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101話 ケイドロ ドロケイ


「――ッ……なんだ!?」


 かなめは突然の気配に顔を上げる。


 異様な気配。

 禍々しくそれでいて神々しい。

 朧げだがそう感じていた。


 かなめは魔力の感知に長けていない。正確に言えば魔力そのものがないかなめには魔力が関わるすべての要素において並みの術師より一歩遅れる。

 これはかなめ自身、感覚で掴むことが不可能なことに大きく関係しているため仕方ないのだが。

 そんなかなめでもハッキリと感じられる膨大なエネルギー量、これを気にせず過ごせというには少し酷な話だった。


 かなめは椅子から立ち上がり机の上に置かれた紙の束と銀の腕輪(魔力供給機)を掴み、状況の把握をしようと外に出る。


















「――――ガグゥゥゥウウオオオオ!!!!!!!!」


 赤鬼は雄たけびを上げた。


「――ッ!」


 膨大なエネルギーを至近距離で受けそうになったアラキは何とかその場を飛びのき回避する。

 実際のところ攻撃でも何でもない雄たけびではあったが、まともに食らえばただじゃすまないだろう。

 そのくらいに目の前の鬼は強敵であった。


 耳から何か温かい液体が流れるのがわかる。

 耳がガンガンと痛むアラキだがもう一度相手を見据え構えを取る。


「……くそが」


 さっきのを回避してもこれだ、バカらしくてやってられなくなりそうだ。

 まぁ、相手からすれば本当にバカに見えるだろう。そう内心アラキは思った。

 だがそう思うのは仕方ないだろう。だだ雄たけびを上げただけでそれを回避し、更にはわざわざ回避したのに単純な魔力でも何でもない音で負傷しているのだから。


 だが、稲津家には適した土地がなかったからとは言え、この場所を選んだのは悪手ではないだろうか。

 屋内、というか、此処はちょっとした洞窟の中に出来た儀式場なのだが、やはりというか音が反響する。

 わざわざ戦いやすくこちらで場所を決めているのに、これでは地の利が活かせないどころか、それを持ってるのは完全に彼方側だ。


 だがそれでも地の利はこちらにあるようで。


「ガグァァア!!」


 鬼は足を踏み込みこちらに迫る。

 アラキは構える。


「なにッ!?」


 しかしその瞬間、アラキに迫ると思われた鬼はそれを通り越しそのままさらに奥へ――出口へ向かう。

 だが同時にアラキも笑う。

 何故笑ったか?

 そんなの決まっているだろう。


 ()()()()()()()


 わざわざ洞窟を選んだのはこの為だ。

 この洞窟は三方を壁で囲んでいる。つまり、守りを強化しなければならないのは出入口のある一方だけ、そこさえ封印術で閉じてしまえば逃げられることはない。


 だが、背後から攻撃を仕掛けようとしたアラキが見たのは鋼鉄の扉をいともたやすく壊す光景であった。

 完璧なはずであった。今までだって、何代にも渡り行われて封印が破られたことなど――


 そこでアラキは気付いた。

 本来使われるはずの封印術は今はなく、この扉に張られていたのは結解だ。


「くっそ!」


 まずいと思ったときにはすでにタケルも動いていた。















 




 異世界の神を式神としてこの世に降ろすとき、それは神としての機能を持たない。

 式として降ろされるのは力の一端、そこには神としての権能はなく、神としての秩序はない。

 この世に降ろされるのは神という名を名乗るほどの価値はなく、だがそれでも人間にとっては強大な力。

 いわば暴力そのもの。


 だが、ただ力を振り回すだけの化け物に成り下がったわけではない。

 腐っても神の一部、疑似的な自我の形成程度ならたやすいことだ。

 疑似的と言えどその知能は獣を優に超え、ヒトより少し劣る程度にまでになる。

 


 鬼は考える。

 まずは状況の把握が適切だと。


 すぐに攻撃すれば何か悪いことが起こるやもしれない。

 場所は洞窟、出口は一か所、敵は二匹、そのうち一匹は警戒しているものの攻撃の意思はない。

 そして、扉の向こう、少し先に上質な妖力(食事)

 


 知能が多少低かろうが、状況把握に思考は必要ない。

 観察し、推測せずとも、ヒトでは考えられぬスペックを持つ鬼であれば体が勝手に理解する。スキルなど使用しなくとも素のスペックで同等のことを再現できた。

 人間で言うスキルなどの力、その中には情報を処理した状態で得ることが可能なものは多く存在するが、分析、鑑定、ステータスまで、多岐に渡ったとしても異能の塊ともいえる神の断片には造作もない事だった。それは、ヒトでは感知できないはずの抑え込められた妖力でも。


 

 

 手始めにまずは威嚇。

 手前にいた一匹が後退する。

 奥の一匹は目を見開いて固まっている。


 今なら出られる。

 扉まで移動する。


 何か仕掛けがあるようだがこの程度なら破れる。



 鬼は扉を破り外に出る。

 頭に浮かぶのはすぐ近くに気配の感じる妖力(食事)のこと。

 死なない程度にいたぶってそれから食べよう、そう思った鬼は再び地を蹴った。

 

















「近づいてくる!?」


 さらに強くなった気配に驚く暇もなく、それが近づいてきていることに気が付いた。

 想定していた魔物のスピードよりも速い。もしかしたら書物に記されていないものなのかもしれない。

 いや、それよりも何故?そんな疑問が浮かぶ。

 だがそれも仕方のない話であった。

 文献に記されていたのは天からの光によっての襲来か洞穴から発生するというものだった。


「でも、待てよ。あっちの方に確か洞窟か何かが……」


 かなめが思い浮かべたのは、奇しくも鬼が発生したともいえる儀式場であった。

 かなめは普段から近付かないよう言われていたし、ましてやその用途など知らされていなかったのだ。


 とりあえず真っ向から勝負を挑んでも負けるだろう、此処は奇襲だ。

 そう考えたかなめは物陰に隠れる。


 近づいてくる気配に集中する。

 もう、この短時間で近くまで来ている。


 ――来た!


 自身の間合いに入ったのを感じ、紙をばらまく。


 長方形に文字が書かれた紙――(ふだ)だ。


 かなめが書物を読み身に着けた力がこれであった。

 札には4つの効果を付与することに成功していた。

 火、風、雷、氷、他にも属性があるのだが実用段階に至ったのはこれだけであった。

 だがそれでもこの術を選んだのは妖力との親和性が高いことが挙げられた。

 本人としては親和性がどうこうという話は知り得ないので試した中で一番使いやすいものを選んだのだが、自然とこれに落ち着いた。


 今回使うのは使えるすべての属性だ。

 何が効くかわからない以上全部使うのが良いと判断したのだった。


 そしてそれは正解であった。


 鬼には弱点となる属性があったのだ。

 だが、それは接敵指定してしまった場合であり、自ら挑んだ場合ではない。

 自ら挑んだ場合その行動自体が失敗である。


 かなめは腹部に衝撃を感じると同時に景色が通り過ぎるのを感じた。


「――ガハッ!?」


 何故と考える暇もなく、背中に衝撃が走り、押し出された空気が肺から出る。


 視界に映るのは赤く気持ち悪いほどの笑みを浮かべた鬼であった。

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