第78話 真相①
「……で、いいのよね? 二人とも話してくれるってことで。別にあたしは気にしないよ? 話さない方が良いならそのままでも」
「スーちゃん……」
あたしの確認にエフィはやや顔を俯かせながら答える。
「エフィはスーちゃんを信頼していますし、これからも友達でいたいと思ってるんですの。大事なことをひた隠しにしてスーちゃんを怖い目に合わせておきながら、何も言わないなんて耐えられないんですの。これはエフィなりの贖罪ですのよ……!」
「そんな気負わないで。あたしは罪の告白を聞くつもりはないの。言ったでしょ、これは答え合わせだって。あたしも大半のことには気づいているつもり。お互いに聞きたいことを聞けばいいのよ、簡単なお喋りのつもりでね。もちろんあたしに聞いてもらっても構わないよ」
「じゃあ、スティープル。君は何が知りたいのー?」
「ストライク・バックの正体に、あなたはどういう風に気づいたか?」
答え合わせとは言ったが、それは雰囲気を作るために言っただけであって、実際にあたしが知りたいのは過程の方だ。
真犯人ストライク・バックという答えそのものには、この場にいる三人共が既にたどり着いている。
そのことを改まって確認し合うつもりはなかった。
「そうだなー、やっぱりきっかけはあの時かな。ラキュアが襲われた時」
シザースが言うのは、あたしたちが親族三人をリビングに残し、長老の部屋に捜査へ向かった後の出来事。
ラキュアが何者かに襲われて重傷を負い、それをエフィがプレーン能力で治療した。
あたしはすっかり冷静さを欠いていたのを覚えている。
「単純な話だよ。ラキュアはどうして自分の部屋に行ったの? それも一人で、僕らの誰にも気づかれないようにさー」
「あたしは襲われて連れ去られたからだと思ったけど、違うって思ったの?」
「それならラキュアはもっと早く悲鳴を上げたはずだよ。実際に悲鳴を上げたのは姿が見えなくなった後だった」
「……言われてみればそうね」
「まぁ、普通はそんな状況であれこれ考えを巡らせるよりも、いち早く助けに向かったスティープルの方が正しいと思うよー」
「それはどうも……」
「でもチョッくん、不自然かもしれないですけど、それだけで疑うのはあんまりですのよ。ラキュアさん……ニカワちゃんがどこかに行ったのを見て追いかけただけかもしれないんですの」
反論……というよりは単純な疑問といった雰囲気でエフィが言う。
実際、ラキュアはニカワをとても大事にしていたし、ニカワのことは自分一人で何とかしようとする節を見せていた。暴風雨の中でニカワを捜していたというエピソードがいい例だ。
するとシザースは、もちろんそれだけではないと答えた。
「ラキュアの部屋のガラス。割れてたよね? スティープルはあのガラスを見てどう思った?」
「そりゃあ、あの時はラキュアを狙う襲撃犯が部屋に押し入ろうとして割ったものだと思ったわよ。それ以外の可能性なんて考えもしなかったわ。ガラスの割れ方とか飛び散り方とか、細かい部分は全然覚えてないもの」
「エフィも全然覚えてないですの……」
「じゃあ、スティープルの怪我の方は?」
「怪我? あぁ、確かガラスで手を怪我して、エフィに治してもらったんだっけ」
その時にエフィの『ピックニック・パッド』を初めて見たんだったな。
「そう。怪我をした人と、それを治療した人。この二人ならどんな怪我だったのか覚えてるんじゃないかなー?」
「えぇ、それくらいなら」
覚えている。両方の手のひらにガラスの破片が刺さっていた。
エフィがそれを包帯で包みながら、『体内に入った異物も問題なく治せる』と言ったのも含めてだ。
「その怪我が根拠になるんだよ。あのガラスが割られたのは外側からじゃない、内側からなんだ。無論、襲撃者じゃない方の手によってね」
「っ!? ど、どういうことよ!?」
「考えてみてよ。手のひらにガラスの破片が刺さっていたってことは、破片の上に手を突いたとか、破片の付いた物を握りしめたってことになるんだよ」
「あ……!」
割れたガラスに触って切れただけなら手のひらに破片は残らないし、指先とか手の甲とかにも怪我をするはずだ。
今シザースが言ったような状況でないと、手のひらだけに怪我をすることはできない。
「……そういうことね。あの時、あたしは割れた窓を通ってバルコニーに出た。そして握りしめたのよ……手すりを! それ以外にあたしが怪我を負えるタイミングは無かった!」
つまりガラスの破片は偶然にも、手すりの上に乗っかっていた。
それこそが内側から割られたという主張を裏付ける根拠なのだ。
無論、それをやったのは一人しかいない。
「というわけで、僕はスティープルが怪我を治してもらっているのを見ながら、これわざとだなって思っていたわけ。襲撃者なんかいなかったんだって。でも、あの時は行く末を見守るしかできなかったよ。すぐにペッグが来てリビングの遺体を見に行くことになったし、一旦落ち着いて整理しようなんて状況じゃなかったからねー」
