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失声のスティープル  作者: 青山風音
第2章 矛先~Two-side Target~
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第34話 予想通りにはいかない

「た、助けろ! 早く助けろーっ!」


 ユキリの声がシザースの耳に届く。

 大きい声にハッキリとした喋り方は到底、怪我をしているようには思えない。それに加えて、声の聞こえてくる高さや、恐れや震えが混じっていないことから……。


(崖下に落ちたわけでも、落ちかけているわけでもないかー)


 仮にユキリが野鳥を追いかけて崖下に落下していったとしたら?

 責任はお付きの兵士三人にある。シザースが場を離れていたという事実もローエンビッツという証人がいる。護衛の依頼は失敗となるだろうが、それで責められるようなことにはならないだろう。散々、流れているマヌケな国王の噂も追い風だ。

 一方で暗殺の方は成功となる。ボラッサスは国王の死を喜び、スティープルも無事に解放される。極秘依頼達成の実績もつく。

 ユキリは死ぬことになるが、別にシザースはその程度のことを気にしないのでハッピーエンドだ。


(……そう、僕一人だけならそれでいい。国王様が死ぬまで待っているだけ。何なら泥だらけになって、動物に襲われていたことにしてもいい)


 シザースの足が止まった。

 ロンタール国の兵士が一人、血まみれで倒れている。うつ伏せの状態で背中には大きな槍。その下には助けを求め騒ぐユキリの姿。

 残りの兵士二人は剣を抜いたまま、倒れた兵士の名を呼んでいる。


「……大丈夫」


 思わず声が漏れた。


「大丈夫だよ、スティープル。君にとってのハッピーエンドは別にあるって分かってるからさー」


 仮にユキリが事故死したとしてもスティープルは納得しないだろう。シザースが裏で手を回したと疑う。シザース自身、疑われて当然ということをやってきた自覚がある。

 しかし、彼女はそこでシザース一人に責任を押し付けたりはしない。自分が思うように喋れないせいで相方に手を汚させてしまったと、チーム・ツーサイドの失敗を折半しようとする。彼女はそういう性格だ。

 彼女の今後の人生に遺恨を残し続けることになる。

 ──そんな物語はハッピーエンドではない!


「『デュアル・ブレード』!!」


 両手に剣を顕現させると駆け出す。その勢いのまま大きく飛び跳ね、剣を振るう。

 ──刹那、鈍い金属音が響き渡った。シザースが着地したとき、足元には剣に弾かれた槍が転がっていた。


「チョキ様!?」

「状況を説明してよ、あの鳥は何?」


 我に返った兵士たちとは目を合わせず、シザースは言う。彼の目線は槍の向かってきた先を見据えていた。

 そこには鳥と表された魔物がいた。

 赤と紫を基調とした色合いで、シザースの半分ほどの体長だった。頭部には花びらを象ったようなトサカがあり、羽の根元にはヒラヒラとした帯状の物質が垂れ下がっている。人間でいう祈祷師(シャーマン)だった。

 野鳥観察(バードウォッチング)をしていた国王様は、珍しい鳥を見つけたのでついちょっかいをかけてしまったのだろうか。そんな予想を立てながらシザースは兵士の返答を待つ。


「き、危険です! ここは我々に任せてチョキ様は──!」

「ねぇ」


 シザースが振り向く。

 次の瞬間……彼は兵士に剣を振るっていた!


()()()()()()()()()()()()()?」


 切り払われた前髪がパラパラと舞う。

 その向こう側には、実に退屈そうな表情を浮かべている少年の赤い瞳があった。


「あ、ま、魔物……鳥……」


 兵士の唇は震えていた。彼は今、自分が大きな誤解をしていたことにようやく気づいたのだ。

 目の前にいる少年は、国王様のご機嫌取りに派遣されたわけではなかった。ギルド・カートリッジが自信をもってお勧めするほどの、れっきとした戦闘員だった。

 そして同時に……人としての心がどこか欠けていた。

 何とつまらなさそうな目をしているのだろう。少年が欲しい答えを返せなかった自分に、強い失望の念を抱いているのは明らかだった。


「ホッホッホッ」


 この場に不釣り合いな笑い声、シザースが反応する。言葉を発したのは件の鳥だ。


「説明が必要なら私に聞きなされ。人間の偏った思考回路では誤解を招いてしまうからのう。私はダフマ……人間からは堕封魔鳥(だふまちょう)と呼ばれておる」

「わー、言葉が通じる魔物で安心だよー!」


 堕封魔鳥。冥府に堕ちた悪魔神に魅せられ、信仰のために魔物と化した鳥類。悪魔神復活のためには汚れた人間の魂が必要だ、というのが彼らの主張である。すなわち罪人を襲撃して生贄に捧げることで、その魂を冥府の悪魔神に届けようと目論んでいるのだ。

 ……もちろんシザースやチョキはそのようなことは知らない。


「その者どもは野山を荒らし、私たち鳥類の平穏な生活を脅かした。何という重罪、何という逸材。そのような者を私は待っておったのだよ……!」

「うーん? なんだかすごくウキウキしてるねー。僕はどうなのかな?」

「汚れを知らぬ女・子供を生贄に選ぶ種族もおるが、私の場合は違う。お前は生贄には適さないな」

「昨日の夕食で出てきた鶏ガラスープ美味しかったなー」

「ようし、お前も生贄だ!」


 もちろん最初からシザースに逃亡の意思は無い。彼はユキリを守るためにここへ来たのだから。そのうえで自分を真っ先に狙ってくれるならユキリの安全が確保できる。


「『金舌(メタリングァ)』!!」


 ダフマの口が開き、光を発した。

 その光は粒子となって舌の表面で固形化していき……次の瞬間、槍へと変わる!


 ガギィン!


「なにぃ……!?」


 だが、シザースの双剣は放たれた槍を弾いてみせた。

 二発、三発。後続の槍も同様に次々と防いでいく。


「し、信じられん……チョキ様が……!」


 兵士の一人が思わず声を漏らす。

 大の大人をあしらうほどの敵の攻撃を、年端も行かぬ少年が軽くいなしている。

 それだけではない。普段から剣を使う兵士たちだからこそ、シザースの握る剣の不自然さに気づく。

 鞘のない抜き身の状態。二本ともに寸分違わぬ見た目。槍を受け止めながら一切の刃こぼれも無い。

 少年に勝るとも劣らぬほどに、あの剣もまた普通ではない!


「…………」


 彼はそのまま一歩、また一歩と慎重な足取りでダフマの方へ向かっていく。

 張り詰めた緊張感に、後方で見ていた兵士たちも息を飲んだ。




「さっきから何やってんだよ! マジ重てぇんだよ、おい! 早く助けろって!」

「っ!」


 空気を変えたのは苛立ったユキリの叫び声だった。

 二人の兵士はいずれもシザースとダフマに圧倒されていた。唯一、冷静だった兵士も主君の盾となって戦闘不能となった今、ユキリのことが完全に頭から消えてしまっていたことに誰も気づかなかったのだ。

 槍に倒れた仲間の体を動かし、下で呻いているユキリを解放する。

 ようやく窮屈な思いを脱したユキリはキョロキョロと周囲を見渡し、殉職した部下の勇敢なる姿を一瞥すると……。


「下山するぞ! あっちだな! 水筒は死んだ奴(そいつ)が持ってるぞ!」

「ユキリ様!? お待ち下さい、下手に動くのは……」

「あの鳥は殺しておけ!」


 何事も無かったように走り出していった。


「……参ったなー」


 思わずシザースが溜息を漏らす。


「そっちは逆方向だよー」


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