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失声のスティープル  作者: 青山風音
第3章 真髄~Evolve Essence~
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第74話 隙間

 『最初に思いついた作戦よりも後の方が良かった』だったかな。

 この島に来る前、ミリーから言われた言葉だ。

 まったくその通りだった。

 ラキュアが左腕を失い、大量の出血を伴っているあの状況を目の当たりにして、あたしの頭はパニックに陥っていた。

 そんな状況で導き出した二択が最良のはずがなかった。


「ラキュアのおかげよ」


 彼女はあたしを守るつもりでシェイクを足止めしたのだろうが、実際はそれ以上にあたしの頭を落ち着かせてくれていた。

 今なら、もっと良い方法がある。


「魔力を出し続けてきたのはラキュアだけじゃない。シェイク、あんたもそうよね?」

「なに……!?」

「その鎧は魔法で作り出した鎧よ。当然、着続けるには魔力を消費する。しかもあんたはその状態でさらに別の魔法を唱えたでしょう?」


 腕を鋭利に尖らせる魔法。

 凶暴な魚バジャックを繰り出す魔法。

 鎧の一部を射出する魔法。

 さらに土礫精と戦った時も何かしら使っているはずだ。


「どんなに丈夫な鎧だろうと魔力切れを起こせば維持できない! その瞬間、あんたは雑魚に変わるのよ! さっきあの部屋であたしにしてやられた時と同じ、ただの雑魚にね!」


 挑発的な言葉を繰り返し、あたしは走る。

 シェイクの鎧に潜む“隙間”を突けるのは今しかない。


「ス、スティープル嬢! 待つのです!」

「探偵さん、静かに。スティープルの邪魔しちゃ駄目だよ」

「し、しかし! スティープル嬢の考えは──」

「あまりにも貧しい考えだな! シギャハハハ!」


 ペッグが何かを危惧し、ほぼ同時にシェイクが嘲笑う。


「答え合わせしてやろうか。バジャック、あのガキの体に刻み付けてやれ!」


 二匹のバジャックが跳ねながら真っすぐにあたしを睨みつけ、そして地面に潜る。

 この余裕は……!


「消えないってこと!?」

「そうですぞ、スティープル嬢! 魔物と人間の魔力では生まれ持った量が違うのです! 魔力とは魔物に宿るエネルギー! ただ生きているだけでも、いえ死骸と化しても体から溢れるほどに、魔物の魔力というものは潤沢なのです!」

「あ……!」


 言われてみれば、船の上でニカワは海中にいる半魚を察知して吠えていた。

 じゃあ、ラキュアと同じペースでシェイクの魔力が底を付きるなんてことは……!


「もちろん体力切れで魔力を魔法に変えられないこともある。だが魔力切れなんて発想は俺たち魔物にはない。薄汚れた雑巾みたいな知能しか持たない人間だけの発想だ。それに俺様はただの魔物じゃない、賢主(シェイク)なんだぜ! 片腕無しの人間如き、足元にも及ぶかぁっ!!」

「早く戻るのです、スティープル嬢! やはり最初から逃げるべきだった!」

「シギャハハハ! 期待が外れたな! また俺様をナメやがって! この代償は高くつくぜ!」

「スーちゃん、早くこっちに! 『ピックニック・パッド』で引っ張るんですの!」


 否定はしない。確かに期待は外れていた。

 このまま死んだらあたしはただの馬鹿だな。


「いいえ、エフィじゃない。あなたがいい」

「え……」

「あたしを“引っ張る”のはあなたよ、シザース」

「了解」


 広げた右手を頭の上に掲げてシザースの方へ向ける。

 そこに向かって直線状に、泥の光線が飛び込んでくる。


「『デュアル・ブレード』、さっき君に言われた通りに命令してあるよー。何をする気か知らないけど、これで君の期待には応えたつもり」

「えぇ、期待通りよ」


 シザースには既に指示をしてある。

 泥をあたしの手のひらに飛び込ませるよう命令させた。

 時間が無かったのでその狙いまでは伝えられていないが、少なくとも彼は気づいていただろう。あたしが本気で魔力切れに期待はしていないことを。

 ……もちろん魔力が切れるに越したことはないので、ほんのちょびっとの期待ではあるが外れたのは事実。


「そして命令はもう一つ。これも期待通り」


 あたしの手のひらに飛び込んだ後は周囲に飛び散ること。

 一方向にではなく全方向に、偏らないように。


「何だ? 打つ手が無くなって自棄になったか?」

「いいえ、あたしは冷静よ」

「あ……!?」


 あたしの包み隠さない態度が不気味に映ったところで、シェイクは攻撃を躊躇したりはしない。

 ここまで見せてきた挑発的な物言いも、自信満々に魔力切れを頼みの綱にする浅はかな態度も、全てはこのあたしをバジャックで攻撃させるためなのだから。


「これで充分。シザース、ストップ」

「うん」


 断続的に飛び続けていた泥の光線が止まる。

 これで仕込みは完了。


「いくよ! 『ファングド・ファスナー』、泥の中に大量の口を作る!」

「はっ! 俺の指をズタズタにしやがったあの忌々しい能力か! だがあの程度なら結局はガキの悪あがき! 止められるもんなら止めてみやがれ!」

「ふん、何を偉そうに。分かってるよ、止められる()()()()()


 生成した口に噛みつかせるのはあたしの意思だ。地中の見えない部分でタイミングを計るのは難しい。

 そして何より、バジャックに噛みつけたところで所詮は泥だ。

 その場に食い止めるには重量が必要。泥ではあまりにも軽すぎる。


「役割が違う。この口たちは食い止めはしない」


 噛みつかせる……以前の問題だ。

 あたしの意思は口を生成する瞬間から介入している。

 『ファングド・ファスナー』を仕込んだとき、そこにはあたしの心と同調している思念のエネルギーようなものが残される。

 あたしが心の中で意志を持てば、そのエネルギーが応えて口が生成され、噛みついたり本音で喋ってくれたりするような感覚。

 ──要するに、あたしには分かるのだ……能力で生成した口が“どこにあるのか”!