「そうね、あの時が一番バタバタしていたから……」
「結局、まとまった時間が取れたのはスティープルが閉じ込められた後だった。そこで僕はようやくこの事件を一から思い返すことができたんだ」
「そして……答えにたどり着いた?」
「そう。魔法『氷塊』とプレーン能力『サウナ・クラーター』。二つのチカラを持つラキュアなら一連の事件を起こすことができる。僕は確信したよ」
あたしの言葉にシザースは強く頷いた。
「シザースはシェイクとの戦い以前に気づいてたの? その、ラキュアのプレーン能力のこと」
「氷を変形させたのは半魚兵団との戦いで見ていたからねー。長老の部屋で見つけた本に『氷塊』のことは書いてあったし、何かしらの能力が別にあるとは思っていたよ。そこでふと長老の遺体のことを思い出したんだ」
「あ! そういえば傷口が焦げてたって言ってなかった!? 義賊ストライクの、炎をまとった武器を彷彿とさせるって……」
「そういうことだねー」
氷と熱。シザースは昨日の時点で当たりをつけていたのか。
「そこからのチョッくんのことならエフィも知っているんですの。ペッグさんを気絶させて自由になったその身で館内を駆け回り、自分の出した答えが正しいことを確かめて回ったんですのよね?」
「それとエフィを説得して味方につけるための材料集めだね」
「いつ気づいたんですの? その……エフィが共犯者だって」
「うーん、難しい質問だな。ラキュア一人でも犯行は可能だろうけど、共犯者がいた方が楽になる思ったんだ。それで距離感とか仲の良さで考えたらエフィかなって」
「か、確証は無かったって言うんですの!?」
「あはは、別に共犯じゃなくても結果は一緒だよ。エフィなら真相を知ればラキュアを守りたいって思うだろうしねー」
「むぅ、納得いかないですの……」
エフィが不満げに口を尖らせる。
「これで僕への質問の答えにはなったかな?」
「えぇ、よく分かったわ、あなたがどれだけあたしを上回ったのかって。あたしの負けよ、シザース」
「勝ち負けじゃないと思うけどなー。さっきも言ったけど、スティープルはラキュアを助けるためにいち早く行動したんだよ? それって立派なことだと思うよ?」
「“行動した”という意味ではね。でもね、それと“冷静に考えた”っていうシザースの振る舞いは共存できるものだと思うの。仮にあたしが行動しなかったら、あなたが代わりに行動したはずよ……“冷静に考えた”うえでね」
あたしは速かった……ただそれだけだった。
速さ比べに勝っただけの暴走する駄馬。
それがあの時のあたしだった。
「もっと冷静にならないといけないな。シェイクと戦っていた時もそう。ラキュアが時間を稼いでくれなかったら危ないところだった」
「誰もスーちゃんを責めてはいないんですの。最終的にスーちゃんはシェイクに立ち向かって、打ち倒したじゃないですの」
「そうだよ、スティープル。もっと誇らしげにしていいんだよー。失敗っていうなら僕にだってあるんだしさー!」
「あぁ、呼び寄せた魔物が思ったより強かったって話でしょう?」
「そうそう。本当ならサクッと『デュアル・ブレ―ド』の錆にして、犯人として振舞うよう命令するはずだったのにねー」
なるほど、当初は嘘の自白でもさせて真実を捻じ曲げるつもりだったのか。
相変わらず血も涙も無い作戦を思いつく奴。
「僕が不甲斐ないせいで死にかけたんだよ、ニカワもラキュアも……スティープルもね。エフィがいてくれなかったら死屍累々だった」
「もうちょっと無難なレベルの魔物はいなかったの?」
「僕もそう思ったんだけど、シェイクのいた位置が島に近かったせいで逃がしてもらえなかったんだ。昨日、倒した半魚兵団あたりから僕らの情報を聞きつけて嗅ぎまわってたのかもしれないねー」
「その可能性はありそうね」
魔物たちへの仕打ちが巡り巡って返ってきたとしたら……因果応報?
いや、先に襲ってきたのは魔物の方だった。あたしたちに非はないな、よし。
「あの、ちょっといいですの?」
シザースの話が一段落したところでエフィが手を挙げる。
「どうしたの?」
「これが答え合わせの場ってことなら、エフィの方からも二人に聞きたいことがあるんですの。なんたってエフィは共犯者で、つまり問題を出す側の立場ですし、さっきのチョッくんの話を聞く限り、二人が本当に答えを出せているか怪しいんですの」
「あはは、名探偵じゃないんだし、そんな一から十まで理詰めで解くようなことできないよー」
「ちなみにエフィは全ての答えを知ってるの?」
「え? いや細かい所までは……! べ、別に関係ないんですの! エフィを納得させられたら正解ですのよ!」
……なんだか妙な雰囲気になってきたな。
「じゃあ早速、行くんですの! お爺さんと親族三人の命をラキュアさんはどうやって奪ったか、答えてみるんですの!」




