくる。
『きをつけぇえいるぇいいい!!!!』
うるせぇし、気を付けと礼をつなげるな。
「気を付敬礼」にしか聞こえない。
つい数か月前まで卒業式の練習をしていたせいで尚更そう思う。
気を付けのあとに一泊あったのだ。そしてそれを何回も練習でしていたのだから違和感しかない。
これが普通なのかどうなのかは置いておき、やはり学校のせいなのかなとも思う。
トシユキは心の中で考える。
この学校、頭悪いんだよね、と。
自分も同類とは思わぬままに。
似たような顔の人が世界に3人はいるなら似たような考えのインキャはたくさん居てもおかしくないよね。
あと僕はインキャではなく陰キャ派です。
それとよく考えたら中学生で戦うって頭おかしいよね。




