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失声のスティープル  作者: 青山風音
第3章 真髄~Evolve Essence~
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第54話 エリート?

「おやおや、皆さんお揃いで」


 クレイブとアドヒースの対立が場の雰囲気を険悪な方へと染めていく中、最後の来客がリビングへと現れる。

 既に長老との話を終えたらしいペッグは、脱いだコードを片手に抱えながらチラチラとリビング内を見渡した。


「ラキュアの声が三階まで聞こえてきましたぞ。どうせいつもの奇行だとは思いつつも、こうして足を運んできたわけですが……やはり名探偵の出番というわけではないようですな?」


 あたしたち子供三人が窓を開けて外に出ている程度では、彼の興味を引くほどの異常事態とは呼べないようだ。

 そして彼はクレイブとアドヒースの間を縫うように歩いていく。大胆というよりは空気が読めていないというべきか。

 さすがの兄弟もこの状況では互いに矛を収めざるをえない。

 そうして場の雰囲気が落ち着いた所で、今度は使用人の二人が口を開いた。


「改めまして本日はようこそおいでくださいました」

「皆様のお世話は我々、土礫精が努めます」

「お好きな席におかけください」

「ただいまお茶をお持ちいたします」

「あぁ、ちょっと! お待ちいただきたい」


 ペッグが去ろうとする使用人を引き止める。続いて窓の方へ向けて言った。


「お茶はこの場に残る方々だけで良いでしょう。何人かは直に場所を移すことになりますのでね。例えばエフィ嬢、長老が呼んでいましたぞ」

「お爺さんが? ……はわっ! そういえばそんな時間ですのね!」


 エフィは長老の部屋へ……となれば護衛のあたしたちも一緒に行くことになる。

 ちょうどいい。長老に挨拶した方がいいだろう。


「あいつらの親の顔を拝んでやるんだねー」

「そんな悪趣味な目的じゃないから」

「あぁ、チョキ殿。すまないが君は残ってくれますか?」

「え? 僕?」


 ペッグがチョキを呼び止める。

 はて? チョキだけが引き止められるとは、どういうわけだろうか。


「少し聞きたいことがありましてね。いえチョキ殿ではなくお二方チームに対して。とはいえ護衛を二人とも拘束するわけにはいきませんから……」

「うん、いいよー!」


 チョキは二つ返事で頷いた。

 あたしは嘘がつけないからな。何か話がある場合はチョキが優先的に対応するいうことで決めている。

 そしてどうやら秘密裏の話らしく、彼らはリビングではない別の部屋へ向かうことになった。

 チーム・ツーサイドに対してか。何だろう? 追加でお願いとか面倒そうなことは勘弁してほしいけど。


「だ、だったら……私も長老に挨拶しに行く」


 リビング内をじろりと睨みながらラキュアが言った。

 挨拶が建前ということはすぐに分かった。このままでは自分ひとりだけグルーの一族たちと一緒にリビングで過ごす羽目になるのだから。あたしも同じ立場ならそうする。


「命令を受理しました。ペッグ様とチョキ様を別の部屋へお連れいたします」


 土礫精の一人、メイドの方に二人が連れられていく。

 執事の方はお茶の用意に厨房へと向かい、残るあたしたちはエフィの先導で三階へと向かうことになった。




 リビングを出るなりエフィがラキュアへと言う。


「ラキュアさん、ニカワちゃんは……?」

「そこよ」

「ワン!」


 廊下の隅でじっと座り込んでいた子犬が呼びかけに応える。

 ラキュアもペッグの助手として何回か島に来てるのだろう。ニカワも含めて、エフィとは面識があるということか。


「あらあら、元気そうで何よりですのね。よしよし」

「キュゥン」


 ニカワは尻尾を振ってエフィの手の中に飛び込んでいく。

 面識があるどころじゃないな、この懐き具合は。

 こうなるとまた飼い主が叫びだすぞ……。


「私より懐かれてる……私より!」

「え? ラキュアさん、嫌われちゃったんですの? 一緒に連れてくるくらいに仲良しなのに?」

「わ、私が呪われたから……悪魔に魂を売ったせいで呪われたからあああああ!!」


 ……何だか脚色がどんどん強くなってないか?