「泥の中を掘り進めば当然、そこに生成された口の位置はズレる」


 一匹はあたしの背中からもう一匹は右足の外方向。狙いは首の後ろと喉元。

 全て把握した。スピードも角度も距離も。


「位置で“視る”! ここだ『ファングド・ファスナー』! 食い止めるのはあたしの腕だ!」


 タイミングを完全に見極めたのであれば、バジャックたちのスピードはそれほどの脅威ではない。

 無防備に飛び込んできた彼らの背びれから尾びれにかけて腕を這わせ、そこに生成した複数の口でガッチリと噛み締める。


「捕まえた。この角度で固定されれば噛みつけないよ」

「こ、このガキ……俺のバジャックを……!」

「この魚って随分と軽いのね。機動力を重視したってことからしら。それとも、取り外す鎧の面積を少なくしたかったとか?」

「え……」


 あたしはシェイクの露出した両足を指さしながら言う。


「その足、バジャックを操っている限りは鎧で覆えないんでしょう? それにラキュアに鎧の一部を飛ばして攻撃したときは、飛ばした鎧が戻っていった。あなたの魔法に鎧の一部だけを作り直すって機能は無いと思っていいわけね?」

「げげっ! バレた!」

「ふふ、意外と素直」

「うるせぇ黙れ! バレたから何だっていうんだ! 魔法を解除すればバジャックは鎧に戻る! 俺の足を覆う鎧にな!」

「む、腕が……!」


 あたしの腕……というよりバジャックが引っ張られている。

 さすがにあたしの体重では元に戻る力を抑えつけられはしないか。

 腕に生成した口を開く。解放されたバジャックの姿は白い物体に戻り、シェイクの足を包みこんで再び鎧を形作った。


「こうなったらお前はもう無力だ! お前にできるのは俺の顔を狙うことだけだ!」

「確かに隙間は無くなった。それにすっかり臆病者になったあんたは、二度と自分から隙間を作りはしないでしょう?」

「あぁ、作らないぜ! お前のようなクソガキの挑発に乗ってやると思うか!? それで死んだら汚名は臆病者なんてレベルじゃなくなるだろうが!」

「別に挑発じゃない。そんなことしなくたって隙間は作れるんだから」

「なに……!?」


 ナイフを抜き、シェイクの方へと走り出す。

 もう奴には鎧を外す勇気は無い。バジャックを出したり、鎧の一部を飛ばしたりはせず、近接戦闘に持ち込むつもりだ。


「うーん、いつだろう?」


 シザースが緊迫感の無い声で言う。

 エフィも思わずそれにつられた。


「チョッくん? 何がですの?」

「スティープルはニ階から落ちてきて、それ以降はシェイクに近づいていない。いつだろう?」

「だから何がですの?」

「さっきからシェイクが素直に答えてると思わない? 僕の気のせいじゃなかったら、いつ()()()()のかなー?」


 さぁ、いつでしょうか?

 答え合わせはこのあとすぐ。


「っ!! うげっ! げぇっ! えげああああああああああああァァァァァーッ!!」

「なっ!? なんですの!?」


 シェイクが絶叫を上げて倒れ込み、両足をばたつかせながら地面の上を転がり回る。

 あまりにも突然の豹変。

 子供が駄々をこねるような体勢でなおも絶叫を上げ続けるシェイクは、傍から見れば気が狂ったとしか思えない。


「ああがああァァァーッ!! ギザ、ギザマ! 俺の足ぃぃああああァァァーッ!!」

「あ、足ですの? 何もおかしなところは無いように思えるんですけど」

「そうか! スティープル嬢は足に仕込んでいたのです!」


 ペッグが一つの回答を導き出す。


「両腕で魚を捕らえた時、あの時にプレーン能力を! そして魚が鎧に戻り、シェイクの足を覆った瞬間に発動した!」

「じゃあシェイクの足は……」

「一見すると何も起きてはいませんが、鎧の内側は口でびっしりのはずです。体重も支えられないほどに、おそらくは足首から先を全て食い尽くすような勢いで……!」

「ひえっ! 聞いているだけで痛いんですの!」

「チョキ殿が気にしていたことにも答えが出ましたな。シェイクの足に仕込んだ口が、その心境を吐露していたのです」

「……そうなのかなー?」

「さぁ、スティープル嬢! そなたの手で決めるのです!」


 言われるまでもない。

 今の両足への攻撃でシェイクは完全にパニック状態。


「ひいっ! やめっ──」


 唯一の弱点である顔を両腕で必死に庇うシェイク。

 そんなことしたら何も見えないだろうに。


「『ファングド・ファスナー……


 尤も、そんなことしなくても見えないだろうけどな。

 あんたの鎧に空いている“隙間”は。


 ……ディープ・ヴァイブス』」


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