吸血鬼と悪人の空中座談会
ジョージはダッシュで血痕を辿っていく。
(血痕が、無くなった……)
しかし、ある一定の所から急に血痕が無くなっていた。
「ちっ……。こりゃあ……」
ジョージの舌打ちが響く。
その理由はすぐに明らかとなった。
ここはスラムや市街地からはかなり離れていて、建物すら無いエリア。
ーーーあるものと言えば目の前に広がる広大な森林。
しかし、もうこの森に入ったとなると、見つけるのは恐らく困難だった。
それに、まだ探すにしても、さすがに俺の体力がもう保たない。
「ぐ……。くっ……そぉ!!」
俺はジョージの背中で拳を握った。
「ジョウチン」
「オリヴィア……お、俺は……お前を……助け、られ……」
「ジョウチン」
「俺は……」
「ジョウチン!」
「……っ!」
ジョージが俺の言葉を背中越しに遮る。
しかし、その声色はなぜか嬉しそうだった。
そして、俺の腕に、ポタリと血が落ちてきた。
ーーー血が、落ちてきた?
「へっ。諦めるのはまだ早いみてェだぜ。……ほら」
そう言うと、ジョージは空を指差す。
ーーーそこにいたのは。
ーーーオリヴィアを背負った吸血鬼と、首を掴まれて宙吊りにされたペイジだった。
「俺さ。この娘の護衛の話をレスター卿から受けた時、嘘を吹聴して領地の民を焚き付けたのは、誰かって気になってたんだよね」
「ひっ……ひぃぃぃーーー!!」
ペイジはあまりの高さに恐怖の声を上げる。
「そしたらさ。その噂流したの、お金に困った母子家庭の娘だったんだ。お母さんの病気の薬を買いたかったんだと。村が混乱すればお金が盗めるから、別に理由は何でも良かったんだって」
「や、やめてくれ……」
「それ聞いちゃったらさ。なんだか怒りの矛先、………どこに向けたらいいか、わかんねーじゃねーかよ!!!」
「ひぃいいい!!」
「まぁそんで、そんな『誰も悪くない悲しき物語』に浸って涙してた所に、お前みたいなゴミクズに罪の無いオリヴィアが拐われて、反乱軍に売り渡されて手籠めにされるかも、って胸糞展開見せつけられたわけ」
「お、降ろしてくれぇ~!!」
「その罪により、もう一発打ち上げまーす」
そう言うと、吸血鬼はペイジの顎をデコピンで打ち上げた。
「ぶっっっふぇっ!!!」
10メートルほどさらに上空へ上がる。
それを吸血鬼は翼で追いかけて、改めて首を掴む。
「しかも女殴るとか、俺的には胸糞レベル5だったから殺してもいいんだけどなぁ~。あ、ちなみに胸糞レベル5ってどれくらいかって言うと、『母親と同居する交際相手に子供が殺されたニュース』を見た時と同じレベルね」
「や、やめて……」
「子供を愛せる覚悟が無いんだったら……一緒に住んだりとか………!!してんじゃないよーーーー!!!」
その怒りに任せて、男の顎をさらに上空へ向けてデコピンする吸血鬼。
「べっっっっふぇ!!」
さらに10メートルほど上がる。
いよいよ落ちたら100%助からない距離になった。
「まぁお前に言ってもしょうがないけどさ。でも、女や子供に暴力振るっちゃいけないよ。そんなことする奴にはなぁ……!!同じ目に合わせてやりたいって、国民は思ってるぞ、この野郎ーーー!!!………あ、ヤベ」
「う、うわぁぁあああ!!!」
ペイジはそのまま落下してくる。
「やべえ!ぶつかる!」
ジョージが慌てて一歩下がる。
が、その瞬間、吸血鬼が急降下してきて、地面スレスレで再びペイジの首を掴んだ。
すでにペイジは涙やら鼻水やらでぐしょぐしょだった。
「わーお。ジョウチン大丈夫?」
少し浮きながらこちらを見て吸血鬼が呟く。
「だ、大丈夫じゃ……ねぇ…」
「まぁ大丈夫大丈夫。死なないよ」
「なに…を……根拠……に」
「それより、こいつどうする?俺がこのまま空中30メートルまで上がって、『収入格差嫉妬禁止ボム』食らわして終わらせても良いんだけど」
「い……いや……おれ…が、ケジメ、付ける……」
そう言うと、俺はジョージの背中からゆっくりと降りる。
そして、工場から拾って背中に担いできた散弾銃に手をかけた。