「大丈夫ですのよ! きっと一時的なことで、すぐに仲直りできますの! スーちゃんもそう思いますのよね?」

「無理じゃない? ずっとこの調子だもん。あの犬が懐くなんて想像もできないわ」

「ず、随分とバッサリですのね……!」

「あ、ごめん。本音が……」


 心無い言葉をぶちまけてしまったので素直に謝罪。

 幸いにもラキュアにはあたしの事情を説明済みだったので、ショックで泣き叫ばれるような事態にはらなかった。

 とはいえ、護衛対象のエフィには真っ先に伝えるべきことだったな。

 生まれつきの失声、プレーン能力、隠し事のできない特性。それらを一つ一つエフィに伝えていく。


「はわぁ……スーちゃんも色々と訳ありですのね。でも、いいんですの? そんな事情、エフィに言っちゃって……」

「いいのよ、そうじゃないと不公平でしょ」


 あたしと友達になってくれるって言ったのは嬉しいけど、あたしの事情を知らないうちからそう言われるのもな……。

 友達と呼ぶなら全てを知った上で、改めて呼んでほしい。拒絶されるなら傷口が浅い方がいい。

 ……あたしなりの気遣い、いやわがままだった。




 そんな話をしながら、気づけばあたしたちは二階を通り越して三階への階段までやってきていた。

 あたしたち来客用の部屋は全て二階に用意されており、トイレと浴室は部屋ごとに付属。リビングや食堂などの共用スペースは一階にある。

 特段の事情が無ければ三階まで進むことなく、この館の生活を終えることになる作りだ。

 その三階にあるのは長老だけの空間だ。館内の全ての部屋よりも広い自分だけの部屋が一つと、客室同様に付属するトイレや浴室。食事は部屋に持ち込まれるため、長老は一日を通して三階で過ごすという。来客とは対照的だ。


「お爺さんはもう体が弱っていて、階段を上り下りするほどの体力は残っていないんですの」

「遺産相続の話が出ている時点で何となくそうとは思っていたけど、本当に限界間近って感じなのね。期限は明日の昼までだっけ? そこまで持つといいけど……」

「もちろん持たせますの。そのためにエフィがいるんですのよ」

「え? エフィが!?」

「あれ? 聞いてないんですの?」


 エフィの仕事については何も聞いていない。

 ギルドの職員なのだから、頭を使うような何かしらのデスクワークなのだろうと適当に予想し、特に詮索するつもりもなかった。

 だが、正直に言ってその役割は予想外だった。


「お医者さんってこと!? だってそんな子供なのに! いや、あたしも子供だけど」

「ふっふーん、こう見えてエフィはエリートですのよ! 時にはうっかり屋根から滑り落ちることもあるかもですけど、ちゃんと安全な所に狙って落ちれるし怪我しても自分で手当できるんですの!」

「エリートはそんなうっかりしない……」


 ラキュアが小声でツッコミを入れる。

 もちろんそれはそうなのだが……エフィの体中を覆う包帯を改めて見てみると、そこには単なるうっかり以上の意味が込められていた。


「これ全て自分で巻いたってこと……?」

「もちろん。これくらいでわざわざ使用人さんのお手間を煩わせたりはしないんですのよ」

「これくらいって……」


 エフィの服の出っ張りを見ると、背中や肩の後ろといった死角に包帯の結び目があると分かる。

 そんな場所に自分一人で包帯を巻くのは容易なことではない。見た目の幼さとは裏腹に、恐ろしい器用さを兼ね備えているのだと痛感する。

 するとあたしの気持ちが伝わったのか、エフィは頬をほころばせた。


「スーちゃんが怪我したらすぐに言うんですのよ! エフィがすぐさま完璧な処置をしてあげるんですの!」


 そう言って誇らしく胸を張ると……。


「はわっ!?」

「危ない!」


 ズデーン!


「は、はう……あう……」


 ……階段を踏み外して転げ落ちていった。


「スティープル、怪我したらすぐに言う?」

「…………」


 ラキュアの問いかけに、あたしはとっさに口を閉ざす。

 『やめておこう。うっかり包帯で絞め殺されちゃうかもね』……なんて思えてしまったよ。




>>>>>>>>>>




 メイドの話によると、案内された部屋の本来の用途は使用人の休憩する部屋とのことだった。

 そんな部屋の中でチョキとペッグは運ばれた紅茶の湯気を見つめながら、しばらくの間は黙りこくっていた。

 話があると言い出したのはペッグの方だ。なのに言葉を発しないまま無下に時間を重ねていくのは、チョキからすれば気分のいいものではなかった。

 ここにいるのがクレイブや他の親族だったらとっくに怒鳴り声を上げていたに違いない。


「何から切り出せばいいものやら……」


 ペッグは迷いのある口調で切り出す。


「正直に言ってもらいたい……いやもちろん、正直に言ってもらえないであろうことは重々承知していますぞ。結局は私自身の分析力に委ねられるということに……」

「正直に言ってほしいなら正直に言うよー」

「……ふぅむ」


 チョキは真っすぐに相手の目を見つめる。

 それを受けてペッグは、ようやく決心したように話し始めた。


「チーム・ツーサイド……私が知りたいのはあなた方の依頼についてですよ」

「エフィの護衛だよー」

「それは“お願い”ではありませんでしたかな?」

「…………」


 ペッグの顔はいつのまにか真剣な表情へと変わっていた。


「私に知らせていない“依頼”があるのではないかと、そんな気がしているのですよ」

「それは名探偵さんの推理?」


 この時点で笑い飛ばしてやることもできたが、チョキは最後まで聞くことにした。

 いくらなんでも何の根拠も無い状況から探偵がそんなことは言わないだろう。笑い飛ばすのは、もう少し情報を引き出した後だ。


「わざわざ問いただしてくるってことは何かしら検討はついてるんだよね? どんな依頼なの?」

()()の依頼」

「…………」

「……いかがですかな?」


 再び沈黙の時間が訪れた。


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