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失声のスティープル  作者: 青山風音
番外編 こうして彼女はいなくなった
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第90話 泥に塗れて

 当初、セパの顔に浮かんだ動揺はすぐに収まった。

 その次に浮かんだ顔は、さも面白い物を見つけたかのような興味津々といった顔だった。


「こいつは驚きだ。お前の顔、まるで別人じゃねぇか。なぁ、ハクリリちゃん?」

「整形でしょ? あのババアの名前を知っていたんだし、ホワイトアウト病院にいたんだよ」

「となると、その大金を出した誰かさんが裏にいるってことになる。単なる慈善事業のわけがねぇ。わざわざお前一人だけを整形させて、そこには何かしらの意味があるはずだ」


 セパは顎に手を当てながら値踏みするように言葉を並べていく。

 私やペッグ、長老が隠そうとしてきた秘密に土足で入り込もうとしてくる。

 でも、不思議と焦りはしなかった。

 逆に安心感すら覚えた。自分のやるべきことが明確になって、“それ”をしてもいい理由が貰えたから。

 私は右手を彼らに向けた。


「おいおい、お前まさか殺る気じゃねぇだろうなぁ? 自分が殺される側に入ったからって、殺す側()()入ったなんて、そう思っちゃいねぇだろうなぁ?」


 そう言ってセパは茶化してみせるが、その目は笑っていない。

 私の冷え切った脳髄が目指す決着の仕方と同じものを目指している、そんな目だ。


「『氷塊(アイスロック)』!」

「馬鹿が! 『土隆起(リフトープ)』」


 地面が大きく盛り上がる。

 土の壁が互いの姿を隠し、私の氷を受け止める。

 あの時と同じ攻防……だが──!


「この雨じゃ土が緩いが、ちょいと魔力を込めるだけで防げるのは同じだな」

「じゃあ何も変わってなくなーい? 『目配針(ニーデリヴァ)』! ……あら?」


 だが当然、同じ結果で終えるつもりはない!

 壁が出現した瞬間、既に私は場所を移動していた。ハクリリの攻撃は空振りだ。

 それともう一つ、私が放ったのは魔法だけではない。


「『サウナ・クラーター』……!」


 氷に仕込んだ熱源が、一瞬で氷を水へと変える。

 セパたちの視界には入っていないし、雨に紛れて氷が溶けたことも分からない。

 私の狙いに気付けるか?


「『震土流(セイズモール)』! ハクリリちゃん!」

「『目配針(ニーデリヴァ)』!」

「っ!! ぐっ……!」


 セパが私の居場所を探知し、ハクリリが針を放つ。

 たまらず私は苦悶の声を上げた。


「当たったよ、セパ!」

「あぁ、ナイスヒット! だが倒れちゃいねぇ! ハクリリちゃん、次の針だ!」

「『氷塊(アイスロック)』!」

「っ!! せ、セパ!」

「あん? 一体どうし──」


 ハクリリは気づいたか、針を()()()()()()()ということに。

 刺さった状態の針も一つの方針になる。飛んできた方向が私の狙うべき方向だ。 

 そして私の氷は塊ではなく、『サウナ・クラーター』で整形した何本もの槍となる。


「ぎゃっ!?」

「セパぁっ! ……遅かった」


 そうして撃ち込まれた槍は壁を貫き、壁の向こうで逃げそびれていた男の方を捉えた。

 やはり突きには無力だったか。ストライクもそうやって攻略していたしな。

 元が雨でぬかるんだ泥だったせいか、開いた穴を起点としてグニャグニャと、壁が溶けるように崩れていく。


「うーん、氷が槍にね。理屈は分からないけど“それをやった”という情報が意味することは……さてはセパの壁の秘密に気付いたね?」

「そんなの調べれば分かることよ」


 ハクリリが自分の針の場所を探知できるように、私にも氷の場所が分かる。たとえ『サウナ・クラーター』の熱で形状が変わってもそれは同じだ。

 初めに土の壁に防がれた氷は全て水に変わり、壁の内側へ染み込んだ。

 そして調べた。よく染み込んだ場所が、すなわち穴の空きやすい場所だ。


「その壁、セパの魔力で硬くしているんでしょ? でもハクリリの攻撃を通すために、それと魔力の節約のために全部を硬くしているわけじゃない。実際には目の荒い網みたいに隙間だらけ。だから塊は防げても、細い槍は防げない」

「へぇ、すごいじゃなーい!」


 その通り、本当にすごい。

 改めて痛感する。これを一発で看破したストライクの凄さを。


「く、クソが……!」

「あ、セパ。無事みたいだね」

「無事じゃねぇよ! また病院に行かなきゃだぞ!」


 セパがよろよろと姿を表す。もう意味が無いと知ったのか土の壁を解除し、もとの泥へと戻しながら。

 さすがに致命傷とはならなかったか。


「狙われたのがあたしで良かったね。そのおかげでセパから微妙にずれた位置に攻撃が来た」

「は、ハクリリちゃん……だったらなんで俺の方が重症なのよ? えぇ? 狙われたのは俺じゃねぇんだろ!?」

「えー? 呼びかけてあげたじゃーん。嫌な予感がしたんだよ、氷の魔法を唱えてる最中、刺さったはずの針が()()()()()()。これが針を受け止めていたってことなら、冷静に次の攻撃ができる。針が来た先を狙える。……ね?」


