9話 cirque de loup
そう言えば前書きを使っていないことに気づいた。
ということで章を付けてみました。
プロローグも書いてみましたがさして重要な事は書いてないので読まなくても大丈夫です。
一般的に口語的にオオカミと言われるのは、ハイイロオオカミと言うらしい。
野生で狩りを行うための歯は頑丈で、顎の筋肉は大きく発達していると言われる。
今しがた光の中から現れたのはそんな生物だった。
金の目を覗かせる灰色の狼は見える範囲だけでも10頭近くいる。
見える範囲と言ったのは、1匹は敷地外にものすごいスピードで走っていったからだ。
他にもどこかに行ったやつがいるかも入れない。
だが、モンスターと、言うにはあまりにも現実の動物によっている。
勿論モンスターでなくとも、十分に脅威だが、魔力を感じるのでモンスターなのだろう。
だがその奥に、異質なものがいた。
そんなものは現実にいない。
明らかにモンスター。
その、姿はまさしく人狼。
オオカミ特有の二本の足で大地を踏み締め、その身長は二メートル半ばにまで及ぶ。
隆起した筋肉は真紅の毛皮覆われ、腰には、四振りの刀が携えられている。
と、そこで、灰色の狼たちは、唸りながら、地を蹴る。
こちらに向かってくるのではと身構えるが、そうではない。
動き出した狼は警戒するように赤い人狼を囲った。
「……仲間じゃないのか?」
灰色の狼はもう一度一斉に地を蹴った――いや、蹴ったはずだった。
次の瞬間には全ての狼の頭部が宙を舞い地に伏せる。
見えなかった。
手に握られたのは四本のうちの一振り、鞘と柄には、自身の毛並みの色を思わせる真紅の布が包帯のように巻かれている。
人狼はその体にはやや小振りに見える刀を鞘に戻し、その手に取り、逆の手でもう一振りの刀を鞘ごと引き抜くと、その二本を同時に地面に突き立てる。
二本の刀の先から黒い魔力が溢れて放射状に広がり、狼の死体を呑み込む。
次の瞬間、溢れた魔力が引いていき、死体が、死体だったものが露わになる。
現れた狼は黒かった。
皮膚や毛並みだけではなく、目の粘膜まで黒一色だった。
明らかに、強さが上がっている。
4匹が人狼に侍るようにつき、残りの、狼がこちらに向かってくる。
速い!
今の一瞬で、もう校舎の近くまで詰められた。
「伊織!」
そのまま、校舎に近づかれたらまずい。
蒼介がそう目線で伝えてくる。
「クッソ!」
幸い窓は空いている。
冬だがさっきの騒動を見るために窓をクラスメイトが開けていた。
俺は、窓枠に手をかけ飛び越える様に足で蹴り外に飛び出す。
狼は既に届く位置にきている。
落下しながら慣性に従い首飾りから出した刀に炎を纏わせそのまま刺す。
「浅い!」
直ぐに離れ、炎で加速させた刀を当てる。
怯んだところにもう一撃を入れやっと、動かなくなる。
だが、倒しきれない、さっきの、黒い魔力の影響だろうか。
傷も僅かにだが回復しているようだ。
こんなスピードじゃ間に合わない。
一体を行動不能にしても全て倒し切る頃にはまた回復しているであろう。
唯一の救いは他の狼が俺に標的を合わせた事だがこのままでは、捌ききれない。
既に眼前に迫っていた狼に一撃入れるが、もう一体が攻撃してくる。
たが、牙が俺に届きそうになったところで、氷の鎖が現れ動きを止める。
蒼介の魔法だ。
いや、そんな事より。
「もっと早く止めてほしかったんだけど」
「靴履いて降りてきたら、時間かかっちゃって」
こいつ、人に「お前行け」見たいな視線送っといて自分は靴履いて出てくるとか。
まあ、だか、うちの中学の上履きは小学校とかで見るアレでなく靴に近い形のものを採用していることを今日ほど感謝したことはない。
もし、コレじゃなかったらまともに戦闘できなかっただろう、知らんけど。
ちなみに、上履きと呼ぶか上靴と呼ぶか問題だが上履き派は64.6%上靴派は22.8%らしい。
一撃与えた狼を処理した後そちらもとどめを刺す。
死なないけど。
蒼介は迫ってくる狼を次々と拘束し槍を出し自分でも攻撃する。…
「そう言えば、鑑定使ってみたんだけど、あの二足歩行している狼、アデゥシロイて、名前らしいよ」
「種族名……では無さそうだな」
「うん、種族は、「人間」」
「人間って……完全にモンスターだろ」
「知らないよ、そう出てるんだから」
そんな事を言っている間に狼は鎖の中で暴れている。
この狼たちはキングほど力はないがそれでもそこらのモンスターより何倍も強い。
だが、そんな力で抵抗しても蒼介の鎖はびくともしない。
それもそのはず、蒼介はキング戦から反省して、鎖を強化したらしい、その分魔力を使うようだが、経験値を手に入れ魔力量が上がったことによりその問題は解決しているらしい。
俺が、鎖改良型、略して〈鎖・改〉と名づけたが却下された。
理由を聞いたら長いから言われた。
そもそも、蒼介が〈鎖〉とか〈槍〉とか、簡素な名前見つけているのは、戦闘時に素早く発動させるためでありあえて長くする必要はないと言われた。
そんなこんなで、やっと、倒し終えるが、4匹の狼、そして、人狼は動くそぶりも見せない。
蒼介の、鎖にも数があるし何より元凶を絶たない限り、何度でもこの狼たちは蘇る。
よし、と、人狼を見据え、覚悟を決める。
「まあ、こっちにも切り札があるんでね」
「あれ使うの?僕サポートしにくくなるからやなんだけど」
「そうは言っても、このままじゃ多分勝てないからなぁ」
仕方ないか、と言って蒼介は俺から距離を取る。
俺も蒼介が離れたのを確認すると、ふぅっと息を吐きもう一度気合いを入れる。
正直あまりやりたくなかったが仕方ない、痛いし。
そしてそっと、言葉を吐く。
「闇炎ッ」
地面が放射状に黒炎に塗りつぶされた。
それは奇しくも、先ほどの人狼の技と酷似していた。




