そして村を救う旅へ
村を出る時、老婆や村人がみんなで送り出してくれた。
村の入り口にボーっとしながら空を見上げるさっきの男がいたので、背後からこっそり近づいて話しかける。
「夢オチとかじゃないよー」
「うっ、うわぁぁぁ!!!」
俺は座り込む男にしゃがんで話し始めた。
「お前も仕事だってのはわかる。ただ、村人を殴ったり蹴ったりするのはよくないよ。そんなにお前が偉いわけじゃないだろ。だから、仲良くしようぜ」
そう伝えると、男の額に手を当て、"眷属印"を刻んだ。
この"眷属印"を施された人間は俺が言った『特定の指示』に従わざるを得なくなる。
眷属とは言うものの、手下にするというより、指示した内容を遵守する以外は普通に行動できるため、『これだけは絶対守ってほしい』という約束をさせるために施すことが多い。
「う………」
印を刻まれる妙な感覚に不快感を示す男。
この眷属印のデメリットは、刻まれた部位に痛みとは違う変な不快感があり、施されている間、いや~な感じが続くらしい。(昔施された奴談)
「気持ち悪っ!しかもなげーよ!!」
そして、3分かかる。
「お前1人消えた所で帝国は新しい税収者を雇うだけだ。次、ここの村人に手を上げたり、さっきお前が"距離"を買った食糧を持ってこなかったりしたら、その時は……」
不満を漏らす男に、改めて一応釘を刺しておく。
「ひ……」
「『デコピンツアー・空中100メートルの旅』にご招待するからね」
「わ、わかったよ……」
「それと、お前に命令だ。『この村の人間に手を上げるな』。それが俺とお前の契約だ。……試しにさっきみたいにおばあさんに手を上げてみ?」
「あ、あ?……いいのかよ?」
「うん。おばあさんの交渉、ムカついたんでしょ」
「ま、まぁな。……ババア食らえや!!『マサオバスターーー』!!!」
「名前マサオっていうんかい」
ーーーーバヂバヂハヂバヂ!!!
「ギ、ギェエエエエアアア!!!!」
男は契約違反の罪で印の罰が下った。
「ね?ちょっとでも手を上げようものなら死んじゃうかもしれないから気をつけてね?おい、聞いてんのか!マサオ!」
マサオはうつ伏せでピクピクしていた。
こうして眷属印も無事施した俺は、村人に「また来るわー!」と手を振り、歩き出した。
こうしてプニプニパンパン港へ向かうことになったが、俺は改めて自分の境遇を嘆いていた。
(ってか……結局死ねなかったし、なんか流れで村とか助けることになっちゃったし……)
ふと横を見ると、30メートルほどの岩山があった。
俺は翼で飛び立ち、山の先端につま先で立つ。
(もしかしたら、不死身の特性は解除されてるかも……。これで死ねるなら……)
そう考えて俺は両手を広げる。
(もし死んだら、婆さん、ごめんね……)
そう謝罪すると、俺はダイブした。
ーーーみるみる地面が迫ってくる。
さらに地面には鋭利な岩が飛び出している。
(あれに貫かれれば……!)
ーーーそして岩は俺の腹にめり込み、背中へと抜けていった。
「おぶぁっ!!」
不死身なので貫通の痛みは無いが、腹部に感じる急な違和感に思わず声を上げる。
が、結局それまで。
俺は貫通した腹の片側を裂くと、そのままゴロリと仰向けになる。
その瞬間、みるみる肉体は再生していった。
そして、スゥーーーっと空気を取り込むと、全力で叫ぶ。
「くそぉーー!!お願いだから誰か俺を殺してくれよぉーーーー!!!うわぁぁぁあああ!!!」
大声を上げてジタバタしていると小石を蹴ってしまった。
「いってぇーーーーーーーー!!!」
するとその小石が、前を歩く少年の頭に命中してしまった。
「あ、ごめん」
俺は慌てて立ち上がると、ハンチング帽の頭を押さえてうずくまる少年の顔を覗き込んだ。
年齢は15〜16歳くらい。白い肌に金色の髪、さらに緑色の瞳が特徴的な少年だった。