 ハクリリが私の方を指し示す。

 彼女の言う通りだった。足の位置を狙って針が飛んでくると分かっていたから、私は“壁”の後ろまで移動していた。

 針が刺さった瞬間は心が傷んだ。

 そのせいで苦悶の声を上げることになったんだ。


「こ、こいつ……ストライクの死体を盾に……!? 嘘だろ!? 人の心ってモンがねぇのか!?」

「あるよ。お前らと比べたらずっとずっと……!」

「ねぇ、セパ。もう弱いもの狩りは終わりにしなーい?」

「そうだな、ハクリリちゃん。こいつは危険だ。自分の手を汚すのも厭わねぇくらいになってる……完全に殺す側に入ってるぜ!」


 セパたちの顔から笑みが消えた。

 かつてストライクと戦った時よりもずっと真剣に、私の命を奪おうとしている。


「くらいな! 『土竜巻(トープネード)』!」

「っ!?」


 これは……竜巻!?

 視界がすぐに封じられたせいで詳細は不明だが、大量の泥を含んだ強風が私の周囲を旋回しているようで、四方から泥が吹き付けられてくる!


「ぐっ! 『氷塊(アイスロック)』!」


 足元に放った氷を溶かし、すぐに氷へ戻す。そうして自分の足を氷で覆った。

 こうでもしないと体ごと吹き飛ばされてしまう……!


「見ろよ、ハクリリちゃん! 氷が形を変えた! プレーン能力だ! ああやって氷を変形させて飛ばしてきたんだ!」

「ふーん、でも飛び道具なら怖くなくなーい? セパの竜巻を超えてはこないでしょ? あたしの針も届かないわけだけど」

「あぁ、トドメは俺が刺す。ハクリリちゃんはサポートを頼むぜ。すぐに終わらせるぞ、『冥土竜蹄(ゼミフォビアーム)』!」


 セパの魔法はストライクとの戦いで見たことがある。あれは確か土の爪だ。

 竜巻で相手の視界を奪った状態を保ちながら接近し、最後は死角から襲撃するつもりだ。


「『地鳴鶯針(ホロニードフォン)』!」

「……!?」

「『地鳴鶯針(ホロニードフォン)』! 『地鳴鶯針(ホロニードフォン)』! これくらいかな」


 ハクリリの声が聞こえたが、何をしているのかは全く見えない。

 ただ、彼女が魔法を唱える度に泥の弾け飛ぶ音が鳴るのは分かった。

 ……要するにセパの足音は掻き消されたということだ。


「さぁ、どうする? セパはどっちの方向からやって来るのか、当てずっぽうで運試しでもしてみる? 四方向、いやもっと細かく八方向かな。良かったね、そんな絶望するような確率じゃないよ」


 当てずっぽう……か。

 セパは爪の攻撃を確実に当てるべく、最後は竜巻を解除する。その一瞬であれば私の魔法はセパに届く。

 なるほど、確かに運試しだ。


「チャンスは一度きりだよ。もし方向を見誤っ──」

「『氷塊(アイスロック)』!!」

「ぶぐえぇっ!!」

「──たらその時点で……負け……」


 竜巻は消えた。


「…………え? セパ?」


 私は氷塊を頭上に放ち、すぐに槍へ変えた。

 ほとんど同時にセパの絶叫が響き渡った。

 そして竜巻が消えた。それはハクリリが喋り終える前、セパが絶叫を上げた後のタイミングだった。


「ふぅ、ようやく目が見えてきた」

「せ、セパ……? え?」

「もう意識は無い。だから竜巻が解除された」


 セパの体は氷の槍で貫かれ、私のすぐそばに転がっていた。

 私はそれを確認してから魔力の放出を停止する。槍が消失し、ドクドクと赤い液体が流れ出す。

 ついでに私の足を覆っていた“重し”も無くなった。

 ……残りは混乱するもう一人の女だけだ。


「会話の最中に奇襲、それも竜巻を飛び越えて上からなんて。そんなくだらないこと考えてるから砂を噛むことになるのよ」


 何だったか。えっと、専門用語で……そう、ミスリードだ。

 あたかもセパが地上にいるかのように……さらにハクリリが喋り終えるまでセパが攻撃しないかのように、そんな雰囲気を演出していたけど全てミスリードだった。


「ど、どうして!? どうして分かったの!? 視界は封じたはずなのに!」

「…………」


 最初から分かっていた。

 その鍵を握っていたのは私が最初に放った氷塊。

 彼らに自分がラキュアだということを示し、宣戦布告のように見せたそれは、空の上で『サウナ・クラーター』によって溶け、水へと変わっていた。

 セパたちの視界の外で生まれた水は、雨に紛れて彼らの上空へと降り注ぐ。一滴でもコートの隙間から入り、服に染み込めば私にはその場所が分かる。

 いくら私の視界を封じたところで無駄なこと。セパは常に捕捉されていたのだ。

 ……で、それを簡単にまとめるとこうなる。


「さぁ? 運が良かっただけでしょ」


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