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失声のスティープル  作者: 青山風音
第3章 真髄~Evolve Essence~
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第62話 真の最年少

 驚いた。あたしはただただ純粋に驚いた。

 この衝撃的な告白を、それこそ演劇の中の出来事みたいに真っ直ぐに受け止めることができた。

 なぜならあたしは部外者だから。

 死んだはずの少女が生きていた、という展開を素直に捉えられる立場にいたから。

 だが、彼らにとっては違う。

 葬ったはずの少女が生きていた。

 見殺しにしたはずの少女が生きていた。

 そんな状況を目の前にして彼らは一体どんな胸中なのだろうか。あたしにはとてもじゃないが想像できない。


「そいつが生きていたから何だ! それで私を罪に問えるとでも思っているのか!? ならば何度だって主張してやる! 私がシエラたちを死に追いやった証拠は何一つとして存在しないのだ! お前が今更何を宣おうと何の根拠にもならん!!」

「ペッグゥゥゥー! さも自分が見てきたかのように偉そうに語りやがって! 俺はシエラの死に様はきっちり見た、その現場もだ! てめぇに何が分かる!? あの惨状を見たことがねぇてめぇに何が分かるゥゥゥー!?」

「ウルシアを名乗るだけなら誰でもできるざます! この偽物め! あぁ汚らわしい! 遺産目当ての貧乏人ふぜいがグルーの敷居を跨いでくるなんて!」


 本音だった。一切の取り繕いも無い、鋭利な言葉の刃が次々と放たれていく。

 もっとも彼らの言葉は全て冷静さを欠いた、(なまく)らの刃ではあるが。

 ペッグとしても彼らの反応は予想できていたようで、頃合いを見計らって淡々と続きを話し始めるだけだった。


「事が動き出したのは二年前。自分の死期を悟った長老が、ギルド・カートリッジに依頼を出した所から始まります。依頼内容は二つ。まず一つは延命治療です」


 ペッグの言葉にエフィがこくりと頷く。

 彼女はそのためにギルド・カートリッジから派遣され、長老の命を繋ぎ続けてきた。


「そしてもう一つは彼女、ウルシア・グルー嬢の捜索。そちらは私が請け負いました。ちょうど遺産相続に弁護士も必要だったのでね」


 そこには長老の恐ろしい執念があった。

 存命の親族三人を早々に見限っていた彼は、生死不明のまま四年が経過したウルシアに遺産を相続させようと目論んだのだ。


「でも、ウルシアが見つかったら良かったけど……もし見つからなかったら? というより、もし生きていなかったらどうする気だったの?」

「スティープル嬢、この名探偵ペッグに限って見つからないなど! ……まぁ、亡くなっている可能性は十分にありましたね。その場合はそれらしい少女を適当に見繕うつもりだったようですが」

「影武者か……」


 船の上でラキュアが似たようなことを言っていたな。

 実際には養子よりももっと悪どい手段を選ぼうとしていたわけか。


「そういうわけでして、長老が彼女をウルシア・グルー嬢として認める手続きは既に完了しております。皆様がいくら彼女を偽物と糾弾されようと、遺言者が認めた以上は真偽を論じる必要性はありません。実際にはれっきとした本物ですがね」

「当たり前よ……私は本物のウルシアなのよ!」

「エフィも立ち会ったから分かるんですのよ。あの生々しい傷跡をエフィが何とかできれば良かったんですけれど、お爺さんは整形を……」

「エフィ! 余計なことを言わないで!」

「っ……!」

「スティープルは私のこの姿しか見てないのに、そんなこと言って嫌われちゃったら……嫌われちゃったらあああああああっ!!」

「ご、ご、ごめんなさいですの! ちょっと口が滑ったんですの!」


 整形……顔を変えたというよりは、傷跡を消したのか。いや、顔どころかもっと広範囲なのかもしれない。

 もしかしてニカワが懐かないのは、別人と思われているから?

