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失声のスティープル  作者: 青山風音
第3章 真髄~Evolve Essence~
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第76話 シザースの真意

 シザースがエフィと共にニカワの散策を試みていたのは知っていた。

 あたしとラキュアが船上で体を休めることになった後、彼らが何をしようとしているのか教えてもらっていたためだ。

 シザースは言った。シェイクならニカワを襲った場所を知っている。その死体に『デュアル・ブレード』で命令し、案内させてみる。

 ……てっきり亡骸を抱いて戻ってくるのだとばかり思っていた。


「感動の再会ですのね。間に合ってよかったんですの」

「スティープル、ただいまー」

「エフィ、それに……」

「シザースはもう用が済んだからって引っ込んだよー」


 チョキだった。

 瞳の青い彼の姿を見るのは随分と久しぶりに思えた。


「ニカワ、生きていたんだ……」

「うん。駄目で元々だったけどエフィが一緒で良かったよー」


 シェイクの死体に導かれた彼らは、物陰でうずくまっているニカワを発見した。

 前脚を失う重傷を負っていたものの辛うじて息はあったので、エフィが治してここまで連れてきたという。


「ニカワぁぁぁ……ニカワぁぁぁぁぁぁっ!!」

「キュウン」


 ラキュア……本当に良かった。

 彼女の傷は深かった。

 遺体が見つからないことを嘆きはしたが、見つかったところで励ましにもならない。むしろ見つからない方が良いのではないかとすら思えた。

 それほどにニカワとの死別は、彼女の人生に大きな悪影響をもたらすものだった。

 それが今、ようやく彼女は救われたのだ。


「……ここでラキュアに寄り添うのは無粋よね」

「そうかな、別にスティープルを邪険にしたりはしないと思うけど」

「ラキュアはね。でも、ほら。見てよあの嬉しそうなニカワを。昨日はギャンギャン吠えまくって主人を狼狽えさせてたっていうのに、いつのまにかあんなに懐いてるじゃない」

「あはは、そういえばそうだねー」

「これでニカワに嫌われてるのはあたしだけになっちゃったってわけよ、あーあ。別に気にしてないけどね」

「本当はどうなの?」

「なんであたしばっかり……ちょっと!? 何を言わせてんのよ馬鹿!」

「あはは、ごめんごめん」


 こいつわざとやりやがった!

 あたしの目はごまかせないからな!


「ごめんってばー! お詫びにとっておきの秘密を教えてあげるからさー」

「何がお詫びよ! どうせ自分が教えたいだけでしょ!?」

「あ、バレてる。まぁまぁ聞いて。えっとね、これはシザースから教えてもらったことなんだけどー」


 チョキはニコニコと笑みを浮かべながら話し出す。

 あたしは知っている。とっておきの秘密なんて呼ばれるものは大抵がちっぽけでくだらなくて、知らなくても人生を楽しく生きていけるようなどうでもいいものだということを。


「ベッドの下から人影が出てくる」

「……はい?」

「その人影は部屋を出て、真っ暗な廊下を歩いていく」

「ちょっと待って、何の話?」

「そして別の部屋に入る。入れてもらったんだ。中にはメイドさんがいた。それとベッドで眠っているラキュアと、その傍で座り込んでいるニカワ」


 秘密と前置きした割には随分と説明的な口調でチョキが話し続ける。


「入ってきた人影はラキュアの方へ近づいていく。メイドは何も言わずにそれを見つめている。ニカワが人影に気づき、顔を向けた辺りで雷が鳴る。稲光が部屋を照らし、部屋の壁に──」


 それはあたしが閉じ込められていた時の出来事だった。




>>>>>>>>>>




 稲光が部屋を照らし、部屋の壁に描いたのは、切り離されたニカワの頭部だった。


「静かに。ラキュアが起きちゃうよ。吠えるな……命令だ」


 その人影、つまりシザースは人差し指を唇に当てながら穏やかな顔で言った。

 すぐにニカワが機敏な動きで身を起こし、警戒のポーズを取る。


「大丈夫、『デュエル・ブレード』に命を奪う能力はないよ。ラキュアに危害を加えるつもりはない。ついてこい」

「ウウウ……」


 唸りながらも命令に従うニカワと共に、シザースは隣の部屋へと向かう。

 そこにはシーツでグルグル巻きにされたペッグと、それを混乱した様子で見守るエフィの姿があった。


「どこに行っていたんですの!? エフィがお手洗いに行った隙にペッグさんを気絶させて拘束するなんて……!」

「ごめんごめん。ほら、ニカワを落ち着かせてあげてよ、僕はもう懐いてもらえないからさー」

「チョッくん……!」


 シザースの凶行にも等しい行いを知らないエフィは、怪訝な顔でニカワをそっと抱きしめる。

 彼女の目つきがやや厳しくなった。


「スーちゃんが犯人扱いされているんですの。その相方が怪しい素振りを見せていて、そんな状況でチョッくんは自分を信用してもらえるとでも思ってるんですの?」

「もちろんそうなるように説得するつもりだよ」

「なら、ちゃんと説明するんですの!」

「分かってる」


 シザースは姿勢を正して真剣な眼差しをエフィに向ける。


「ニカワの力で真犯人を探し出すんだ。もちろん探すだけじゃ駄目。これ以上、事件を起こせない状態になってもらう」

「え……!」

「この話を探偵さんに聞かせたら反対されると思う。だから拘束した。どうかな、エフィ? 危険かもしれないけど、スティープルの無実を証明してラキュアの脅威も取り除く。もちろん君の護衛も成功させるよ。失われるのは探偵さんのプライドだけだ」