 だとしたら、そんなのあまりにも悲しすぎる。


「大丈夫よ、ラキュア。あたしは見た目より中身で人を見るから」

「……本当?」

「えぇ、あたしはそういう人間だと思うの。シザースの影響を受けているからね」

「え、僕? 酷いなぁ、単純にスティープルの生まれつき持った長所ってことでいいじゃん」

「シザースってチョッくんのことですの?」

「そう、僕がシザースだよ。エフィにはまだ言ってなかったねー」


 そう、大事なのは中身の方。

 人間の心は、一番の思いは見た目には宿らない。

 あたしはそう思う。




「コホン、話を続けて良いですかな?」


 ペッグが軽く咳ばらいをした。


「えっと、何の話だったかしら? そもそもどうして遺言状の話になったんだっけ?」

「元は動機の話だよー」

「その通り。動機を持つ人物を明らかにするべく、私は遺言状を持ち出した。そしてラキュアがウルシア嬢である、と披露したことで私たちは大きく前進することになるのです」


 ペッグが再び芝居じみた口調で部屋の中を歩き回り始める。

 今の流れは本筋のために必要な寄り道だった、と何とも小説らしい言い回しで話しながら、やがて彼の足は一人の前で止まることになった。


「とある人物が長老を殺害することで得られる大きなメリット。ウルシア嬢の存在がそれを明らかにするのです。あなたのことですよ、アドヒース殿」

「っ!? は、はァァァー!?」

「素晴らしい! やはりこいつだったか! ペッグ、詳しく聞かせたまえ!」


 アドヒースが素っ頓狂な大声を出し、クレイブが拳を握りながら身を乗り出す。

 そうだ、当初はアドヒースが遺産を相続して、それを恨んだクレイブが怪しいという流れだった。

 だが、事態はまさかの再逆転となった。

 一体どうして……?


「不思議に思いませんでしたかな? 長老はラキュアをウルシア嬢として認め、土礫精には次の主人と伝えた。この時点で遺産相続は完了している()()()()()()。しかし長老はエフィ嬢の延命治療を受け続け、遺言状の公開を明日にするよう私に指示した。なぜこうも先延ばしにする必要があったのか?」

「なぜって……」

「明日じゃなきゃ駄目なのよ」


 ラキュアが即座に口を開く。

 ペッグの問いかけに解答時間を設けるつもりはないらしい。


「長老の遺言状を覚えてないの? グルーの姓を持つだけじゃ駄目。他に条件があったでしょ?」

「他の条件? ……あっ!」


『グルー家の伝統に従い、遺言者の財産を相続する権利は、遺言者の死亡時に満十五歳を超えるグルー姓のみが有するものとする。』


(ウルシア)の誕生日はあと一時間後の明日なのよ」

「っ!! お、おい待てよ! じゃあ……! ()()最年少ってのは……!」


 全員の視線が集中した。

 アドヒースはよろけ、バランスを取ろうと掴んだテーブルクロスが引き抜かれた。

 ガチャガチャと机の上の物が音を立てて崩れていく。


「そういうことか! 明日が来る前に親父殿を葬れば、お前が遺産を手に入れることになるのだな! 動機にタイミング……しかもお前だけはアリバイが無い!」

「ち、違う! 俺じゃあ……」

「全てが繋がったざます! おまけに貧乏人! もうこいつしかいないざます!」

「俺じゃあねェェェェェーッ!!」


 遠くで雷鳴が光る。だが、それをかき消すほどに強く大きくアドヒースが吠え猛った。

 あたしはとっさにエフィの前へ出る。

 逆上した彼が暴走する、そんな未来は容易に想像できた。

 アドヒース・グルー……長老を殺害して最も得した人物。それどころか彼以外に得をした人物はいない!




「でも、それは名探偵の推理だった場合の話」

「えっ……!?」


 気づくとラキュアがあたしに向かって左手を向けていた。


「いい? スティープル」

「な、なに? こんな時に……」

「ペッグが私の正体を明らかにして、この事件に一つの結論を出した。これでやっと本題に入れる」

「本題……?」

「スティープル、あいつは僕が見てるよ」


 シザースがあたしの前に立ち、アドヒースを警戒する役割を引き継いだ。

 ラキュアの口ぶりは、どうも一言で終わる話ではないようだ。エフィも思い当たる節が無いのか、首を傾けている。


「スティープル、あなたは大事なことを忘れている。ペッグという男は決して名探偵じゃない……私からすれば三流でしかない」

「え? えぇ、まぁ……それはあたしも思ったけど」


 ラキュアはあたしよりもペッグとの付き合いが長い分、そう思う気持ちも強いのだろうな。


「つまり私はペッグの推理を信じていない。あんな奴の出した結論に依存するのは危険すぎる。スティープルも見たはずよ、長老の遺体に添えられた予告状を。」

「……!!」


 確かに忘れていた。

 あくまで遺産相続が動機という前提でアドヒースが絶対的な第一候補になりはしたが、犯行現場の痕跡は何ら考慮されていない。


「私が本当に恐れているのは、スティープルが最初に言った外部からの襲撃。ペッグはそれを否定したけど、犯行現場を改めて調査すればまた違った可能性も浮上するかもしれない。もしアドヒースだけを疑って、その可能性を排除して、それが間違っていたとしたら……! 犯人の狙いはグルーの血を引く者、私も含まれている!」

「そうね、あなたも当事者だった。気が気じゃないでしょうね」


 きっとペッグは、アドヒースが犯人像をごまかすために予告状を置いたと主張するだろう。

 でも、それじゃラキュアは納得してくれない。

 そしてあたしとしても……エフィの護衛として、ラキュアの言う可能性は見過ごすわけにはいかないよな。


「だから私はあなたの所に来た。ペッグよりもあなたを信用したいから……」


 ラキュアが左手の平をあたしへと差し伸べる。


「真実を暴いてほしいの、あなたの能力で!」


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