>>>>>>>>>>




「それで話がまとまったの?」

「そういうことだねー」

「よくエフィも協力したなぁ……」


 チョキの話を聞いてあたしは素直にそう思った。

 ニカワへの命令はこうだ。一つ、魔力を探知して犯人を探し出せ。二つ、その犯人を自分たちの前に現れるよう誘導しろ。三つ、ラキュアのために全力で生き残れ。

 確かに言葉の通じないニカワ相手に頼み事は難しい。

 とはいえ、一つボタンを掛け違えれば死んでしまうほどの危険な目に合わせているわけで……でも助けてもらったという立場上、何とも言い難いな。


「それだけスティープルとラキュアを助けたかったってことだよー。きっとニカワも納得してるよ、大好きなラキュアのためだもん」

「納得ねぇ……ニカワはあなたのこと大嫌いになったわけでしょ?」

「うん、これっぽっちも懐いてくれなくなった。スティープルとおそろいだよー」

「何の慰めにもなってないよ、そんなの……」


 当のシザースに申し訳なさは微塵も無いだろうし、チョキからすれば身に覚えのない他人事だし。

 寝首を掻かれないように願うばかりだ。


「……ところでチョキ。あたし、シザースに頼み事をしていたんだけれど分かる?」

「僕らがニカワの散策に向かうときのことだよね」

「えぇ、どうだった?」


 シザースが説明してくれたニカワを捜索する方法。つまりシェイクの死体に案内させる方法を聞いたとき、あたしは“ついでに”別のものを案内させてみるよう頼んでいた。

 ──はたしてシェイクはこの島で誰と出会ったのか?


「結論から言うと他には誰もいなかった。シェイクの死体が案内したのは長老とその親族三人、土礫精の執事とメイド。それだけだったよー」

「……そう、ありがとう」


 それだけか。あたしの脳裏に浮かぶ、あの人物はいなかったのか。


「ストライク・バック……」

「うん?」

「あたしたちはそいつを犯人と呼んできたけど、シェイクは本当に犯人だったのかしら」


 遺体を食い散らかし、意味もなく相手を三枚おろしにしようとする残虐性。

 あたしの目の当たりにしたシェイクの道徳観念は人間のそれとは大きくかけ離れていた。

 だからこそ思うのだ。そんな魔物がミステリーじみた連続殺人を起こそうとするのだろうか。

 遺体の横に脅迫状を置き、姿を見せることなく一人ずつ襲っていくなんて、そんな恐怖を煽る演出を思いつくほどシェイクは人間の感覚を理解していたのだろうか。


「何を今更って話よね、もうシェイクに教えてもらうことはできないのに……」


 自虐的に笑う。

 その機会を逃したのはあたし自身だ。

 ニカワの場所を聞き出そうとしたなんて嘘。あたしが本当に知りたかったのはシェイクだけの真実だった。


「スティープル、疲れがたまってるんだよ。まだエフィの護衛は終わってないんだし、今のうちにもっと休んでおいた方がいいよ。……よいしょっと」

「……? チョキ、それは?」

「ちょっとしたお土産」


 チョキが袋に入った何やら細長い物を船に運び込む。

 一体、何が入っているのやら。

 気にはなったものの、今のあたしに“知りたい”と思わせるには至らなかった。




>>>>>>>>>>




「チョッくんの探したい犯人の可能性は、もうペッグさんが否定しているんですの。それでスーちゃんが犯人だってことに。ニカワちゃんがいくら頑張っても、いない人を捜すなんてことは無理じゃないんですの?」

「いいかい、エフィ。確かに探偵さんは外部犯の可能性を否定した。僕はそれを認めないってわけじゃないんだ。認めたうえで否定してやるつもりなんだよ」

「どういうことですの……?」


 何のことやら分からないエフィに対し、シザースは宣告する。


「真実を捻じ曲げる。ニカワが探し出した魔物を外部犯に仕立て上げるんだよ。」

「っ!?」

「夜が明けたら僕とニカワで海に出る。『デュアル・ブレード』で命令して、その辺の木を船みたいに動かすんだ。ニカワなら海の底にいる魔力も探知できるからね。焚きつけて島に誘導してくるよ」

「そ、そんな無茶苦茶な! あまりに危険すぎるんですの! それでニカワちゃんが死んでしまったりでもしたら──!」

「聞いて、エフィ」


 シザースはそっとエフィの耳元に顔を近づけ、そして囁く。


「言ったよね? 僕は()()()()()()否定するって。つまり今回の事件、犯人は“外部犯じゃない”って確信しているんだよ」

「え……」

「スティープルを守るだけなら今すぐ真実を暴露するだけでいい。でも、それだと守れない人が出てくる。スティープルだってそんな結末は望んじゃいない」

「……チョッくん」


 エフィは覚悟を決めた表情でシザースを見つめて言う。


「どうやらエフィに選択肢は無いようですのね。スーちゃんには教えたんですの? エフィが()()()()()()()……」

「まさか。教えたら勝手に喋っちゃうでしょ? でもまぁ、そのうち教えないといけないとは思ってるよ。もしかしたら自分から気づくかもねー」


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